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第063話 第一代 村長爆誕



   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 しかしそれはそれとして、俺たちにはまだまだしなくてはならないことが山ほど残っている。


 蟻のこともそうだが、そもそも本来の目的はピルピル草の栽培だ。

 冬季間の食料確保が叶えば、俺たちの村にとっては大きなメリットになる。何より長期的な面でみると、資金確保や安定的な村営に大きく関わってくるに違いない。


 現在の人員としては猫族が42名、ボアが23体(※村所属のみ)、アリクイ族30名に加え、俺、ポンチョ、リッケさんの100名にも満たない数だけど、生活が安定することでさらに人手も増えていくに違いない。ただ何より問題なのは、現実問題としてまだ俺たちが持っている武器がイモ一つしかなく、新たな村のシンボルにできるものを、できるだけ早く打ち立てる必要があった。


「そのためにも、私たちは喫緊(きっきん)の課題として残っているピルピル草の受粉作業をどうにかクリアしなければなりません。しかもそれを成功させたうえで、ピルピル草自体の改良も推し進める必要がある。ハッキリ言って、これは簡単な壁ではありません。しかし我々ならば、この大きな問題を、必ずや解決できるはずです。そうでしょう、みんな!?」


 な~んて夜な夜なひとり考えていた俺の意気込みなどさておいて、翌朝俺が姿を見せるより先に畑の広場に集まった面々は、マーロンさんの演説を受けて「エイエイオー!」などと声を張り上げていた。こうなると困ったのは俺である。残念なことに、もう一つも言うことがありません。


「お、おはよう。なんだか凄い活気だね」


「ああハク、遅かったじゃないか。ご覧のとおり、もうみんな準備万端だ。すぐにでも作業に取りかかれるぞ!」


 歴戦の勇士のような立ち振舞でこちらに注目している村人たち。

 猫族の族長が「注目!」と号令をかけるなり、全員が俺の方へと向き直り、揃えたタイミングで地面を踏み鳴らして敬礼した。


「これより作業に取り掛かる! 持ち場は先程伝えたとおり、手分けして進めてほしい。各々が率先して任された仕事に取り組み、一つでも上の成果を得られるよう努力を怠らぬことだ。以上!」


 彼女の締めの言葉に反応し、それぞれが一斉に持ち場へ散っていく。ダラダラ歩く者は一人としておらず、俺の頭上でまだ寝ぼけ(まなこ)なポンチョさんが少しばかり不憫になっちゃう。


「あの……、そこまで気合い入れなくてもね、なんというか……」


「何を言っているのだハク。我らに残された時間は無限ではないのだぞ。何より我らは、この村を救ってもらった()()の期待に応えるため、50の力を100にも200にも高めねばならんのだ。遊んでいる暇などあるものか!」


 鼻息荒く拳を握り、マーロンさんが力説している。

 するとそこに唯一姿がなかったリッケさんが欠伸(あくび)しながら現れ、「おはよ~」と挨拶をした。


「リッケさん! 貴方もこの村で暮らす以上は、もう少し自覚を持ってください。何より()()であるハクより遅い登場などもってのほかです。わきまえなさい!」


「ハハ~」とふざけて頭を下げたリッケさんとマーロンさんが言い争っているけども、そんなことより俺には一つ気になった一言が……


「ちょっと待った。それよりも、さっきなんだか気になる一節があった気が。……俺、いつから『村長』になったの?」


 言い争いを止め、二人が俺を見つめている。

 ……何でしょうか、その冷たい視線!?


「当たり前じゃありませんか? これだけ村が大きくなってきたんですもの。自ずと村を代表する者が必要となりますよね」とリッケさん。


「そうです。そして誰がこの村の代表になるかなど聞くまでもありません。全員の意見を確認した結果、満票でハクということになりました」とマーロンさん。


 また俺が知らない間に勝手に決まっている……。

 どうしてこの村の方々は、俺の意見を一切聞いてくれないんだ!?


「い~や、少し待ってほしい。それは少々おかしいのではなかろうか。そもそもこの村にはそれぞれの種族の長がいらっしゃるわけで、本来その中から代表となる者を選出し、議論のうえ決定するのが正しい選択だと思います。よって俺は、全くの門外漢かと……?」


「その点は心配いらない。ボアたちの長であるボアボアは、土地開発の長としての役目を担ってもらった。今後は周辺地区の開拓や開墾作業を率先して行ってもらうつもりだ。もちろん、以前ハクが指摘していた町への行き来についても考慮済みだぞ。またアリクイ族の族長殿には、農耕面での管理を担当していただくことに決定した。聞くところによると、彼らは植物の管理に長けており、しかも蟻たちを捕食する者としてその知識も深いようだ。彼らを使った農耕開発のプロとして、今後大きな成果を出してくれるのではと期待している。我々猫族については、族長を中心とした村域開発を任されることとなった。村に必要な物資の調達や外部とのやり取り、ギルドとの作業調整についても我々が担当する。困ったことがあればなんでも相談してほしい。そしてリッケさんには各それぞれの分野における相談役と、村にとって新たに必要となる目標の立案をお願いするわ」


「任されよう!」と胸を叩くリッケさん。


 いや、ですからね。

 俺はそんなことまったく聞いてないんですけどもね……


 なんだろう、酷く虚しいんですけどね……


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