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元チート級暗殺者のもこもこ村開拓記 ~すでに2度死んでる最強の殺し屋ですが、新たな人生はもふもふケモナーさんに囲まれた優雅で静かなスローライフを送りたい!  作者: THE TAKE
第2章 ピルピル草栽培開始!

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第051話 二人のアスリート



   ☆ ★ ☆ ★ ☆



「以前のように小さなカップに閉(と)じ込(こ)められる数であれば、恐(おそ)らく捕獲(ほかく)は簡単(かんたん)でしょう。しかしその程度の数では皆(みな)さんの想定している畑面積に対し、作業する蟻(あり)たちの数が圧倒的(あっとうてき)に足りません。少なくとも蟻(あり)玉四つ分、彼(かれ)らを確保する必要があると思います」


 フィールドワークを口実に再び村へやってきたリッケさんが、指を立てながら力説する。しかし正直なところ、俺(おれ)はどうして彼女(かのじょ)が蟻(あり)を掴(つか)まえることができたのか、まだよく理解できていない。


「リッケさんに一つ質問が。以前書庫で聞かせてもらったけど、貴方(あなた)はそこで『生物を口にしない』と言いましたよね。でもその理屈(りくつ)だと、リッケさんの手を食べなかった理由はわかるけど、カップを食べられなかった理由がわからないんだけど」


「その疑問(ぎもん)、いいですね!」と俺(おれ)の両目の間に指先を向けた彼女(かのじょ)は、そのまま指先を数匹(ひき)持(も)ち込(こ)んだ蟻(あり)たちの足元に添(そ)えた。すると当然蟻(あり)は彼女(かのじょ)の指先を避(さ)け、別の方向を向いてしまった。


「その疑問(ぎもん)の答えは恐(おそ)らく単純(たんじゅん)です。彼(かれ)らは幾(いく)つかの条件を組み合わせ、その条件に合致(がっち)したものを餌(えさ)と判断しているのかと思います。まずは最も簡単(かんたん)なものでいいますと、『熱』ですね」


 背負(せお)っているリュックの中に入っていたカップを指さした彼女(かのじょ)は、熱を移さないよう慎重(しんちょう)に地面に置き、その中に一匹(ひき)蟻(あり)を入れた。外気温と差のない陶器(とうき)製のカップの中で数秒ウロついた蟻(あり)は、あるところで急に立ち止まり、カップの縁(えん)をかじり始めた。その姿(すがた)を目撃(もくげき)した俺(おれ)とマーロンさんは、彼女(かのじょ)の思惑(しわく)どおり驚(おどろ)きの声を上げてしまった。


「当然条件の全(すべ)てがわかっているわけではありませんが、彼(かれ)らは何らかの器官を用いて生物特有の熱や魔力(まりょく)、動きや呼吸(こきゅう)の有無(うむ)などを読み取っているのだと想像します。あの夜は、緊張(きんちょう)から私(わたし)の手の熱と汗(あせ)がコップに移っていましたので、彼(かれ)らにはこれを餌(えさ)と判断することができなかったのでしょう」


 思わず納得(なっとく)してしまう。

 どうして荒唐無稽(こうとうむけい)な性格にも関(かか)わらず、何かを語るときの彼女(かのじょ)の言葉には一つひとつ重みがあるんだよなぁ。それが癪(しゃく)でもあるんだけど……


「だったらさ、温めた大きな網(あみ)で一網打尽(いちもうだじん)にしちゃえばよくない? ハクが走って、私(わたし)が上から網(あみ)をかけるの。きっと簡単(かんたん)だよ!」


 マーロンさんの提案に、俺(おれ)も同じようなことを考えてたと同調する。しかしリッケさんは心底引きつった嫌(いや)らしい顔で俺(おれ)たち二人(ふたり)を見つめ、「野蛮(やばん)……」と言(い)い捨(す)てた。野蛮(やばん)で悪かったな!


「何より恐(おそ)らくですが、その方法では上手(うま)くいかないと思います。10メートルほどもある大きな蟻(あり)玉ではございますが、もとは一匹(ひき)五ミリ以下でしかない生物の集合体です。きっと網(あみ)の隙間(すきま)から抜(ぬ)け出(だ)し、逃(に)げ出(だ)してしまうでしょう」


「だったら網目(あみめ)に魔力(まりょく)で薄(うす)いフタをしてしまえばいいよ。それなら大丈夫(だいじょうぶ)だと思います」


「うーん……。あまり強引(ごういん)なやり方は好みではないのですが、そう仰(おっしゃ)るのであれば、一度その方法でやってみましょうか」


 なんだか棘(トゲ)のある言い方をするリッケさんに対して、絶対の自信を滲(にじ)ませるマーロンさん。妙(みょう)な対決構造ができあがり、ライバルである両者の間にメラメラと炎(ほのお)が湧(わ)き上(あ)がっている。「ちゃんと協力しましょうね」となだめる俺(おれ)を無視(むし)し、互(たが)いが腕(うで)まくりしながらその時に向けて準備を開始した。


