序
このエピソードは「序」です。物語が始まるのは次からですので、こちらの方は読まずとも物語に影響はありませんが、読んでいただくとより面白くなると思います。
己の才のなさに気づいたのは、いつであったか。
「世界に出てやるんだ。」
そう叫んだ身の程知らずの己の慢心に気づいたのは、いつであったか。
己より優れた同門に、妬心を抱いたのは、いつであったか。
成功している人間を見ると、胸が苦しくなるようになったのはいつであったか。
あれほど好きだった読書にすら、苦痛を覚えるようになったのはいつであったか。
失敗したあと、踏ん張ることができなくなったのはいつであったか。
才がなくても走り続ける自分にすら陶酔できなくなったのは、いつであったか。
己のアイデンティティを否定され、立ち上がれなくなったのは。
うわべの笑みを浮かべるようになったのは。
己の傑作を否定するようになったのは。
自信が持てなくなったのは。
他人のせいにできなくなったのは。
自己を正当化できなくなったのは。
此の世に絶望したのは。
なにもかも面倒くさくなったのは。
腐敗した権力を持ちたいなんて思ったのは。
己が一番嫌う人種に落ちていることに気づいてしまったのは。
いったい、いつであっただろうか。
よろしくお願い致します。