工房
準備の続きなのだけれど、いつまでも「準備○」じゃあ面白くないのでちょっと変えてみる
「おはようございます」
宿からギルドに直行して受付嬢に向かって挨拶する
「おはようございます、2日連続で来るなんて珍しいですね」
「まぁね、ちょっとこの5日間である護衛依頼とかみせてくれない?」
「依頼の下調べですか?ちょっと待ってくださいね」
戦術級魔動機ほどの大きさの物を輸送しようと言うのだヴォルフ商会が自前の護衛と輸送隊を用意するなら話は別だがそうでなかった場合ギルドに大型の護衛依頼が来ているはずなのだ
だけどマフィアが自前で用意した輸送隊は目立ってしまうので基本的にすぐに他のマフィアに嗅ぎつかれてしまう
今回はモノがモノだけにそれを避けるために一般の商隊を装おうのではないかと当たりをつけたのだ
「この5日間で来てる依頼はこれだけですね~」
「あ、ありがとうございます」
そういって書類を受け取り目を通していく
(ふーむ、特にわかりやすい大型の護衛依頼や出所が怪しい依頼はないな…ま、俺の予想ではヴォルフ商会の母体組織の差し金だろうからそれだけ気合が入ってるのかね?)
「どうします?どれか受けますか?」
「いや、今回は遠慮しとくよ」
「そうですか、他に何かご用件がおありですか?」
「いや、ありがとう。じゃね」
そういって受付を離れる俺の背中に受付嬢の声がかかる
「またきてくださいね~」
「なぁ、おっちゃんって戦術級魔動機とか触ったことある?」
この街にある魔動機の工房の中で俺はこの店の店主に声をかける
戦術級魔動機についてそこまで詳しくなかったのでその辺を調べに工房まで来たのだ
「あぁん?戦術級魔動機だって?そんなもん軍人のそこそこ偉いヤツじゃねぇと触るどころか見ることもできねぇよ」
このおっちゃん、この街では一番の整備士で俺の使ってる闇の魔石を使用したフルオーダーメイドの魔動機の製作を依頼した人である
そのときは夜中に顔を隠して依頼したのでそれが俺だとは気づかれてはいないと思う(職人系の人種は侮れないので油断はしない)
「ふーん、でもおっちゃんなら触ったことあるんじゃないの?」
「なんだ、戦術級魔動機なんぞに興味があるのか?あんなもん大きいばかりでコンパクトな中に強力なアーツを組める戦闘用魔動機の前じゃタダのガラクタよ!」
おっさんが力説する
「お、おう、そうなんだ。実際どの程度の威力があんの?」
「んあ?そうだな、収束して発動させると軽く城壁を吹き飛ばすくらいか?」
「マジかよ、想像以上だな…」
「まぁ、効果範囲を広げると一気に拡散しちまって戦闘用魔動機よりちょっと強いくらいに威力が弱まっちまうし、そもそも発動までに時間がかかりすぎる」
「でも奇襲で使えば効果絶大じゃん」
「おいおい、本気で言ってんのか?そんなにお手軽な大きさじゃねーんだよ」
「へー、でもアイテムポーチに入れればいいじゃん」
なんせこの世界にはアイテムがいくらでも入る魔法の袋があるのだ、それを利用してしまえば輸送の問題なんて存在しないと考えていた
「だからそんなもんが利用できるような大きさじゃないんだよ…」
おっちゃんがヤレヤレって感じのトーンで言う
「そうなの?結局どのくらいの大きさなの?」
「そうだな、このくらいだ」
そういって大砲くらいの大きさを示す
特に予想と違った大きさではなかった
戦闘用魔動機が大きめの懐中時計くらいの大きさだと言うのを考えればものすごく大きいが…
(えー、そのくらいじゃアイテムポーチに入るじゃん…)
そう考えながらも嫌な予想が頭をよぎる
(まさか迷宮で拾ったこれってアイテムポーチじゃなくてもっと高級なヤツだったりするのか?)
この1年間ずっと気づかずに使ってきたのかと思うとガックリしてしまう
(まぁ、非常識な大きさのものを人前で取り出したのは門の詰め所の中だけだい、あの人たちは俺のことを高位の神官だと勘違いしているからそういうものだと納得してくれたのか?)
「おい、急に黙ってどうした?」
「いや、ちょっとカルチャーギャップをまた一つ克服しただけだ」
「?まぁいいや、で今日は整備するのか?まさか立ち話だけなんてことはないよな?」
ちゃんと金を払っていけと言う副音声が聞こえてきそうだが、そういえばそろそろ整備しといた方がいい時期だなと思い出して魔動機を取り出しておっちゃんに渡す
「よろしく」
「おぉ、まかしとけ!お前のは複合型だからな、腕が鳴るぜ!」
そう嬉々とした表情で奥に引っ込んでいくおっちゃんのを見ながら
「夕方には取りに来るからな!」
と言って店を後にするのだった
地の文の書き方を一人称にしてみました
登場人物少ないからかこっちの方が書きやすいな…