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第1話 二人の魔動人形・友と歩む日々③

 僕とカレンは研究所の本館へ向かっていた。

 徒歩ではなくスクーターに乗って。運転するのはカレンで僕は後ろに座っていた。誰にも見られたくない光景だ。

 本館は研究所の中央に建てられている。十階建てで屋上からの景色は結構見物だったりする。訓練施設から本館までは数百メートル離れていて、そこの二階に医務室が設置されている。

 本館に着いたところで僕はカレンの肩を借り医務室まで向かった。


「すいません、ネロさん」


 沈んだ声で言うカレン。

 戦闘の邪魔をしてしまったことをまだ引きずっているらしい。俯いたまま僕の顔を見ようとしない。

 罪悪感があるからか僕の頭部から血が流れているからか。どちらでも構わないが、カレンにしては珍しい行為だった。


「そう落ち込むな。僕は別に気にしてないよ」


 事実として傷ができただけでその他に支障はほとんどない。あるとすれば、いまだに右目が痺れて開けないことくらいだ。

 ついでにいうなら、頭がくらくらすること。せっかくなので横について歩いているカレンにおぶってもらうのが懸命だろうか。


「…………」


 いや、流石にないな。

 思い浮かべただけで恥ずかしくなる。



 そんなことを考えているうちに医務室に着いた。

 横開きの扉で、開くとそこには白衣を着たお姉さんが足を組んで座っていた。

 紫色でウェーブのかかった長髪に長身で細身のモデルさんのような体型。しかし、一番の特徴は顔のほとんどを覆い隠すように巻かれた包帯だ。理由は未だに不明である。

 そんな彼女の名前はミラという。

 どうやら悩み事のせいで呆けている最中らしい。

 包帯のせいで表情を読み取ることは難しいが、その態度は明らかにそのような雰囲気を醸し出している。

 話しかけない方がいいのかもしれないけれど、こっちはこっちで緊急事態なのだ。


「あの、ミラさん」


 と彼女の名を呼ぶも「はあ……」と溜め息を吐くだけでこちらに気がついていない。


「ミラさん、聞こえてますか」


 と少しだけ大きな声で再度ミラさんを呼ぶ。

 すると「はっ」と顔を上げる。

 やっと僕の声に気がついたミラさんは「ごめんごめん」と慌てて言う。


「この声はネロくんだね。今日は何の用かな?」


 そしてこちらを向いた瞬間だった。


「ぷふっ……」


 ――え?

 何故か腹を抱えて悶えるミラさん。


「あの、どうかしたの――」


 ですか? と言い切る前に、彼女は大きな声をあげて笑いだした。


「あははははは……何それ、なんで頭にケチャップ付けてるの?」


 はははは、と笑い続ける。

 どこがおかしいのやら全く分からない。まさか本当にケチャップだと思ってるのだろうか?


