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第044話 砂漠の国より出でし漆黒の悪魔


「従来どおりのやり方でほんの僅かな改善を求めるか、劇的にやり方を変えて新たな方法を模索するのか。どちらも正解な気はするけど、さすがにそうそう簡単にはいかないよねぇ」


 翌早朝、村の畑の真ん中で準備を終えたピルピル草の種を見つめながら呟いてみる。しかし「誰と喋ってるの?」と聞いちゃったマーロンさんのせいで、ひとり浸っていた俺の雰囲気は台無しである。別にいいけどさ。


「マーロンさんは、どうするのがいいと思います? 今までどおりか、もう少し粘ってみるか」


「う~ん。それさ、トアは本当にその答えを私に聞きたいと思ってるの?」


「……と、おっしゃいます心は?」


「本当は自分の中で、もう答えが決まってるんじゃないのってこと。そうでしょ?」


「…………なんでもよくご存知で。だけどね、俺だって悩むことくらいあるんですよ!」


「そんなの私だってあるよ。これから村はどうなるのかなぁとか、私なんかがAランクの冒険者でいいのかなぁとか、今日の晩ご飯どうしようかなぁ、とか」


「……。最後の疑問に対する答えは置いておくとして、そのほかについては大丈夫だと思います、俺が保証します」


「ホント、簡単に言ってくれちゃってさ。あれ? そういえば今朝はポンチョと一緒じゃないの? いつも一緒なのに」


「まだ部屋で寝てます。それに……、俺だってたまには一人になりたいときくらいあります。知ってて言ってる癖に……」


「ウフフッ! あ、そうだ、今日の朝ご飯だけど、良かったらウチに食べにこない? たまにはご馳走したいってさ、()()()が」


「あはは、そんな言い方されたら断れませんって。わかりました、ポンチョを連れてすぐ行きます。……今日の俺は、食いますよ!(宣言)」


 招かれるまま豪勢な朝ご飯のご相伴にあずかることとなった俺たちは、朝からウキウキ上機嫌なポンチョを連れて族長宅を訪れた(※猫族の皆さん、もうほとんどが俺の自宅近くに移住完了済みです……)。未だ(あが)(たてまつ)るように敬ってくれる族長にはいつも恐縮するが、こんな俺なんかのことで皆の機嫌が良くなってくれるのなら本望だ。


「ハク殿、それでピルピル草の栽培には目処が立ちそうなのですかな? 此度(こたび)もコリツノイモのような、まっこと素晴らしい逸品がすぐにも食せるかもと想像してみるだけで、生きることが楽しみになりますぞ」


「ちょっと族長サマ、そのようなことを簡単に言わないでいただけますか? ハクも私たちも必死にやっているんですから」


「何をお前のような未熟者が生意気を。ハク殿にかかれば、ピルピル草の一本や二本、容易(たやす)いに決まっておろう。ですよね、ハク殿?」


 呆れ顔のマーロンさんと、ニコニコ顔の族長。仲良く並んだ二人の圧が凄いったらない。どうすりゃいいんだよ、俺は……


「努力はします、……が、どこまで期待に添えるかはわかりません。なにしろ今回は、見ず知らずの魔物が相手となりそうで」


「ほう、魔物ですか。して、それはどのような?」


「それがね、森に住んでるすばしっこい蟻なのよ。お父さ……、いいえ()()()()、何か森の蟻についての情報を存じ上げませんか?」


 別に堅苦しく言い直さなくてもいいのに……。などと二人のやり取りを見ていると、不意に族長がポンと手を叩いた。それからしばし席を外し、古い文献のような冊子を手に戻ってきた。


「こちらは……?」


「蟻とお聞きしてピンときましてな。その昔、西の大国でグレートアントが大量発生したとの記録がございまして、確かそのときの伝記が残されていたはずと。その一節がこの文献に載っていたのを思い出したのです」


 数百年前、コーレルブリッツよりさらに西の大国で、グレートアントと呼ばれる巨大な蟻の魔物が大量発生し、幾つもの大国を襲ったとことがあるという話は俺も小耳に挟んだことがある。しかしその蟻は一匹が俺の背丈の倍以上もあるような大型種で、大量と言ってもせいぜい数は5000。あの蟻玉を作った大量の蟻たちとは比べ物にならないほど少なかったと記憶している。


 それでも共通点がないとは限らない。俺は文献を受け取り、さっと目を通してみた。そこには族長の言うように、過去にターゲルという王国が滅びかけた歴史が淡々と(つづ)られていた。


「砂漠の国より出でし漆黒の悪魔は、瞬く間に王国全土を飲み込み、民衆を常闇の地獄へと突き落とした。巨大な蟻は、尻から決して刻めぬ糸を発し、口からは強力な粘液を吐き敵を絡め取り、我々の仲間を一網打尽にしてしまった……」


 なんだろう、変な違和感が。

 尻から糸、そして口から粘液……。


 あの……、

 それって本当に蟻ですか?


「奴らは町を破壊し、そこに大きな(まゆ)を作った。しかし我々は見逃さなかった。奴らの繭は火に弱い。我らは敵の寝床に火を放ち、奴らともども討ち死ぬ覚悟で勝負に挑んだ。そして見事、悪を討ち取ることに成功したのだ」


 いや、繭って書いてますけど……。

 これ、もう蟻じゃない気がするんですけど!?


「我々は勝利した。黒光りする漆黒の肉体を燃やし尽くし、我々は勝ったのだ。しかしその栄光も、彼らの存在なくしては成り立たなかった。そう、彼らの存在無くしては!」


 あれ、ここにきて新しい人物の登場!?

 って、もうページがないんですが……?


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