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美しき少女姿の神子

 光の屋敷では客人を迎える為、主であるリシェアオーガの支度に、精霊達と神龍達が奔走していた。

リシェアオーガに着付けられた服へ、あれやこれやと装飾を加えて変えていく。目の前で繰り広げられている、この遣り取りに溜息を()く。

着飾る事には未だに慣れない彼だったが、今日は何時にも増して時間が掛っている。

基本は、白い神子のドレス姿。

それにどの装飾品を付けるか、彼女達は迷っていた。

どの品も神々の輝石によって作られ、リシェアオーガへと贈られた物。

家族の物から、親族に当る七神とその家族からの物。

ありとあらゆる品が並べられ、検討されていた。終わりの無い遣り取りだな、と思ったリシェアオーガは、彼女等に提案をした。

「私は、家族が作った物が良い。

特にリーナが作ってくれた物を、着けたいのだが…。」

言われて彼女等は、桜色の薔薇の花を象った髪飾りと耳飾りを手にし、リシェアオーガの髪と両耳に付けた。少女らしいそれは、彼…いや彼女に良く合い、夕刻で輝きを増した金髪に映えた。

他の装飾品も決まったらしく、彼女等の手でリシェアオーガの服は、質素な物から華美な物へと、瞬く間に変貌してゆく。

一通り飾り終わり、やっと動けると思ったリシェアオーガの部屋へ、客人が訪れたという知らせが届いた。


 屋敷の玄関には、数人の客人がいた。

一人は紅の騎士、一人は光と炎の精霊剣士。

紅の騎士の連れはとある貴族の兄弟、そして、精霊剣士の連れが二人の騎士。揃った顔触れに、お互いが頷く。

紅の騎士と一緒に、見た事も無い騎士がいる事に気が付いた精霊剣士達は、彼等と挨拶を交わす。青の騎士と風の騎士…前者は、自分の正体を名乗っていないのだが、精霊剣士達には想像出来た。

リシェアオーガに、光と炎の神龍が仕えていると知っているので、自ずと目の前の青の騎士が神龍の一人だと判ったのだ。

一際賑やかになった玄関へ、一人の少女が侍女姿の緑の精霊を伴い、緑の騎士に同伴されてやって来た。

輝く金髪を靡かせ、優雅な足取りで近付く少女に、紅の騎士と宰相は微笑み、一礼をする。彼等に習って、精霊剣士と王宮騎士達も一礼をした。

「ようこそ、御出で下さりました。今宵は楽しんで行って下さいね。

堅苦しい事は無しにして、顔を上げて下さいな。」

優しげな少女の声と微笑み…彼女の言葉で顔を上げた彼等は、たった二人を除き、彼女に見惚れていた。

白いドレスに身を包み、清らかで神聖な気に包まれている少女。

いや、神聖な気に護られていると、騎士達は思った。

少女が身に纏う装飾品は全て、神々の創られる輝石…光の神、大地の神、知の神、そして、二人分程、誰か判らない輝石で創られていた。

少女の髪と耳を飾る薄紅色の薔薇の輝石、右の薬指にある金色と青の輝石…新しい神の物としても、簡単に手に入る物では無い。

それを踏まえて、ファムトリアとレナフレアムは、目の前の少女を見つめた。ふと、彼女が、不思議そうに頭を傾げ、二人を見る。

この仕草に何かが思い当たり、彼等は驚いた声を上げた。

「…もしかして…リシェア様?!」

「…えええっ、オーガなのですか!!女装…ではないのですよね。」

二人の叫び声に紅の騎士と宰相は笑い始め、王宮騎士達は目を丸くした。彼等の反応を見た少女は、更に笑みを零す。

「フレアム、ファム、大正解だよ。

ほんと、リシェア様は、どう着飾ってもお美しいね。」 

「当たり前です。我が主は、どの様な姿でも御美しいですよ。」

二人の騎士の言葉に少女が近寄り、(ねぎら)いと叱咤(しった)の言葉を送る。

「レア、ネリア、御苦労様。それと…褒め言葉は、それまでにして欲しいの。

ファム、フレアム…何処か可笑しい?」

間近で見る少女の姿に、落ち度は無く、違和感も無い。呼ばれた彼等は、信じられない顔で首を振る。すると、宰相が彼女に近付き、

「御久し振りですね、光の姫君。

この装いは、私達の為にしてくれたと、取っても良いのかな?」

と目線を合わせ、優しく告げる。この声で彼女は頷き、宰相に抱き付いた。

「ようこそ、バート義兄様、ハルト義兄様。

……ハルト義兄様?エニア、如何したの?」

ふと、視線を他に向けると、立ち竦んでいるハルトベリルとエニアバルグが目に入り、その名を呼んだ。少女の声で呼ばれ、驚いて固まっている残りの騎士達が、一瞬遅れて声を上げる。

