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福袋をめぐる風景

作者: 深森翠緑
掲載日:2026/01/11

地上に福袋を(ネット予約までして)買いにやってきた冥府の女王ペルセフォネ様のお話。

――という夢を見ました。ほぼそのままです。


『………………の街は、新年からインバウンドの観光客で賑わっています。晴れて過ごしやすい陽気になり、道行く人の顔も明るいように見え………………』




 一つ目。

 可愛い服と小物が可愛いバッグに入っている。可愛いの詰め合わせセット。

 漢字で「福袋」と書かれた赤い紙の手提げ袋に入れられて渡された。どこにでもありそうなシンプルなデザインの紙袋。

 なのに、きらめいて見えるのはどうしてだろう。

 浮きたつ気持ちで彼のもとに戻る。


「お待たせ。無事ゲットできたよ、ほら」

「そうか、良かったな」

「ほんと良かった。スマホが死んじゃった時はどうしようかと思ったけど」

「あれは本当にすまなかった」

「いいわよ。ママのところでちゃんと予約できたから。里帰り許してくれてありがとう」

「そこまでするほどの物か?」

「そこまでするほどの物なの。いい歳して似合わないって思ってる?」


 彼には、このわくわくした気持ちは分からないのだろう。

 だったら無理にくっついてこなくてもいいのに、と思いながらちょっとむくれてみせた。


「思ってない。貴女にはなんだって似合う」

「そう、なんだって似合う、ね……。まあいいや、次に行こう」

「次?」




 二つ目。和菓子詰め合わせ。

 三つ目。洋菓子詰め合わせ。


「こんなに買って食べきれるのか?」

「お土産にね。この後、ママのところにも寄るでしょ?」

「あそこは、こういう手土産など不要だと思うが」

「そうかもしれないけど、一応。それに貴男だって食べるでしょ」

「そうだな」


 ぶつぶつ言いながらも、彼はちゃんと荷物を持ってくれる。

 黒いロングコートの彼が赤い福袋を提げている姿は、妙にシュールで可愛い。

 言わないけど。


「じゃ、次」

「え、まだ次?!」




 ショッピングモールの中、吹き抜けのホールになっているところにベンチがいくつか置いてある。

 彼女は空いているベンチを確保すると、ここで購入済みの福袋と一緒に待っていてくれと言った。


「買い物日和で良かったわ」

「貴女が地上にいるからだろう」

「じゃ、これもお願い」


 彼女はパステルカラーのダウンジャケットを脱いで渡してきた。

 薔薇色のニットが華やかで愛らしい。


「さあ、いざ戦場へ。期待しててね」

「よく分からんが、武運を祈る。気を付けて」


 薔薇色の後ろ姿はすぐに、人混みの中に突撃していって見えなくなった。

 この買い物がよほど楽しいのだろうな、と思う。

 だからベンチでおとなしく待つことにする。福袋とダウンジャケットとともに。

 

 行きかう人々も楽しそうだ。

 家族連れがいくつか。

 女性の友達グループ。

 男性のグループが女性たちのグループに声をかけている。どうやらナンパというものらしい。女性グループは断ったようで、男性たちを振り切って立ち去った。男性グループはホールに残って、声をかける相手を物色している様子だ。

 今日の地上は暖かく春めいているから、頭の中も春めいているのだろう。

 ――あ、彼女だ。

 手に福袋を提げて、笑顔でこちらに向かってくる。

 その彼女に向かって男性グループが移動を――おい、待て。

 福袋とダウンジャケットをつかんで駆け寄る。

 男の一人が彼女に手を伸ばし――


「我が妃に触れるな」


 つい、声に力が入ってしまったのは仕方がないと思う。

 ちょっとばかり力が入りすぎて、人間の命にかかわるレベルに達してしまったようだが、それも仕方がない。

 彼女に下心をもって近づいたのが悪いのだ。

 男どもは皆、床に倒れ伏した。





「まったくもう、なにやってるのよ」

「面目ない」


 妻にナンパしようとした人間にキレて殺しかけるとか、我が夫ながら怖すぎる。

 とりあえず死者は出なかった。余計な仕事も増えずに済んだということだ。

 言葉の分からない外国人観光客のふりをして、近くにいた人に手振り身振りで医者を呼ぶように頼んだ。トラブルに巻き込まれただけの観光客だと思ってもらえて、早々にその場から離れることができた。


「もう帰りましょうか」

「すまない」

「いいわよ、目当ての物は買えたから」

「そういえば、何を買ったんだ?」

「貴男の服。きっと似合うと思うの。帰ったら着て見せてね」

「分かった」


 四つ目。夫のコーディネート一式。

 たまには黒以外も着なさいな、我が王。





『………………は日中暖かな陽気でしたが、夕方ごろから急激に冷えこんでいます。予想最低気温は…………』


縁起がいいのか悪いのか、よくわからない夢でした。

お楽しみいただけたのなら、縁起がよかったということで。

穏やかな一年でありますように。

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