「あの、この状況は笑うところですか? 後これ、ケチャップじゃなくて血です。本物ですよ」

「え、ケチャップじゃないの? わたし最低じゃん」


 と言ってから今度は落ち着いた口調で話し始めた。


「ごめんねネロくん。まさかあなたがこんな馬鹿みたいな怪我をするなんて思わなくて」

「そんなに珍しいですか?」

「ええ。あなた、今までかすり傷は何度もしてたけど、こんなに血を流したことなかったでしょ」

「言われてみれば、確かにそうかもしれません」


 自分の能力も関係して、例え大怪我をしたとしても即時再生していたからだ。

 それ故に医務室を利用したこともあまりなかったりする。


「だからね、君を見た時はカレンちゃんにケチャップでもかけられたのかと思ってつい笑っちゃったの」


 ふふ、とまるで危機感ない微笑を浮かべる。


「――あの、そんなことはどうでもいいので早く治療してくれませんか?」

「ええ、ちょっと待ってね。準備に少し時間がかかるかもしれないから、あなたはここに座っておいて。カレンちゃんも一緒にね」


 そう言って椅子を二つ用意すると医務室の入口付近にある別の部屋への扉を開きその中に入っていった。それを見届けた僕は早速椅子に座らせてもらうことにした。


「はあ、やっと座れる」


 疲れきっていた僕はすぐに座ったが、カレンはそのまま動かず立ったままだった。


「どうしたんだ? おまえも座れよ」

「え?」

「だから座れって」

「いいのですか?」

「いいに決まってるだろ。何を言っているんだ。ほら」


 そう言って椅子をポンと叩く。


「で、では失礼します」


 と静かに椅子に座る。

 ふわっとなびく橙色の髪。甘い匂いが漂ってくる。

 彼女の横顔はどこか儚げだ。

 それなのに惹き付けられるほどの美しさを彼女から感じる。

 結構絵になるよな。

 誰か絵の上手い人にカレンの肖像画でも描いてほしいくらいだ。

 そして部屋に飾る。

 …………。

 何考えてるんだ僕は。さっきから頭の中がどうかしている。全部フランのせいだ。そうしておこう。


「――あの、ネロさん」

「え、何?」

「さっきのは本当のことですか?」

「こんなに血を流したことはないってことか?」


 カレンは首を横に振る。


「違います。気にしてないって言ったことです」


 僕は大きく溜め息を吐く。

 またそれか。


「本当だ。だからもう気にするな。おまえはいつも通り明るく振る舞えばいい。僕はそういうカレンの方がいいと思う。だから、今みたいなおまえの落ち込んだ顔を見ていると、こっちまで落ち込んでしまう」

「そうですか?」


 不安そうに訊いてくるカレンに「ああ」と答えると、カレンの口が少し緩んだ。


「ふふ、何だかうれしいです」

「許したことが、か?」

「違います」


 と強く否定するカレン。


「わたし、ネロさんのそういうところは嫌いです」

「そうかよ」


 勝手に言っとけ。


「せっかく座らせてもらいましたが、わたしは外で待たせてもらうことにします」

「何でだよ」

「何ででもいいでしょ」


 そう言ってカレンは立ち上がる。


「ネロさんはミラさんといた方が楽しそうですからね」


 ふふ、と妖艶な笑みを浮かべながらカレンは踵を返して外に出ていく。

 すると後ろでカレンとミラさんの話し声が聞こえた。


「ネロさんのことお願いします」

「え、ええ。任せてちょうだい」


 その短いやり取りの後、ドアが開き閉められる音が部屋に響いた。

 こつこつ、と足音が近づいてくる。


「お待たせ、ネロくん。前髪かけ上げといてくれる?」


 そう言って自分の椅子に座るミラさん。


「はい」


 答えて言われた通りにする。

 髪を触っているはずなのにドロッとした感覚が手に伝わる。


「うわ、けっこう傷が深いわね。ちょっと痛いでしょうけど我慢してね」


 そう言われると、瞬く間に僕の頭はどこからか突然現れたら包帯に締め付けられ、がっちりと固定される。

 ミラさんの能力。包帯のような帯状の物体を自由に作り出し、そして操作する力だ。

 能力自体はそこまで強力ではない。しかし、元から作り出せるものが『帯状のもの』に限定されているためか、それ以外に能力の制限はないらしい。故に、ある程度の応用が利くため、僕の能力とは正反対の特徴と言える。

 それよりも、この包帯は処置の最中に僕が動かないようにするためだろうが、フランに負わされた傷よりもむしろこちらの方が痛かった。


「……は、はい」


 と僕は苦しそうに答えるだけだった。

 邪魔な血液の除去をして麻酔を射つ。そして傷口の消毒を済ませる。その後、額の右端にできた深い傷口の縫合を素早く且丁寧に。いつ見ても見とれるくらいの手際の良さだった。

