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龍神の輝石

 各々が部屋へ入り荷物を整理した後、彼等は一同に屋敷の居間へ集まった。

ここでノユは先程言っていた、リシェアオーガの神官用の服を彼に渡した。その服を見分して、彼は己の神官となったカルダルアへと手渡す。

新しい神官服を手に取ったカルダルアは、その服類の装飾を確認した。

略式な物と正式な物。

略式な物には太さの違う、二本の金色の縁取りと紫の縁取りがあり、正式な物には金色一本と紫の縁取りと、蜷局(とぐろ)を巻き、前を見据える金色の長龍が描かれている。

装飾品もあり、それ等にも金色の龍が用いられ、短剣もある。

新しい神官は戦の神であり、神龍王でもあるリシェアオーガらしい装飾に、感慨を覚える。そして、正式な物を置き、略式な物を手元に残すと、いそいそと廊下側の扉へと向かった。

「オーガ様、早速、着替えて来ます。」

「神官殿、こちらの扉から隣の部屋へ行けますよ。

それと、もう一つの衣装は、お部屋へお持ちして置きますね。」

一礼をしてこの部屋から退出する前にノユから声が掛り、促された部屋へ急ぎ足で向かうカルダルア神官。

神官を見送ったノユの方も、一旦部屋から出て、残った衣装を置きに部屋から出て行き、直ぐに帰って来た。数分後、着替え終わったカルダルアが戻り、既に帰っていたノユを含めた神龍達と、リシェアオーガが出迎えた。

新しい正神官が着る服に袖を通したカルダルアは、戸惑いながらもリシェアオーガの傍へ戻る。自分の処へ帰って来た神官に、リシェアオーガは声を掛ける。

「カルディ、良く似合っている。あ…と、これを付けた方が良い。」

彼が着けているのは、蛇行した長龍の肩飾り。その替わりに服の装飾と同じく、首をこちらに向け、蜷局を巻いている長龍の物を着ける。

この飾りに神龍達も驚いていた。

それは彼等が、前々から用意していた神龍王の物で無く、同じ色をしているが全く異なる長龍の物。

正面を向き、威嚇している様な姿の龍に目を見張った。リシェアオーガらしい形ではあるが、それから感じる気配は紛れも無く、神聖な物であった。

「我が君、若しかして…其れは輝石ですか?」

意を決してエルアが尋ねると、リシェアオーガは頷いた。しかし、彼等が見た事がある彼の創る輝石は、青色の物のみ。

水の神であるウェーニス創る物に似た輝石、空を映した水を(ラールウェーリレム・)湛えた水晶(クルーレア)と呼ばれる物だけ。

だが、この龍には、金色の輝石も存在している。見覚えの無い輝石に見入る彼等へ、リシェアオーガの言葉が返って来る。

「父上に指摘され、もう一つ作ってみた。父上の輝石を手本に何度か挑戦して、やっと納得の行く物が出来た。

…不思議な事だが、これは光の性質を持つ。我が龍身と同じ故に、名は龍神の輝石(リシェラム・ラザリア)と名付けられた。」

神龍王であるリシェアオーガには、他の神々に無い、長龍の姿がある。

これは彼の本来の姿で無い為、それになるのには己の力を使い過ぎると言う欠点があったが、昼夜で金と銀に体色が替わるという性質を持つ、紛れもない光の龍の姿である。この事を考慮して付けられた輝石の名に、周りも納得する。

その中で一番最初に口を開いたのが、風の神龍であった。

「龍神の輝石ですか…我が君らしい名ですね。」

「ほんと、綺麗です。ね、コウ。」

「ん、綺麗だ…。という事は、神官服の装飾品も替えないと…。」

コウの意見にリシェアオーガは頷き、前以て作って置いた幾つかを取り出した。

首飾りと肩の飾り、額飾りだけが新しくなっていた。

「剣と服の装飾は、これと同じになっているから問題は無い。

後、剣帯の方は形が同じで、材料を輝石に替えて作ってある。」

輝石で作られた鎖と、龍を象った物の二種類を出して、カルダルアに渡した。鎖の方が略式な物、龍の形の方が正式な物だった。

身に着けていた鎖を、今渡された略式な物に取り換え、元のそれをリシェアオーガに返す。己が神の輝石で止められたのが嬉しいのか、神官の右腰で誇らしげに輝く短剣が、神龍達の目に映る。

正式な神官服と、自分の仕える神の輝石に飾られたカルダルアは、心からの微笑を浮かべていた。

「これで…正式にオーガ様の…リシェアオーガ様の神官に、なれたのですね…。」

感慨深く言うカルダルアに、周りの者は頷いた。リシェアオーガの初めての神官は、周りの神龍達の祝福と信頼を、その細く小さな体で受け止めていた。

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