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王宮への訪問

 翌日、二人の兄と共に起きたリシェアオーガは、朝食を終え、仕事に向かう兄達を見送った。その後、国王とのお茶会に間に合う様、神子(みこ)の衣装に着替え、エルアとルシナリス、アンタレス、コウを従えて、王宮へを向かう。

神々の祝福を生まれながらにして受けた姿をしている、二人の騎士を従え、白い神子服に包まれたリシェアオーガは、風の神龍の力で王宮の門前に訪れる。

突然現れた五人の人物に門番は驚いていたが、既に王宮の近衛騎士が二人、そこで待機していた。

「ようこそ、御越し下さいました。光地の神子様でいらっしゃいますね。

初めまして、私はエーベルライアム陛下とコーネルト将軍から、御迎えを命じられたカルフェムルと申します。」

「ようこそ、リシェア様。

コウ様とエルア様、アンタレス様にルシナリス様も、ご一緒ですか?」

一人は初対面であったが、もう一人はアーネベルアに仕える、光と炎の精霊剣士であった。顔見知りという事もあって、名を呼ばれた少年は、微笑を浮かべる。

「フレアムともう一人の騎士の迎えか…有り難いな…。」

ぼそりと、独り言を言った神子は、彼等へと声を掛ける。

「フレアム、出迎え、御苦労であった。

そちらの騎士は、カルフェムルだったな、初めて、御目に掛る。私は光地(こうち)の神子で、名はリシェアと言う。

フレアムと一緒に、案内の程、宜しく頼む。」

神子としての口調で話す少年は、敢えて後ろの名を名乗らなかった。

リシェアと言う名だけでも、十分神子と知れ渡っているし、オーガという名は、この国での厄災でしかない事実を考慮しての事だった。

行方不明だった神子が訪問した事だけを、強調する為の名乗りで、レナフレアムは、裏にある事柄も理解していた。

彼の姿は以前と異なり、光の神の特徴を受け継いだ姿。

光の神の祝福を受けた者では無く、光の神の血を受け継いだ者だという事を主張する為に、光の神の腹心とも言える精霊騎士と、大地の神の祝福を受けた精霊騎士を連れ添っている。

勿論、闇の精霊騎士に擬態した闇の神龍も傍にいて、風の精霊騎士に扮した風の神龍は、運搬役と他の者には認識された様だ。

事実は、仕える神のお供の代表である、二人だったのだが………。



 そんな遣り取りが門前で行われている頃、王宮の広大で美しい庭では、簡単なお茶会の用意がされていた。

国王であるエーベルライアムを始め、その父親であるマーデルキエラ公のセルドリケル、その父親の友人であり、騎士でもあるレントガグル候のマルディークァとコーネルト公のアレントベア…。

勿論、エーベルライアムの傍には、腹心の部下達である炎の騎士と、宰相であるラングレート候が控えている。

この豪華な面子が集まり、簡素なお茶会が開かれようとしていた。

「…何で、儂等(わしら)まで、駆り出されるんじゃ?

