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一日遅れました

 ビルの中はひんやりとしていて、節約しているのか年数が経っているのかわからないが、本来よりも光度の低い蛍光灯が数メートル間隔で天井に二本一組となって設置されていた。

 入ってすぐ横には階段があり、電灯の切れた非常口と書かれた緑色の目印があり、そこを何かが動いた。

 岬が小さな悲鳴をあげ、すぐさま自分の口元を手で抑えた。正体はわりと大きな蜘蛛で僕らも驚いたものの悲鳴をあげることはせず、体を一瞬だけ強張らせて恐怖を発散させた。

 彼女の案内で僕らは廊下を進み、右に曲がってさらに進んだ後、階段を下りた。

 地下一階も一階同様の造りをしており、薄気味悪さがここにもあった。

 ダクト終わり付近の換気扇が回転しながら外の光を取り込み、僕らの影が通路に映る。

 偶然なのか大人とは侵入してから一度も出会っていない。

 こんな場所に面白いものがあるはずがないと薄れていく望みを感じつつ、まだほんの少し残る希望に思いを寄せた。

「この先」

 彼女が止まり、その前に大きな鉄の扉があった。

 この先に何かしらの成果を期待させる造りの扉で、危険だと分かっていても開けてみたくなる、その様な扉が僕らを待ち構えていた。

 彼女は踏ん張り、力強く扉を押した。

 僕らも加勢してやり、ここぞとばかりに頼りがいのあるところ魅せようと奮起した。

 しかし動く気配は無く、子供であっても三人がかりで押しているのだが、そこまでこの扉は重たいというのか。

 正志が手を休め、息をあげて腰をついてへたばるとそれを見て僕も気が緩み情けなく尻をついて降参の姿勢をとった。

「前に……来た時…は……どうやってあけ……たんだよ」

 僕が過剰に息継ぎしながら言うが、彼女は頭をかかえてその時を思い出す。

「というか僕らにもったいぶらずに何があるのか教えてくれてもいいじゃないか」

 言葉に苛立ちを込めながら正志が言う。

 岬も二人の情けない姿に呆れ果て、考えることを止めて真摯な顔となった。

「この先には宇宙船があるのよ」

「え?」

「は?」

 僕たちは無意識に気の抜けた声を出し、それから二人は疲れも忘れて笑いはじめた。

「な、なによ!すごいお宝よ!宇宙船よ!」

「いやいや、宇宙船って君」

「岬やめてよー、いくら僕らが疲れてるからって」

 彼女は顔を変えることなく至って真面目な顔のまま二人の見つめ続けた。

 しばらくして笑っていた僕たちだが空気の悪さを感じて大笑いは空笑いに変わり、危険な角度の眉をした彼女が仁王立ちして僕らを見下ろしていた。

「この先に証拠はあるわ、私が嘘つきじゃないって証拠が。もう休憩はいいわね?続きをやるわよ」

 彼女は素早く僕らの背後に周り込むと襟首を掴み、無理やり立たせ、自身は再び扉と対立した。

 アキレス腱を伸ばす体勢を取り、頬を扉に押し付け踏ん張り声を微動だとしない扉と戦いはじめた。

 僕らも彼女と同じようにして扉を押す。されど動くことはなく、廊下に苦しそうな子供の声だけが残った。

「ひ、ひてみよ」

 酸欠気味の頭で閃いた事を僕がいうと、彼らも酸欠気味の頭で何も考えずに頷いた。

 一発でタイミングは合い扉はいとも簡単に自分たちの方へ向かって開き、逃げ遅れた正志がそれにぶつかり、反動で壁へとぶつかった。

 涙目になりながら大丈夫と鼻を押さえ起き上がる彼を支えてやり、僕らはその先の景色に口をあけた。

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