 その後、包帯による拘束から解かれる。


「ねえ、ネロくん」


 ミラさんは能力ではなく自分の手で僕の頭に優しく包帯を巻きながら、囁くように訊いてくる。


「ネロくんって意外と鈍感?」

「……そんなことはないと思いますけど」

「そう? ネロくんって強くて格好よくて、その上気遣いのできる素敵な男の子だと思う。なのに、なんでカレンちゃんの気持ちには気付いてあげられないのかな?」


 ミラさんの言うことは分からなくもない。僕の言動からすると、そう思わない方が珍しい。しかし、それは全て誤魔化しなのだ。


「――ちゃんと気付いてますよ」

「そうなの?」

「ええ」

「なら何で応えてあげないの」

「いろいろあるんですよ。僕たちには」


 そう、いろいろと。

 応えることが必ずしも正しいとは限らない。

 悲しませたくない。泣かせたくない。

 大切な人だからこそ。僕はカレンの気持ちに応えられないのだ。

 だからいつも、話を逸らそうとしてきた。


「そういえば」


 と僕は訊く。

 それもいつも通りの逃げでしかなかった。


「ミラさんは何に悩んでたんですか?」

「ああ、そのことね」


 と深い溜め息を吐き微笑を浮かべるミラさん。


「わたしって大抵ここにいるじゃない?」

「――ですね」

「怪我人や病人を相手にしてるじゃない?」

「――ですね」

「この美貌で男性の心を癒してるじゃない?」

「――です……え?」

「ごめんね、冗談よ」


 僕は何も言わず彼女をじーっと睨んだ。


「だから冗談よ。そんな目で見ないでよ。それは置いておくとして、もしかするとその役目も後少しで終わりそうなのよ」

「それってどういうことですか」

「まあ、いろいろと理由があってね。簡単に言うとわたしも近いうちに仕事に出かけることになりそうなのよ」


 仕事に出かけるということは、すなわち彼女も戦わなければならない可能性があるということだ。


「意味が分かりません。何故ミラさんが」

「わたしにも分からないわよ。聞きたくてもそれができる立場じゃないの。知りたいならあなたが所長さんに直接訊けばいいんじゃない?」


 そろそろ最終段階に近づいているからなんだと思うけど、とミラさんが呟く。

 ミラさんはこの研究所で一番いなくてはならない存在のはず。言わば最終防衛線。なのにあえて危険な場に出させる理由が分からない。目的は何なんだ。


「――ネロくん」

「何ですか」

「わたし、これから大丈夫かな」

「さあ、どうでしょう。でもミラさんは強いんですからなんとかなりますよ」


 戦闘においても彼女の実力は相当なものだ。

 簡単に死ぬことはないだろう。

 しかし、戦いに参加するとなれば相手によっては殺される可能性だってある。

 僕にはロゼさんの考えが理解できなかった。


 すると、突然ぷるるるる……と音が部屋に響く。

 発信源はミラさんの机にある電話のようだった。画面に表示される番号を見て浅い溜め息を吐く。


「話は一時中断ね」


 と言ってミラさんは受話器を取り、誰かと話し始めた。


「ミラです。どうかなされましたか?」

『――』

「ええ、ネロくんでしたらここにいますが」

『――――』

「え? カレンちゃんも一緒にですか?」

『――――――』

「はい。わかりました。ネロくんにはそう伝えておきま――あ、切られた」


 がちゃ、と受話器を元の場所に戻す。


「あの、誰からだったんですか?」

「所長さんからよ。ネロくんに伝言」

「所長からの伝言、ですか」


 そう言えば、フランは無事だろうか。


「ええ。本日十四時にカレンちゃんを連れて所長さんの部屋まで来いと」


 十四時か。それだとあと一時間半ほどの余裕があるな。


「それで、所長は何の用で僕たちを?」

「言ってなかったわ。何か新しい任務でも与えられるんじゃないかな」


 確かに。今までの例にもれなければそうだろう。

 しかし、何故だろう。今日に限って僕の心中は穏やかではなかった。

 嫌な予感。そう表すのが適切だろう。

