福袋をめぐる風景
地上に福袋を(ネット予約までして)買いにやってきた冥府の女王ペルセフォネ様のお話。
――という夢を見ました。ほぼそのままです。
『………………の街は、新年からインバウンドの観光客で賑わっています。晴れて過ごしやすい陽気になり、道行く人の顔も明るいように見え………………』
一つ目。
可愛い服と小物が可愛いバッグに入っている。可愛いの詰め合わせセット。
漢字で「福袋」と書かれた赤い紙の手提げ袋に入れられて渡された。どこにでもありそうなシンプルなデザインの紙袋。
なのに、きらめいて見えるのはどうしてだろう。
浮きたつ気持ちで彼のもとに戻る。
「お待たせ。無事ゲットできたよ、ほら」
「そうか、良かったな」
「ほんと良かった。スマホが死んじゃった時はどうしようかと思ったけど」
「あれは本当にすまなかった」
「いいわよ。ママのところでちゃんと予約できたから。里帰り許してくれてありがとう」
「そこまでするほどの物か?」
「そこまでするほどの物なの。いい歳して似合わないって思ってる?」
彼には、このわくわくした気持ちは分からないのだろう。
だったら無理にくっついてこなくてもいいのに、と思いながらちょっとむくれてみせた。
「思ってない。貴女にはなんだって似合う」
「そう、なんだって似合う、ね……。まあいいや、次に行こう」
「次?」
二つ目。和菓子詰め合わせ。
三つ目。洋菓子詰め合わせ。
「こんなに買って食べきれるのか?」
「お土産にね。この後、ママのところにも寄るでしょ?」
「あそこは、こういう手土産など不要だと思うが」
「そうかもしれないけど、一応。それに貴男だって食べるでしょ」
「そうだな」
ぶつぶつ言いながらも、彼はちゃんと荷物を持ってくれる。
黒いロングコートの彼が赤い福袋を提げている姿は、妙にシュールで可愛い。
言わないけど。
「じゃ、次」
「え、まだ次?!」
ショッピングモールの中、吹き抜けのホールになっているところにベンチがいくつか置いてある。
彼女は空いているベンチを確保すると、ここで購入済みの福袋と一緒に待っていてくれと言った。
「買い物日和で良かったわ」
「貴女が地上にいるからだろう」
「じゃ、これもお願い」
彼女はパステルカラーのダウンジャケットを脱いで渡してきた。
薔薇色のニットが華やかで愛らしい。
「さあ、いざ戦場へ。期待しててね」
「よく分からんが、武運を祈る。気を付けて」
薔薇色の後ろ姿はすぐに、人混みの中に突撃していって見えなくなった。
この買い物がよほど楽しいのだろうな、と思う。
だからベンチでおとなしく待つことにする。福袋とダウンジャケットとともに。
行きかう人々も楽しそうだ。
家族連れがいくつか。
女性の友達グループ。
男性のグループが女性たちのグループに声をかけている。どうやらナンパというものらしい。女性グループは断ったようで、男性たちを振り切って立ち去った。男性グループはホールに残って、声をかける相手を物色している様子だ。
今日の地上は暖かく春めいているから、頭の中も春めいているのだろう。
――あ、彼女だ。
手に福袋を提げて、笑顔でこちらに向かってくる。
その彼女に向かって男性グループが移動を――おい、待て。
福袋とダウンジャケットをつかんで駆け寄る。
男の一人が彼女に手を伸ばし――
「我が妃に触れるな」
つい、声に力が入ってしまったのは仕方がないと思う。
ちょっとばかり力が入りすぎて、人間の命にかかわるレベルに達してしまったようだが、それも仕方がない。
彼女に下心をもって近づいたのが悪いのだ。
男どもは皆、床に倒れ伏した。
「まったくもう、なにやってるのよ」
「面目ない」
妻にナンパしようとした人間にキレて殺しかけるとか、我が夫ながら怖すぎる。
とりあえず死者は出なかった。余計な仕事も増えずに済んだということだ。
言葉の分からない外国人観光客のふりをして、近くにいた人に手振り身振りで医者を呼ぶように頼んだ。トラブルに巻き込まれただけの観光客だと思ってもらえて、早々にその場から離れることができた。
「もう帰りましょうか」
「すまない」
「いいわよ、目当ての物は買えたから」
「そういえば、何を買ったんだ?」
「貴男の服。きっと似合うと思うの。帰ったら着て見せてね」
「分かった」
四つ目。夫のコーディネート一式。
たまには黒以外も着なさいな、我が王。
『………………は日中暖かな陽気でしたが、夕方ごろから急激に冷えこんでいます。予想最低気温は…………』
縁起がいいのか悪いのか、よくわからない夢でした。
お楽しみいただけたのなら、縁起がよかったということで。
穏やかな一年でありますように。




