"魔鍵ができるまで"
魔鍵と呼ばれる『其れ』は、教徒に伝わる話の中で『あらゆる事に使用された結果、完成する』と言われて居る
『何かが足りない』のは明白だったが、『何が足りて居ないのか』は、手掛かりの影すら掴めて居なかった
朝から、木机の上に置いた、子供の身長程の大きさの魔鍵を監察し続けて居る
やはり、動き出す気配は感じられない
この悪魔を模した金属製の像は、伝統的な製法を遵守し、人血を混ぜ混んだ鋼で僕が鍛造したものだ
完成した場合、魔力を発したり自立的に行動し始めるらしい
『あらゆる事』を僕は試したつもりだった
この場合のあらゆる事とは、『ラクドス教徒としての、あらゆる事』だ
この魔鍵を完成に導く為、僕はこの像を自分の喉にも肛門にも尿道にも通過させたし、魔鍵を使って他人を殴打した事も切り裂いた事も、もちろん突き刺した事も何度も有る
それら行動の実施には、主に友人親戚知人を使ったのだが、いま振り返れば思慮が足りなかったと思う
きちんと道筋を立てて実行すれば、せめて絶交まではされずに、一人の人間を複数回利用出来たかも知れないからだ
そうでなくても、同じラクドス教徒を使えば軽蔑はおろか、むしろ畏敬と賞賛のもとで魔鍵は完成して居たかも知れない
常ならば『思慮』とは我々の敵でしか無かったが、だからこそ視落としてしまったものは大きかったようだ
一方で、僕の身体機能は上記した実験の為に再利用が不可能となり、現在では部分的に魔導義体に置き換えられて居る
こちらに関しては悔いは一切無い
当然、こんな事ばかりして暮らして居る為、家には既に何の食料も無い
床に幾つか転がって居る、昨日殺したその辺の人間でも食うかと思い、僕は屈んで死躰の一つに顔を近付けた
倫理とかどうとか以前に、臭くてとても食べようと云う気持ちになれ無かった
くそっ、と僕は死躰を踏み付ける
汚い汁が靴に飛び散り、とても不快だった
途端、玄関の扉が勢い良く開かれ、聖職者の祭服を纏った、小柄な少年の姿が家に入って来る
君だった
相変わらず、君は僕の部屋の様子に顔を顰める
『なら、なんで僕の事が好きなのだよ』と思ったが、納得のいく説明を聞けた試しが無かった
「まだこんな事をしてるの?」
咎める様に言う君を、僕は取り押さえて口付けようとした
いつものようにはいかず、君は珍しく抵抗を視せる
僕の腕を振り払うと、机の上の魔鍵を床へと倒し、ベルトから抜き放った鎚鉾を振り上げる
僕は、咄嗟に魔鍵に覆い被さった
骨の砕ける音
他人の躰から聴く事には慣れて居たが、自分の内側から聴くのは、とても久しぶりだ
過去に、強い興味から自分で骨を砕いた時以来だった
酷く気分が悪い
口の中に血が溜まり過ぎて居た事もあり、僕は血と吐瀉物を吐いた
それらの一部は、びちゃびちゃと魔鍵に吐き掛けられて、そして、それが当然であるかの様に鍵へと染み込んで消失した
僕は意識を喪いかけて居たが、鍵が血を飲む姿を視て、はっとした
ばかりか、魔鍵は緩やかな動きながら活動を視せ、鎚鉾の一撃を受けて皮膚を破って突き出た、僕の肋骨の一つを自らの手で掴んだ
魔鍵の顔の部分が、僕に近付く
鍵は、明確な意志をもって骨を齧ろうと動きを視せ───しかし停止してしまった
「ち、違っ………こんなつもりじゃ───」
声と鎚鉾を取り落とす音に、僕は顔を向けた
君は泣きながらその場にへたり込んで、視開いた眼で僕を凝視して居た
「おい───」
僕はよろよろと立ち上がると、君の前髪を掴む
「痛えな………」
「ああ!?」
君の顔を魔鍵に叩き付ける
一度、
二度、
三度………
痺れを切らして、その次は鎚鉾で後頭部を滅多打ちにした
結果
君は絶頂したみたいに四肢をびくつかせ、それきり二度と動かなくなった
机に有った煙草に火を付ける
「ついにやっちまったか」と思った
まあ、いくら何でもウザ過ぎた
というか、人の好きな物を馬鹿にして、あまつさえ壊そうと奴なんて、こうするしか無いって気もする
ふと視ると
魔鍵は完全に完成をみたらしく、一個の生物のように立ち上がり、部屋を不思議そうに歩き始めて居た
魔鍵が君の死躰の、悪しくを片手で掴んで逆さに持ち上げる
僕は煙草を床に放り投げると、「待って!そいつ、後で防腐処理したら僕が性玩具にするから食べないで!」と叫んだ




