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大地の祝福を受けた精霊

 部屋に着くと、大勢の精霊達が彼等を出迎えた。

その中には、改革の時に会った事のある精霊騎士達を始め、神龍達と見知らぬ精霊でごった返していた。

彼等の内の一人に、リシェアオーガの目が止まった。

緑の髪と紫の瞳の精霊。

実の兄と同じ彩の精霊に、彼女が驚きの視線を送ると、その精霊が彼等の許へ歩み寄って来た。

「初めまして、マレーリア国で、この子に直接関わった方々。

私は元木々の精霊で、今は大地の精霊のアンタレスと申します。」

「……レス兄さん……。」

リシェアオーガの、小さな呟きが聞こえたハルトベリルは、彼女を降ろした。

驚いた顔のままのリシェアオーガへ、アンタレスと名乗った大地の精霊は、微笑みかける。その精霊へ彼女は、足早に走り寄る。

「レス兄さん…如何して此処へ?来れないってエレインが、言ってたのに…。」

「カーシェ様から行って来いって、言われたんだ。手駒は多い方が良いってね。」

その言葉に隠されている考えに、リシェアオーガは気が付き、納得した。

実兄と同じ彩で、兄と慕う者がいる。その事を利用しない手は無い。

実兄らしい考えに、何かを含んだ微笑をする。悪戯を思い付いた、子供の様な笑顔を窘めつつ、アンタレスは再びマレーリア王国の人々の方を向く。

リシェアオーガの左に立ち、反対側の肩へ手を置く。

「この子が、邪気に身を染めたのは、私達、育ての親である、リューレライの木々の精霊を失った事が、原因なのです。

この子が邪気に身を染める前、神殿を失った人間達の申し入れがあり、私達の本体が神殿に使われる事になって、私達は、木々の精霊としての生涯を終え、神殿の守護精霊となりました。」

