第064話 準備万端整った!
「そしてハクにはこの村のリーダーとしてみんなを引っ張ってもらうわ! 早い話が、みんなハクに期待してるってこと。ということで、よろしくお願いしますね、村長様♪」
チュッと投げキッスしながらくるりと一回転したしたマーロンさんは、俺の頭の上からポンチョを抱き上げた。
「ねぇねぇ、ポンチョは~?」
「もちろんポンチョにもお仕事があります。ポンチョ殿! ポンチョ殿には、この村の『看板役』にご襲名いただき、村の象徴として活動いただこうと思っております!」
「しょ~ちょ~? なにそれ~?」
「ちょっと難しいかったかな。簡単にいうと、村のみんなのお友達、みたいな感じかな?」
するとポンチョはキラキラ目を輝かせ、「ポンチョ、みんな、お友達!」と張り切っているご様子。なんだか上手く丸め込まれた気がするけど、今さら俺が何を言ったところで覆すのは難しそうだ。
これがいわゆる数による暴力というやつですね!!
「しかし今はそんな決まりきったことを言っている場合ではないでしょう? ハクさん、それにマーロンさんも、忘れてないでしょうね?」
俺の苦悩をバッサリ斬り捨てたリッケさんがパチンと指を鳴らす。
すると彼女の背後に隠れていた何者かがスススと前に出てきた。満を持して現れたのは、アリクイ族のマルさんだった。
「それでは早速始めましょうか。私たちに残されている課題、『蟻たちの戯れ』について」
もう一度パチンと指を鳴らすと、今度はボアボアが大きなゲージを運び入れ、俺たちの前にドンと置いた。中を覗けば元気よく動き回っている蟻たちの姿があり、「いよいよだな」とマーロンさんが呟く。
「アリクイ族のことがあって先延ばしになっていたけど、さっさと進めてしまわないとね。もうすぐ霜が降りて冬がやってくる。それまでに受粉の精度をできる限り上げておかないと」
いよいよですねと俺は息を飲んだ。これが上手く行けば、村にとって新たな『武器』となるに違いない。今は秘密裏に村を拡大している段階でしかないけど、これからこの村が外の世界と繋がっていくには多くの武器が必要だ。俺たちはできるだけ早く、その武器を手に入れなければならない!
……とは言ったものの、これからどうするつもりなのだろうか。
俺は何をすればよいのかわからず、手を挙げて質問した。
「それでリッケさん、どのような方法で実験するのでしょうか。正直なところ、まだ漠然としていてイメージが浮かばないのですが」
「そういえばハクさんには話していませんでしたね。マルさんたちとも相談して、今後の進め方を考えました。結論としては、まず小さな範囲で『蟻たちにどの程度の動きが可能か』を検証するところから始めましょうということになりました」
「なるほど、それで具体的な方法は?」
「まずはハクさんにご用意いただいたそちらの小屋(※検証用の小型ハウス)をお借りし、中に擬似的に用意したピルピル草の生体を設置して、蟻たちを意図的に動かすことができるかを検証するつもりです。方法としては、一定間隔ごとに置かれたピルピル草に対し、ポイント毎に水の粒子を含ませた魔石を置くことで彼らが進行可能な方向を一定化させ、こちらの意図的に行進を行います。また周囲の環境も光を遮るなど夜の環境を意図的に生み出し、彼らには自主的に餌を捕食していると思わせるように努めます」
「な、なるほど……。でもちょっと待って。俺のハウスだと、蟻たちが作る玉には狭すぎるんじゃないかな。ほら、10メートルもあったら動く隙間なく終わっちゃうよ?」
「その点はご心配なく。既にどの程度の数が揃うことで彼らが蟻玉を作るかについては検証済みです。おおよそ20センチ前後の直径を形成できる数が揃えば、彼らは蟻玉を作り、動かすことができます」
「そんな検証をいつの間に……。でも肝心の受粉はどうなの、それだけの数で可能なの?」
「私の計算によると、むしろあまりにも大きな蟻玉では、彼らの身体に付着する花粉の数が分散しすぎてしまい、受粉を促すことができないのではと想像しています。そのため蟻玉の大きさは20から30センチ程度に抑え、ピルピル草の先端にある雌穂から、周囲に垂れ下がった雄穂までをちょうど覆い隠せる程度の範囲で玉をスライド移動させることによって、より効率的に受粉作業を促せるのではと考えました」
あまりにも具体的な方法論を示され、俺は「はい」としか答えようがない。
しかも知らぬ間に水の粒子を含んだ魔石までもが準備済みで、既に俺の号令一つで実験スタートできるまでにセッティングされていた。
あの……
準備が良すぎるんですけど!?