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28日分を投稿できませんでした。今後ないように気をつけます。
「絶対に見つからないでよ」
大人たちの間隙を縫いながら岬は慣れた身の動きでどんどん突き進む。
相変わらず後手の僕らは彼女が行動するままに付いていく。
金魚の糞だと揶揄されたくはないが、今ばかりはそれを認めざるをえない。
彼女の挑戦的な好奇心には日頃から目を見張っていたのだが、ここまで度胸を張られたらかえって清々しく、その一員となっている自分たちが誇らしい。フェンスを越えるまで否定的だった僕らは彼女の調子に乗せられ、これっぽっちも無かった好奇心を芽吹かせ、成長させてくれた彼女には感謝しなくてはならない。
僕ら一行は倉庫を4つだっただろうか、もうとにかく一杯一杯に走り抜け、時には待てをし、匍匐前進をしながらビル群の元へとたどり着いた。
大勢の大人たちが行き来し、僕たちが身動きできる機会はほとんどないが、そこは彼女の潜在能力の高さを発揮させるには格好の場所であった。彼女が難無くビルの隙間から隙間へ移動すれば僕らもそれに従って動くのだ。
電子ボードを持って打ち合わせや時計を気にしながら動く大人たちを横目に、ついにビルの中でも飛び切り、この郡の長であろう建物の裏口にまでたどり着いた。
僕らは緊張と疲労で息をあがらせた。同時に安堵感と達成感が体中を支配し、生と死に似た体験をさせてくれた。途中から感じていた喉の渇きも極限まで来ており、何か飲むものはないかと、飲んではいけないとは分かっていても辺りを探してしまう。
「みっともないわ」
深呼吸をし、誰よりも息を安定させた岬が浅ましい僕らに冷ややかな目をおくった。
僕はお構いなし、ここまで付いて来れたのだから何かしらのご褒美を欲しくてしかたなかったのだった。
正志も同じくして飲み物を探すが、僕より少しばかり大人びている彼は羞恥心から止めた。
そして僕を小突き、それによって得た擬似的な羞恥心で取りやめることにした。
裏口から表通りを見る。ここで働く大人たちは皆スーツを着用し、腕に嵌めた時計をギラギラと光らせながら足早に自分らの目的地へと移動している。作業服の人間は一人もいない。
「それで、面白いものって」
やっと息の落ち着いた正志が岬に詰め寄った。
「君がいう面白いものってなにさ」
鼻と鼻がくっつくぐらいに顔を寄せ、彼の目は彼女の目を真っ直ぐと見つめた。
「そんなにがっつかないで!」
たまらず彼女が両手で押し退ける。
「二人とも」
僕は仲裁に入ろうとした。そのとき、裏口から足音が聞こえた。
それも一つではなく複数の足音が別々に韻を刻みながら音を鳴り響かせやって来る。
僕らは何か隠れる場所はと思い、扉横にあった固まって乱雑に置かれたダンボールを見つけ、それを壁のようにして不自然にならない程度に組み上げ僅かな隙間を残して、そこへ避難した。
扉が開き、スーツ姿の男たちがぞろぞろと現れ、表通りに向かっていく。
僕らはじっとその様子を見守り……父がいた。
思わず小さく驚きの声が漏れてしまい、何人かがこちらを向いたがすぐさま視線を直し、何事もなかったかのように去っていった。
彼らがいなくなった後、僕は声を出した理由を聞かれたが、父のことは話さないことにした。
野暮用を思い出したと言い訳をし、話を逸らす様にダンボールの壁を崩し、元の状態になるべく近い形に戻した。
「それじゃあいよいよお楽しみよ」
彼女はそういってドアノブを廻し、我が家同然に中へと入っていった。
引き返すなら今しかないと二人は思った。だが思いは一瞬だけで瞬きをした後には彼女の背を追いかけていた。
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