リューレライの森の精霊に起きた出来事を語るアンタレスに、マレーリア王国の人々の視線が集まる。これを受けながら、彼は先を続ける。

少女が森の養い子、人間の迷い子故に、一緒に連れて行けなかった事。

その為彼は、アンタレス達が神殿の守護精霊になっていると知らず、孤独になったと思い込んで、あの様な事を…先の大戦を仕出かしたと告げる。

曇った表情の大地の精霊は、この国でリシェアオーガに関わった者達へ、一番伝えたかった言葉を口にする。

「本当に、皆様に御迷惑を御掛けしました。

それと、ラングレート家の御兄弟には、オーガに対して、本当の兄弟の様に接してくれた事を、感謝します。」

育ての兄であるアンタレスの言葉に、この国の人々は納得した。

家族を失った心の隙を、邪気に付け込まれた事は真実だと。

大いなる神から、神龍王になる運命を授けられたとはいえ、辛い宿命である。しかし、それを乗り越えないと、王としては成り立たない。

乗り越えられなかった者は、あの黒き髪の王と同じ、邪気そのモノになってしまう。

そうなれば、二度と元には戻れない。邪悪なるモノとして、生き続ける事になる。

しかし、目の前の少女は、そうならなかった。

完全に邪気になる前に、本当の家族に関する真実を知り、己が一人で無い事を知ると、もう一人の兄弟を助ける為に、己の中の邪気を倒した。

これ以上、自分の中の邪悪なモノに、大切な人を奪われたくなかったのだ。

その事を思い出したのか、リシェアオーガの表情が暗くなった。それに気付いたアンタレスが、優しく抱き締める。

「オーガ、いや、リシェア様。もう、貴方は一人ではないんですよ。

俺もランナも、神龍達や他の精霊達。

それに、ラングレート家の兄君達も、実の御家族も、ここにいる御友人達も一緒です。だから…辛くなったり、悲しくなれば、皆に頼ったり、甘えたりして良いんですよ。

リーナ様からも、言われたでしょう?」

心に響く兄の言葉にリシェアオーガは頷くが、自分の本心をも曝け出す。

「…私は…大切な者達を…護りたい。

有りとあらゆる危険から…邪悪なるモノから、護りたい。決して傷つけさせないし、ましてや喪う事等、させない!」

アンタレスの胸にしがみ付きながら、己が想いを吐き出すリシェアオーガへ、ラングレートの兄弟と紅の騎士、王宮騎士達が近付く。

怒りを込めた真剣な顔のリシェアオーガへ、ファムトリアが更に近付く。

彼の様子に気が付いた彼女は、不思議そうな顔となり、兄の腕の中から抜け出した。すると、今まで膝を折った事の無い彼が、目の前の少女に跪き、その細い手を取る。

彼の行動に驚きの顔を見せる少女へ、彼は両手で掴んでいる手の甲へ、口付けを落とす。騎士が貴人に対する、敬愛を意味する行動に、周りの者は納得した。

「リシェアオーガ様、御疑いして、申し訳ありませんでした。貴女は正に、ルシム・ラムザ・シュアエリエ様であり、ファムエリシル・ルシム様です。

我等が騎士の神で在らせられる貴女に、無礼を働いてしまい…本当に申し訳ございません。」

彼の言葉にリシェアオーガの表情は、優しい物へと変わり、彼への返答を返す。

「ファム、私は気にしていないわ。

邪気であった者を警戒をするのは、剣士として、騎士として当たり前ですもの。だから、その気持ちだけ、受取っておきますね。

…それと、有難う。ファムにそう言って貰えると、嬉しい。」

逆に感謝をされたファムトリアは、顔を上げて少女を見た。

そこには、慈悲に満ちた神の顔。

優しい微笑を携え、聖なる気を纏う、間違う事の無い神の気配だった。装いは神子の物だったが、纏う気は神子の物も、神龍王の物でも無い、戦の神の物。

自覚の無い気配の変化に、跪く者がいた。

白い装いは正式な神官の物。しかし、その装飾は、初めて見る物であった。

「お前…カルダルア…見習い神官のカルディじゃあないか!如何して此処に?」

「え…バルラム・ルシアラム・カルダルア様?…その服は一体?」

彼の姿に幼馴染のエニアバルグと、跪いたままのファムトリアは、驚きの声と共に質問を浴びせ掛けた。

彼は最敬礼を捧げたままなので、答えられず、代わりに青の騎士が答える。

「こちらの神官殿は、ファムエリシル・リュージェ・ルシアラム・カルダルア殿です。この度、我が神の神官と御成りになりました。

服装は、我が神の正式な神官服となります。」

用件だけを述べる青の騎士…いや、青の神龍に視線が向く。彼が言った事は、リシェアオーガが、己だけの神官を迎えた事を意味する。

「そう言えばカルディは、オーガだけ、様の敬称付だったよな…。」

昔の事を思い出したエニアバルグは何気無しに呟いた。今まで見習いだった神官が、漸く仕える神を見出した。

まだ神子という事を知らず、神になる事さえ、想像出来無かった相手に対して、彼はその資質を見出し、仕えたいと願ったとしか、思えなかった。

現に彼は、その神の神官として、ここに居る。

リシェアオーガと名を変えた、ラングレート家の元養子の少年。

その身に潜んでいた邪気を自らの手で葬り、生まれ持った役目に目覚めた少年。

両方の性を持ち、類まれな剣技と美しい顔を持つ、光と大地の神子。そして…彼、いや、彼女は、神の役目をも持つ。

戦の神…守護神たる神々の一人として、名を連ねた彼女に、相応しい神官が傍にいる。その神官へ、少女は敬礼を崩す様に言い、窓の外に目を向けた。

楽しそうな微笑を浮かべ、周りの者へ告げる。

「御客様が到着なさったわ。ノユ、ランナ、御迎えに行くのに付いて来て。」

「リシェア様、俺じゃあなく、アンタレスを御連れ下さい。

その方が、先方も驚かれますよ。」

「ランナ…お前な、お客様を驚かせて、どうするんだ。

リシェア様、こいつを連れて行って下さい。」

言い争う二人を、キョトンとした目で交互に見て、微笑を浮かべたリシェアオーガは、アンタレスに手を差し伸べる。

「レス兄様、連れて行って下さいな。後、ルシェも一緒に。」

「…オーガの希望なんだな。判った。」

「リシェア様、私もですか?あ…そういう事ですか。」

差し伸べられた手と言葉に、大地の精霊は少女の希望を悟り、光の精霊は一瞬驚いた顔をしたが、何かを悟ったらしい。

彼女の思惑に納得した二人の騎士は、緑の神龍と共に、玄関へと向かって行った。

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