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虐げられた者達の救出 後編

 一方こちらは、少女剣士の姿のユコの方。

コウと同じ様に地下牢へ運ばれ、女性達の中へと放り込まれれる。

少年姿のコウよりは扱いが丁寧であったが、やはり人を扱うと言うより、物として扱われている節が見え隠れしている。

こちらもコウと同じく、御仲間だという声と共に、彼女達の中へ入れられる。

薄暗く、だっだ広い牢の中で、女性達が怯えながら寄り添っていた。

只…入って来た新入りの姿を見て、居た(たま)れなくなった一人が声を掛ける。

「…可哀そうに…。

貴女…こんなに小さいのに、あんな奴等の欲望の犠牲になるなんて…。」

精霊の感覚では目の前の少女の姿は、まだ子供でしかない。

その光の精霊らしき女性の声に少女は目を開け、上半身を起こして辺りを見回すが、その目に怯えは見えない。

剣士らしい…いや、騎士らしい鋭い光を宿し、敵を捜す様に周りを見回す。

同じ種族である為、情報を共有する事の出来る闇の龍から、拉致されている精霊達の中に間者がいる事を知らさていた。この事で、同じ様な場所であるこの場所にも、そんな輩が潜んでいる事を想定しての行動であった。

少女の行動に、驚きながらも、先程の女性が彼女に告げる。

「…その枷がある限り、何をしても無駄なのよ。

私達の力を打ち消して、無力にしてしまうの。」

言われれ自分を見る少女には四肢に、黒い腕輪が付いていた。これに気付いた少女は、呆れ返った表情を浮かべる。

「ほんと、子供騙しね。リシェア様から(うかが)った通りだわ。」

溜息を()いて枷を見つめる少女の言葉に、諦め顔だった精霊達が反応する。

「…今…何て…言ったの?

リシェア様って…あの、行方不明の神子様の名じゃあないの?」

「そうよ、リシェア様が見つかったの。

あの方は今、この屋敷にいるから、何も心配ないわ。もう大丈夫よ。」

精霊の声に、微笑を添えて答える彼女に対し、精霊達が恐れ(おのの)く。

「待って、リシェア様がここに居るって事は、彼奴等の犠牲になるって事なのよ。

貴女…如何かしてるわ。」

大きな声で叫ぶ精霊へ、光の精霊剣士が反論を言おうとした時、闇から何者かが出て来た。


「ユコ、遊んでないで、早く精霊達を外へ…って、ここにもいるんだ。」

闇から出て来た黒髪黒目の少年に、精霊達は驚きを隠せない。

少女と同じ様に、両腕両足に枷を付けて平然と歩いて来た上、辺りを見回し何かを見定めた。彼の気配を感じた少女は、座り込んだままで精霊達の方を見て、左手の人差し指で何かを示す。

「コウ、あそことあそこ、こことここにいるでしょ?」

一人一人指差しながら確認を取る少女へ、少年は頷く。これが終ると、指差された人物は光の綱に囚われ、一塊となった。

全部で四人の内通者を見つけ出した少女は、黒い枷で体の自由を奪われる事無く、普通に立ち上がり、捕えた者達へ歩み寄った。

この姿に集められた女達は、驚愕の眼差しで、震えながら少女を見つめる。

「お馬鹿さんね、あんな輩の手先になるなんて…。

ああ、そうだったわね、あの輩と同じ一族なら当たり前ね。」

そう言って少女は己の右手を上に上げ、その手に光を集める。そして、その光が間者達を包むと、大きな美しい鳥籠が出現した。

「…何だ、今回のは結晶じゃあなくて、鳥籠か…。

ユコ、奴等に動き回れる自由なんて慈悲、くれてやる必要ないよ。」

辛辣な言葉を吐く少年へ、それ以上の言葉が返って来る。

「コウ、確かに自由に動けるけど、柵には触れられないわよ。邪気や罪がある以上、大火傷するから。

それと…床にも少し、仕掛けがしてあるから…ね。」

この言い草で、鳥籠が結界と判った彼女等は、大きな声を上げようとしたが…声を上げられず、息苦しくなるだけだった。

この様子に少年も納得した様で、残された精霊達に目を向ける。

未だ怯え顔の精霊達へ、溜息を吐く。

「ったく、僕達の力を見て怯えられても、嬉しくないよな。」

コウの口から出た言葉に対し、ユコの鉄拳が頭に降り注ぐ。

「コウ、無体を強いられてる女性なら、当たり前でしょう?

あ…御免なさい、わたし、まだ名乗ってないわ。わたしの名は黄龍(こうりゅう)のユコ、こっちは緇龍のコウよ。」

「……え…御二人共、神龍様なのですか?それでは、私達は…」

教えられた名前で、彼等の正体を知った女性達は、驚きながらも安心した様な顔となった。

「助けに来たのよ。だから、今からここを出ましょうね。」

こんな遣り取りがされている横で、ユコの鉄拳に頭を抱えたコウは、文句が言えな程悶絶していた。何時もと違う、半ば本気の制裁に成す術も無かったのだ。

漸く痛みが治まった頃、闇の神龍は、光の神龍へ声を掛ける。

「っ痛、ったく容赦なんだからな…黄龍は。で、彼奴等は如何する?」

「勿論、リシェア様の制裁待ちよ。特別に厳しい罰を(ほどこ)して貰うわ♪」

楽しそうに会話する神龍達に、精霊達も頷いた。そんな中、ユコはふと、何かを思い当たった。

「この中で妊娠している人は、いませんか?」

瞬間移動の際、お腹の子供に影響があるといけないと思い、掛けた言葉に誰もが首を横に振る。

不思議に思っていると、一人の精霊から声ががる。

「ある御方から、避妊の薬を頂いていました。精霊にも効くと言って、渡してくれたのですが…その方の姿が見えないのです。」

心配そうな精霊に、神龍達はその人物の名を尋ねると…聞き覚えがあり、良く知っている名でもあった。

「ケフェル殿です。

自分は、ディエアカルク・クェナムガルア・リデンボルグだから、私達が受けている恥辱を見過ごす事が出来ないと言われました。

ですが、今は何も出来ないから、せめてもの救いにと、あの輩に知られない様に避妊薬を渡してくれたのです。」

この名を聞いた神龍達は一瞬驚き、お互いを見合わせて微笑んだ。

「あの方なら、無事な姿で、真の主の許に居らっしゃいますよ。

後で会えますから、ご心配は要りません。」

光の龍の言葉に安心した精霊達は、神龍達の力により、牢の外へ助け出された。後は、男性の精霊達と同じく、精霊騎士達の手で、神殿で保護された。

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