 しかしどんな任務を言い渡されてもやるしかないのだが。


 その後、数分の間雑談をしてから医務室を後にした。


「それでは、失礼します」


 と言って立ち上がる。


「お大事にね」


 とミラさんは優しく微笑んだ。

 それに対して僕は小さくお辞儀してから医務室を出ていく。

 ミラさんの微笑みは暖かく、そしてどこか哀しそうに感じた。

 けどそれについて深く問い詰めることは、僕にはできなかった。



 ミラさんと世間話をした後、外の廊下に出て辺りを見渡す。

 外で待っていると言ったはずのカレンの姿がどこにも見当たらない。


「あれ? どこに行ったんだ、あいつ」


 外で待っておくって言ったはずなのに。

 そうであるにもかかわらず、何も告げずにどこかへ行くのは配慮が足りていないのではなかろうか。

 カレンの向かいそうなところはどこだろうか。もう昼時だし食堂も可能性としてはありそうだ。とりあえずそこに向かって歩くことにした。



          ◆



 食堂は隣の棟の一階にある。ここから渡り廊下を通り、そして一階に降りれば数分でたどり着く。

 今日は何を食べようか。いつも通り、チャーハンで済ませるか。

 カレンにはいつも他のメニューも頼めとか言われているが、僕は気にしない。

 あいつはあいつで、いつもオムライスばかり食べているからお互い様だ。


 食堂のある棟に渡ってすぐの曲がり角。

 そこでぐしゃ、という鈍い音が足下から響いた。どうやら僕は何かを踏みつけてしまったらしい。

 その何か。とても小さな三十センチメートルほどの機械人形で薄い紫色のドレスを身に纏う金髪の少女。服から出た肌は人工とは思えないほどに白く瑞々しい。

 名前はシェルプという。


 僕はすぐさま足をどかして「大丈夫か、シェルプ!?」と訊く。

 少女は右腕をあげて一言で答える。


「――だ、大丈夫です……」

「大丈夫なわけないだろ。服に足跡までついてる。誰だこんな酷いことをしたやつは!」

「分からないです。気が付いた時にはすでに……」

「おい、しっかりしろ!」

「もう、うちは助からないです。後は任せた、です……ガクッ」

「シェルプ……おい、目を開けてくれよ。シェルプ、シェルプ!!」

「…………」

「…………」


 空気が止まる。時間が止まる。そんな気がした。

 僕たちはただ、ははと苦笑いするだけだった。


「なんですか、この茶番劇は」

「さあ、何なんだろうな」


 こほん、と咳払いをしてから改めて訊ねる。


「すまないシェルプ。本当に大丈夫か?」


 言いながら、シェルプの背中に付いた足跡を消すように優しく払う。


「大丈夫ですよ。うちの身体は見た目は脆そうでもけっこう頑丈ですから」


 そう言って立ち上がる小さな女の子。服の前側に付いた埃をぽんぽんと払う。その仕草がいちいち可愛らしい。


「そう言えばそうだったな」


 彼女はフランなどと違い、全身が機械で出来ている。そのため、ちょっとやそっとじゃびくともしない。ほっぺたとかすごくぷにぷになのに。


「ゾウに踏まれても平気です」


 えっへん、と胸を張り答えた。


「そ、そうか……」


 シェルプ、それは壊れるフラグだよ。

 机から落としたら壊れるんだ、きっと。


「それにしても珍しいな。シェルプはいつも浮いているだろ。歩いていて踏みつけるなんて思わなかったよ。すまなかったな」

「謝らないでください。下に降りて立ち止まっていたうちも悪いようなものです」

「何かあったのか?」

「はいです。少し考え事をしていまして」


 と言うと、僕の頭に気が付いたようだ。


「あれ? ネロさん。その頭はどうしたですか?」


 と不思議そうに訊いてくる。


「これか? ただの怪我だよ。訓練中にちょっとね」

「そうですか」


 特に心配する様子もなくそう言った。薄情な奴だな。


「さっきの考え事のことですが、ネロさん」


 と、先程とは打って変わって彼女は真剣な眼差しで僕を見つめる。


「何だ?」

「カレンさんに何かしたですか?」

