XX 9 XX 毒を紡ぐ人魚(裏)
~シアン視点~
(ッ――ルチアーノ!!!)
川の中、離れていく彼女の右手の感覚に焦り、すがりつくように彼女を抱きしめる。
崖から落ちる時は彼女に守られるように抱きしめられていたが、今度は僕の方が彼女を守るように抱きしめる。その状態のまま急いで学生証にもなっている能力制御の腕輪を操作し、自分の姿を本来の人魚の姿へと変化させ、能力を開放する。彼女と自分を包み込む大きな『泡』を出現させ、なんとか呼吸を整える。
「ルチアーノ!?」
彼女はか細いながらも息はしているが、意識はないようだ。
川の流れが早く、何度も突き出た岩に背中が叩きつけられ、思わずうめき声が漏れる。
自身の髪と同じシアン色のウロコで覆われた尾ひれから血が流れているのが見えたが、感覚は相変わらず全くない。背中やこすれたえら状の耳の痛みとは違い、感覚のない尾ひれに苛立ちと――焦りが募る。
「おい、何してるんだよ、僕」
感情が不安定で、声までが情けなく震える。
ルチアーノの症状から、彼女が僕の血の毒で苦しんでいるのは明白だ。このままだと、彼女が僕のせいで死んでしまう――
(早く解毒しないとっ!!)
流れが緩やかになる下流に着くまで解毒をしないで待っている時間はない。でも、この急流の中、解毒は不可能……。
(そう、分かってる。どうしなきゃいけないかなんて)
――僕が彼女を岸まで運ばなきゃいけない――
解毒をするためには一度岸に上がる必要がある。
(分かってはいるんだ)
すごく簡単な答えで――でも、僕にとっての一番の難問。
(泳げない僕にとっては到底――)
無理という言葉を振り払うように、頭を振る。
能力で出来た『泡』は中に空気が入った状態だが、ただの気泡と違って浸透性が高く、水を通す。昔はその水の中にいる感覚というものが好きだったが、今はその絡み付く水の流れが邪魔だ。
この水の流れさえなければ、解毒できるのに! そもそも、ここが魔力嵐が吹き荒れる土地じゃなければ能力じゃなく魔力を存分に使って彼女を岸まで運べたのに!
そんな『もしもの世界』ばかりを考えてしまう……。『もしも』なんて考えをしたところで現状は変えられないのに……。
「これは――僕の招いたことだろ」
僕の声と連動し、泡が少し縮む。気泡と同じで空気が入った泡だ。当然息をするだけよりも言葉を発した時の方が消費は早い。
こんな時なのに――いや、こんなどうしようもない状況だからかもしれない。涙が止まらない。急流に飲まれながらキラキラと辺りに散らばるのは白くて硬い球体の涙。
「動いてよ。僕の足」
自分でもか細いと思う声が魔力の泡の中で消える。
「彼女を助けるんだろ? 助けたいんだろ?」
やはり尾ひれには感覚が無い。彼女の呼吸がより一層浅くなっているのが分かる。
体が――冷たくなっているのが分かる。
「動いて――動いてよ」
願いが急流に飲まれていく。
涙が止まらない。助けたいのに助けられない。
目の前が真っ暗になった気がした。
「動けよ――!!!」
能力で出来た泡がビリビリと揺らぐほどの大きな声が出る。
―― 彼女を失いたくない ――
彼女は僕に希望をくれたから……
―― 彼女を助けたい ――
彼女は僕を必要としてくれたから……
―― 彼女を守りたい ――
僕が彼女を…………
~シアン視点END~
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はい、ルチア達の危機的状況を3話も(2週間も)続けてすみません。
早く次の話に進めよ!と思っている皆様方、どうか、宇宙よりも広い心でもう1週間だけお待ちください。
次話はルチアの行動のおかげでシアンにとっては非常に困るけどおいしい状況(?)になっています。
そんなわけで、次話からはニマニマとしながら眺めていただければ嬉しいです。
また、この間初めて感想をいただきテンションMaxになっていました。
感想を下さり、本当にありがとうございます。
今後も皆様に面白いと思っていただけるような作品になるよう、執筆を頑張っていきます!!
それから、現在、シアン攻略章ということで、変態さんのギャグチックなノリがなかなか出せず、作者の方が寂しい思いをしております(笑)
そんなわけで、先日、エイプリルフールネタということで番外編を作成いたしました!!
よろしければ、そちらの方もよろしくお願いします。
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