 魚を捕(つか)まえる投網(とあみ)用の縄(なわ)を繋(つな)ぎ合(あ)わせたマーロンさんは、それを上手(うま)く蟻(あり)玉へ投げられるようにシミュレートしつつ、縄(なわ)全体に耐熱性(たいねつせい)のある簡易(かんい)塗料(とりょう)を塗(ぬ)り「フフフ」と笑(え)みを漏(も)らす。どうやら彼女(かのじょ)の中ではもう蟻(あり)たちを捕(つか)まえる構図ができあがっているらしく、入念に何度も縄(なわ)を投げる仕草を行っていた。対するリッケさんは、口をすぼめて難(むずか)しい顔をしながら、頭の中で蟻(あり)を捕(と)らえる方法を模索(もさく)しているのだろう。あーだこーだブツブツ念仏のように譫(うわ)言を呟(つぶや)きながら、スポーツ選手のように時折身体を動かしつつイメージを繰(く)り返(かえ)しているようだ。


「よし、ハク。私(わたし)の方は準備万端(ばんたん)よ、いつでもいけるわ!」


「ふふん、まずはお手並(てな)み拝見(はいけん)かしら。ではハクさんにトゲトゲさん、いよいよ作戦開始ですわ!」


 腕(うで)を組み、バチバチ視線(しせん)をぶつけ合う二人(ふたり)のウォーリアー。

 俺(おれ)とトゲトゲさんは妙(みょう)な諍(いさか)いに巻(ま)き込(こ)まれぬようにそっと準備を整え、「では参りましょうか」と小人のような消え入る程度の声で言った。


 巨大(きょだい)化したトゲトゲさんが蟻(あり)の居所を探(さが)す間、縄(なわ)全体に魔力(まりょく)を流(なが)し込(こ)んだマーロンさんは、無言で俺(おれ)の右肩(みぎかた)にヨイショと腰掛(こしか)けた。対して自分の背中(せなか)より大きなリュックを背負(せお)ったリッケさんも、何を言うでもなく俺(おれ)の左肩(ひだりかた)にヨッコラショと腰掛(こしか)けた。


 なんでしょうね……

 何も言わず当たり前のように座(すわ)ってますけど、俺(おれ)はいつからお二人(ふたり)の移動手段(しゅだん)になったんでしょうか……?


「たのしそー、ポンチョも乗(の)るー!」


 そしてモコモコさんも頭の上にピットイン。わしゃ飛脚(ひきゃく)か!

 ひとりノリツッコミをしている間にも、トゲトゲさんの尻尾(しっぽ)が小刻(こきざ)みに何かを伝えている。目的の蟻(あり)が接近中であることを知らせる合図が次第(しだい)に大きくなり、俺(おれ)は両肩(りょうかた)の二人(ふたり)に「行きますよ」と宣言(せんげん)する。今か今かと待ちわびていた二人(ふたり)は、「GO FOR IT(※イケッ)!!」と叫(さけ)んだ。なぜ英語だ!


 前傾(ぜんけい)姿勢(しせい)で駆(か)け出(だ)す俺(おれ)に、ジェットコースターに乗る子供(こども)のように一切(いっさい)臆(おく)することなく「シャー!」と叫(さけ)んだ二人(ふたり)は、もはや速度に驚(おどろ)いていた過去の面影(おもかげ)すらなく、四方八方に視線(しせん)を向け蟻(あり)を探(さが)していた。ただひとりポンチョだけは、暇(ひま)そうに、かつ器用に頭の上でゴロゴロしながら目を擦(こす)っていた。


 トゲトゲさんの尻尾(しっぽ)が蟻(あり)玉の位置を示しながら離(はな)れていく。俺(おれ)は尻尾(しっぽ)の先をパンパンと叩(たた)いて礼を言うなり、尻尾(しっぽ)の先に足をかけ、彼(かれ)が跳(は)ね上(あ)げる反発力を利用して空中へと飛び出した。そして目標物となる巨大(きょだい)な蟻(あり)玉の姿(すがた)を天高くから捜索(そうさく)する。


「大きな魔力(まりょく)の塊(かたまり)は……。あれだな!」


 俺(おれ)とほぼ同時に指をさしたマーロンさんが、地上を超(ちょう)スピードで移動していく蟻(あり)玉の姿(すがた)を捉(とら)えていた。「フヒヒヒヒ」と怪(あや)しい笑(え)みが漏(も)れているリッケさんも、リュック紐(ひも)を強く握(にぎ)りながら身体を前後に動かし、今にも飛び出さんばかりに興奮(こうふん)しているご様子。いや、バランス崩(くず)れるから二人(ふたり)ともあまり動かないでよ!?


「一気に接近しますから、舌を噛(か)まないでくださいよ!」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

もし少しでも面白いと思っていただけましたら、評価やブックマーク等を頂けますと励みになります。

多分ポンチョも喜びます!

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