「何かってなんだよ。僕は何もしてないぞ」


 強いていうならわざと鈍感な振りをしているくらいだ。それに気が付いているとも思えない。気が付いているのならば彼女はすぐにでもそれについて問い詰めてくるだろうし。


「そうでしたか。それならいいです」

「気になるな、そんな言い方されると。何かあったのか?」

「ふふ。言ってほしいですか?」


 と嫌な笑みを浮かべる。


「言ってほしいですね」

「なら言うです」


 即答だった。

 こんなことを繰り返して口が物凄く軽い子だと思われなければいいけど。

 そう言ってからシェルプは蝶のように鮮やかな翼を広げて宙に舞う。

 彼女が常備する能力、というよりは機能の一つ。浮遊による飛行能力だ。

 ちなみに背中の翼は製作者から贈られたただの飾り物であるため翼が無くても浮かべるらしい。

 僕の肩まで飛んできたところで着地する。


 ――痛!

 声には出さなかったが、シェルプの乗った方の肩に鋭い痛みが走った。

 何かに刺されるような感覚。

 目を凝らして見れば、その何かの正体は彼女の靴の下にあった。

 細い針状のものがそれぞれに一本ずつ。

 こいつ、ヒールを履いてやがる。

 シェルプは自分のしていることに気づかず、僕の耳元で囁く。


「さっき、本館のエレベーター付近でカレンさんに会ったです。けど、うちが話しかけても全然反応してくれなかったです」


 カレンがエレベーター付近に?

 どこに行くつもりだったのだろうか。

 それよりもまずはシェルプの話だ。


「それが何か問題でも?」


 ただ単に面倒だったからって理由もあるだろ。

 ここの研究所にいる何人かはそうだ。

 こいつの性格についていけない人も確かにいる。


「大有りです。いつもは笑顔で返してくれるですよ。『どうしたの、シェルプちゃん?』って。ただ、ちょっと面倒くさそうですけど。うち、こんな性格してますし……」


 と照れ臭そうに言うシェルプ。自覚はあるんだ。


「とにかくです。カレンさんはいつもと違ってすごく落ち込んでいたです。ですから、普段から一緒にいるネロさんが原因かな、って思っちゃったわけです」

「なるほどね」

「はい」


 そう言ってからシェルプは続ける。


「ネロさん。慰めにいってあげてはどうです?」

「何で僕が」

「カレンさんは他の誰でもないあなたがいいんですよ」

「そういうものか?」

「そういうものです。わからないですか?」


 分かると言えば分かる。

 反面、分からないと言えば分からない。

 しかし、僕はこう返す。


「女の人の気持ちが分かってない、とかいうあれか? 僕はああいうのは苦手なんだよな」

「うちはそんなこと言いません。うちにだって女の人の気持ちは分かりません」

「女なのに?」

「うちはそもそも人でなく機械ですから。女の人の気持ちも、男の人の気持ちも、うちには分かりません」


 でも、とシェルプは続ける。


「――、機械の気持ちは分かります」


 シェルプは僕の肩から離れてふよふよと浮かぶ。

 そして、僕の前に移動してから言った。


「カレンさんの中にある機械の部分は、確かにあなたと一緒にいたいって言ってましたよ」


 ――機械の部分は、か。

 目を逸らしたくなるくらいの深刻な事実だよな、これは。いつか普通の女の子の身体みたいにしてやれればいいんだけど。


「いつになく真剣だな、おまえ」

「気のせいですよ」


 ではまたあとでです、とシェルプは言ってから僕とすれ違うようにどこかに飛んでいった。


 ――カレン、か。

 今日は一体何なんだ。

 彼女についての話題が僕の身から離れない。

 シェルプが見えなくなったところで僕は大きな溜め息を吐いた。


「――それでも、いつかは伝えなくちゃならないんだろうけどな」


 カレンはおそらく本館の屋上だ。

 そこで見ているのだろう。

 いつまで経っても変わらない、あの情景を。

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