「ええええ、嘘、オーガ?!」

「お・オーガなのか?何でそんな格好を???」

驚きの余り、大きな声を上げる騎士達へ、青き龍・ネリアがしれっと答える。

「…我が主は、両方の性を御持ちです。

故に、この様に、御美しい女性にも御成りです。」

さり気無く、賞賛の言葉を混ぜるネリアに、風の騎士・エアレアも頷く。勿論、傍にいる緑の精霊…いや、緑の神龍も、緑の騎士も、頷いている。

彼等の装飾は月と太陽、そして葡萄の房だが、共に光の神の輝石と、大地の神の輝石の装飾品を持っていない。

これが意味するのは、光と大地の神子に仕える者という事。

つまり、リシェアオーガに仕える者という事になる。

それを踏まえて、改めて青の騎士を見るファムトリア。

そこには目立たないが、葡萄の房が存在していて、装飾品も光と大地の物では無く、見知らぬ神の輝石。

リシェアオーガの傍にいる者も身に着けているそれは、目の前の神子が神という事を暗に示している。


青の輝石と金色の輝石。


それは、リシェアオーガ自身をも飾り、他の輝石と共に輝いて見えた。 



 少女姿のリシェアオーガが、自分の義理の弟だった子供と認識したハルトベリルは、彼女に近付き、兄と同じ様に視線を合わす。

兄であるバルバートアから離れた彼女を見つめ、微笑みながら、その頭を撫でた。

「オーガ、元気そうで…幸せそうで何よりだ。

御家族は優しいか?何か、不自由は…無さそうだな。」

一瞬キョトンとした彼女だったが、直ぐに微笑を浮かべ、嬉しそうに答える。

「大丈夫です。

父も、母も、実兄も、義理の姉も…双子の兄弟も…皆、優しいです。皆心配して、これらを渡してくれました。

後、警護と身の回りの世話をする精霊達を、寄越してくれました。」

自分が身に着けている装飾品と、周りにいる精霊達を示し、微笑んだままで答える少女。その少女の言葉を受けて、他の者も説明を始める。

「中には、自発的に来た者もいます。

ここにいるレアとか、ルシェとか、アレィとか…。」

ネリアの付足しに、緑の精霊も参加する。

「後、数人の精霊騎士かな?

リシェア様が心配で、仕える神々の承諾を受けて、来た者が多いよ。

あっと、忘れてた。俺…いや、私は、リシェア様に仕える木々の精霊剣士で、ランナと言います。」

「同じく、ノユです。

皆様、ここで立ち話は何ですから、あちらの方に席を用意しています。

リシェア様、他の者達が、彼等を待ちわびていますよ。ご案内しましょうね。」

ノユの言葉に頷き、彼等の傍へ行こうとするリシェアオーガだったが、不意にその体が宙に浮かんだ。間近には、ハルトベリルの顔…義理の兄の一人に抱え上げられた事を知り、周りの者から苦笑が起こる。

「ハルト、女性をそんな風に、抱えてはいけないよ。

もう少し優しく、運んであげなさいね。」

子供を抱える様に、片手で抱き上げられた形になったリシェアオーガは、バルバートアの言葉にキョトンとしていた。何時も父親か、兄にされている抱え方であった為、別段不思議に思わなかったらしい。

片や指摘された本人であるハルトベリルは、慌てて変えようとするが、リシェアオーガから不満が漏れる。

「ハルト義兄様、このままが良いの。父様とカーシェ兄様に良くされているし、ハルト義兄様も以前のようにして欲しいの。

………駄目?」

可愛らしい御願いに、義理の兄達は折れ、周りは微笑を添えている。無表情に見える青の騎士でさえ、薄ら微笑んでいる。

リシェアオーガを抱えたハルトベリルは、ふと、ある事に気が付いた。

以前より軽く、体はより華奢で、その背も小さい。

剣を扱う者の体ではあるが、この身体は女性に近い。声もそうだったが、体もそうらしいと気が付き、感心した。

「オーガは、本当に両性体なのだな。ちゃんとした女性で、然も剣を持てる体だ。」

そう評す彼に、溜息を吐く兄と紅の騎士。

頷くのは、精霊達と神龍達。

彼等は彼女を、剣を振るう者として認識している。

残りの二人は…驚きの余り、頭が付いて行かない様だ。両性体の者が、自由に片方の性別へ変化出来るとは聞いていたが、実際に目にしたのは初めてであった。

体だけで無く、声も口調と仕草も女性らしい。

本当にあのオーガだったとは、思えない程である。

しかし、その顔は間違い無く彼であり、以前とは異なる彩と表情。

心の底から喜び、楽しんでいる彼…いや、彼女に安心した。

エニアバルグは彼女が幸せだという事に、フェムトリアは彼女がもう、邪気に染まらない事に、それぞれ喜んだ。

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