第068話 驚愕
ひん曲がる口。
そして途方もなく飛んでいるツバ。
驚愕している彼女の口から飛び出した言葉は、俺たち全員が唖然とするに十分すぎるほどの衝撃を携えていた。よって、全員が同時に「ハァ~!?」と叫んだのは当然なのかもしれない。
「ぴ、ピルピル草って、俺たちが育ててるあのピルピル草ですか? それにしてはデカすぎる気がするんですが……」
従来のピルピル草は、最大でも背の丈50センチが限度で、太さもせいぜい一センチ弱。稲穂が風に揺れ、さらさらと葉先を靡かせるのが初冬から春先までの光景なのだが、俺たちの目の前にあるソレは、背の丈二メートル以上、幹の太さは20センチ強で、今この瞬間もドクンドクンと音を立てながら巨大化している。どう考えても、こんなものはピルピル『草』じゃない!
「いやいや、これどう見ても木ですって。確かに幹は緑色だし、言われてみれば葉っぱもピルピル草に似てはいますけど。サイズ感が違いすぎますから!?」
俺は偶然持っていた従来の葉と、ハウス内で拾った俺の腕ほどありそうな葉を並べてみせた。1/16のプラモでも見ているほどサイズ感が異なり、思わず全員の顔から苦笑いが溢れてしまう。しかし苦い顔したリッケさんは、それを見比べ改めて確信した様子だった。
「やはりこれはピルピル草よ。まずこの太い幹だけど、この植物には木質化する部分がなく、そもそも木でないことは明らかよね。それにこの葉も、特徴的な形状に加えて鋸歯や全縁のパターン、それに葉脈に至るまで、全てがピルピル草をただ大きくしただけの範疇に当てはまってる。この数日、嫌になるほど見てきたんですもの。間違えるはずありませんわ!」
森中に響き渡る声で宣言する。
しかしそう言われましても、誰もがそれと信じきることはできないわけで……
「同じと言われましても、実際同じではないわけで……。どゆことなの?」
俺の疑問に全員が首を横に振った。
それでは仕方がない。犯人を炙り出していきまっしょい!
ひとまず一旦この巨大植物を見ないことにした俺たちは、村の広場へと戻り、村人全員に緊急招集をかけた。そして昨晩から今朝にかけて発生したピルピル草の異常成長について、現物の状況を踏まえて確認していくことにした。
「このように、たった一晩で俺たちのピルピル草が巨大化してしまいました。何か心当たりがある方はいませんか?」
しかし皆が顔を見合わせ、「そんなこと言われても……」と困惑している。
「ならもう少し細かく聞いていきましょう。まず、あのハウスの担当者はどなたでしょうか?」
俺の問いに唯一手を挙げたのはマルさんだった。
「おいらが一人でやりました」と涙ながらに語ったマルさん。
ですから俺が虐めてるみたいに見えちゃうので泣かないでください……。
「それで、昨晩はどのような状況だったと?」
「ええとね、昨日はほかのハウスと同じように苗を植えたんだな。生育状況を確認できるようにね、一日単位で分けながら植えてたんだけどね、それがダメだったのかなぁ? うぅぅうぅ」
しかしたったそれだけの違いで、生育状況にこれほど差が出るとは思えない。
そもそも根本的な大きな原因が必ずあるはずだ。
「ほかには何かしませんでしたか?」
「ええとね、ええとね、昨日はほかのハウスの作業を先に終わらせてね、あの日当たりの悪いハウスは最後に作業したはずなんだな。手前の一列分に苗を植えてね、水を撒いてね、早く育て~、頑張れ~、頑張れ~って応援したんだな!」
なんですか、そのホッコリエピソード……。
でもそのような声援だけで植物が育つなら誰も苦労しません!(※でも応援することは可)
「他には何もありませんか?」
「ほか、ほか、……ほか、ほか、ほか、ほか」
「このままだとホカホカ何かが温まってしまいそうですけど……。あ、そうだ、そういえばさっき肥料がどうとか言ってませんでしたっけ?」
「うんにゃ、肥料は撒いたよ。でもおいらが撒いたのはね、この村で使ってる普通の肥料にね、おいらたちが昔から使ってる特製の汁を混ぜたくらいでね、ほかにはなんも使ってないはずなんだな……。うぅぅう、エッグッ、ヒッグッ」
…………あれ、俺の勘違いだろうか?
この人、なんだか今、サラッと変なこと言わなかった?
「待ってください。その特製の汁というのはなんでしょう?」
涙と鼻水でグズグズのマルさんは、ミナミコアリクイ族に代々伝わる特製の肥料だと言って、俺に小瓶を差し出した。普通の堆肥に瓶の中身を数滴混ぜて使用したらしいのだけど……
俺は小瓶の中から液を一滴皿に垂らし、『鑑定』で成分を調べてみた。
すると――
『 な、な、な、なんじゃあこりゃー!!? 』
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