隠居している身で、王宮の呼び出しとは…。」

国王たる息子の呼び出しに、不服そうな顔で呟く父親を宥める息子の声が、静かな王宮の庭に響く。

「父上を御呼びしたのは、他でもありません。神々が大切になさっている神子様が、この国に来られたのですよ。

見たくはない…ええと、御会いしたくはないのですか?」

父親であるマーデルキエラ公の文句へ、エーベルライアムは、本心が出そうになりながら、神子が来る事を伝えるが、帰って来たのは、とんでも無い答えだった。

「別に…会いたいとは思わなんだが…。

堅苦しい神子様に会って、如何するって言うんじゃ?」

返って来た物に、エーベルライアムは脱力するが、周りは似た物親子と取っていた。更なる反撃を試みて、彼は父親に告げる。

「大丈夫ですよ。神子様は、光地の神子様です。

あの、堅苦しい事が一番御嫌いな、光の神の御子(おこ)ですよ。ね、べルア、バート。」

主君の呼び掛けに二人は頷き、主の許可を受けて彼等二人が、マーデルキエラ公に進言する。

「神子様は、父神のジェスク様に、本当に良く似ておいでですよ。

生誕祭の一件を御存じでしょうか?あの件は、神々と神子様達が中心となった、ほんの些細な騒動です。」

「マーデルキエラ公爵様、アーネベルア様のおっしゃる通りです。

あの件は、この国の為にと、光地の神子様方と神々が起こした騒動……(ささ)やかな悪戯(いたずら)ですよ。」

我が子に仕える二人の臣下から、告げられた言葉に考え込んだマーデルキエラ公は、一旦口を閉ざした。そして、思い出した事柄で、再び口を開く。

「で…陛下、その神子殿は、御美しいのですか?」

(わざ)と我が子では無く、国王として扱う父親に苦笑しながらも、エーベルライアムは率直に答える。

「御美しいですよ。流石、光の神・ジェスク様と大地の神・リュース様の御子です。

聡明で御美しく、御可愛らしい方ですよ。」

美しいだけで無く、可愛らしいと告げられて、セルドリケルは驚いた顔を向ける。

「可愛らしいとな?」

不思議そうな顔で質問されたエーベルライアムは、神子の年齢を答える。

「ええ、まだ20に満たない年齢の御方ですので、見た目も含めて、御可愛らしい方ですよ…。ほら、噂をすれば、何とやら。

御本人が御到着されたみたいですよ。」

扉を叩く音と共に、侍女の声が聞こえる。件の神子の到来を告げるそれに、エーベルライアムは入る様、促す。

扉が開き、侍女と騎士達が連れて来たのは、見事な金髪の少年と、それぞれ違う髪の色をしている四人の精霊騎士だった。

確かに美しいと映る顔に、レントガグル候とマーデルキエラ公爵は、一瞬怪訝そうな顔をしたが、直ぐにそれは消えた。

神子の傍に控えている精霊騎士の姿に目が止まり、警戒を解いたのだ。

二人は邪気に操れない姿…生まれながらにして、神々の祝福を受けた者達と、光の神の腹心たる者と闇の神に仕えていた者。

この四人が神子を護る様に囲み、優しげな微笑を神子へ送っている。神子の方も優しげな微笑を湛え、エーベルライアム達を見つめていた。

「急な訪問とは言え、此方の我儘で、この様な席を設けて頂き、有難うございます。

初見の方もいらっしゃるようですので、改めて挨拶を。

初めて、御目に掛ります、光の神と大地の神の子供で、リシェアと申します。」

丁寧な挨拶を受け、この中で最も身分が上であるエーベルライアムが、この場にいる者達を紹介する。

「リシェア様、こちらの3人は、如何しても貴方に会わせたくて、来て貰いました。

手前の金髪の者はマーデルキエラ公爵、その右隣の紅い髪の者はコーネルト公爵、左隣の薄い水色の髪の者はレントガグル候ですよ。」

国王の紹介を受け、三人の壮年の男性が、それぞれ自己紹介を始める。最初に口を開いたのは、この中で一番地位の高い、マーデルキエラ公爵であった。

「初めて、お目に掛ります。セルドリケル・シリアラムト・レアフェア・ファニア・マーデルキエラと申します。

生誕祭の時は、国王がお世話になったようで…お礼を申し上げます。」

敢えて、エーベルライアムの父親である事を隠し、挨拶を告げるセルドリケルに続き、紅の髪の人物が挨拶を告げる。

「光地の神子様、初めて、御目に掛ります。私はこの方に仕える騎士の一人、アレントベア・ラルハートル・サレン・コーネルトと申します。

…現役からは引退してますが、この方の騎士には、変わりありませんよ。」

未だセルドリケルの騎士である事を強調する、アレントベアの後に、薄水色の髪の人物も挨拶をする。

「初めまして、光地の神子様。私もこの方に騎士で、マルディークァ・ディガン・レントガグルと申します。

公と同じく、現役からは退いておりますが、この方の騎士のままです。」

二人共、未だセルドリケルの騎士と告げる事は、彼が何者であるか、リシェアオーガにも何と無く想像が出来たが、それよりも紅の髪の男性の事が気になった。

かの男性の名を聞いたリシェアオーガは、休暇中の筈なのに何故か、エーベルライアムの傍に控えている炎の騎士を見る。

彼の服装は近衛騎士服で無く、紅の騎士服であった。

そんな彼から再び、その男性に目を移し、何度か見比べて言葉を発した。

「不躾とは思いますが、少し尋ねても宜しいですか?」

神子の言葉に周りが頷き、それを確認すると疑問を口にする。

「紅の髪の方…アレントベア殿。

先程の挨拶で、家名がコーネルトと(おっしゃ)っていましたね、若しかして貴方は、炎の騎士殿の血縁の方なのですか?」

以前、会う事の全く無かった、アーネベルアの父親を思い、そう尋ねると、案の定、肯定の言葉が返る。炎を思わせる紅の髪と紫の瞳の男性は、炎の騎士に似ていた。 

親子と言われても、納得する彼等の姿をリシェアオーガは、優しい微笑みを浮かべながら見つめていた。

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