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第034話 冗談がすぎる


 ―― 二日後



 集まったギルドの視察団が森の入口を出発した頃、案内役となるマーロンさんの緊張度合はなかなかのものだった。


 俺監修のもと何度も入念にリハーサルを行い、ボアたちを含めて必要以上の打ち合わせを実施し、今この時を迎えている。俺はそこまでしなくても大丈夫と言ったけど、ギルドにおかしな疑念を持たれるのは厄介だからと聞かない彼女は、ボアボアと玉乗りまがいの大道芸まで練習し、準備万端状況を整えた。


 しかしこちらの柔和に進めたい雰囲気とは対照的に、ギルドの面々の表情は固く、その装備からも緊張感が漂っている。急遽掻き集めたランクCの冒険者が二人、D二人、そしてローリエさんとテーブルを加えた六名が帯同し、彼女に先導されるまま猫族の村を訪れたのだった。


「ようこそいらっしゃいました。私はこの村の長である族長のウィーヴルと申します。以後、お見知りおきを」


「私はマイルネの冒険者ギルドでギルドマスターを務めております、ロスカート・テーブルと申します。お目にかかれて光栄です」


 挨拶を交わした代表同士が勘繰りを入れる中、俺は目で合図をしているマーロンさんに「あまり気負わず」とジェスチャーで返した。しかし肩肘張って鼻息も荒いマーロンさん。本当に大丈夫か……?


「しかし……、こう言ってはなんですが、随分と静かなものですな。事前にお話は窺っていたものの、多くのボアたちを従えているとお聞きしていたので、どんな賑やかなものかと心配しておりましたが」


「ホッホッ、そう緊張なさらずとも大丈夫ですぞ。マーロンや、早速ではあるが、皆様を例の場所へ案内いたせ」


 どうやら浮足立っている彼女の仕事を早く済ませようとしたのか、到着するなり彼らを連れ出した猫族の皆さんは、ボアたちが待つ俺の村の一角へと視察団を招き入れた。少しはゆっくりしてもらったらいいのにと彼らの様子を遠目に眺めていた俺は、こちらに気付いた様子のローリエさんに手を振りながら、小さく欠伸をひとつ。


 戦闘場と銘打ったボアたちの泥浴び場を訪れた視察団の六名は、緊張の面持ちで警戒を怠る様子はない。いつボアたちが襲ってきてもいいように、自らが最も得意とする武器を構え、先導するマーロンさんに続き、一歩一歩確実に進んでいく。


「ここがボアたちが暮らす住処(すみか)となります。そちらに見えている泥の沼地は、主に彼らが泥浴びや戦闘訓練を行う場として使用しています。私たちと行う合同訓練に利用することもありますが、まぁ彼らの習性に合わせて作られた専用の集会場、みたいなものですね」


「しゅ、集会場ですか。猫族の皆さんとボアたちが集まって話をすることがあるのですか?」


 ローリエさんが不思議そうに質問した。どうやら獣人族相手とはいえ、ボアが対話を使った相互間のやり取りをするとは考えていないらしく、酷く感心していた。


「我々獣人族はボアと対話することができるため、彼らとの連携は造作もありません。口で言うばかりではなんですし、まずは見ていただくのがよろしいかと」


 ローリエさんの隣で指笛を吹いたマーロンさん。すると突然周囲が激しく揺れ始め、視察団の面々が腰砕けになりながら武器を握り直す。しかしそれを嘲笑うかのように、泥の底から浮き上がるように出現した多数のボアたちが、全員の周囲を取り囲んだ。


「ちっ、やはり罠か!? 全員、警戒しろ!!」


 テーブルの怒声に、他の五人が武器を身構えた。総勢六人の冒険者に対し、ボアの数はその四倍以上。あまりに多勢に無勢すぎる状況に、歴戦の勇士であるテーブルの額にも汗が滲んでいた。


 しかし五秒、十秒と経過しても、泥を払うばかりで襲ってこないボアたちの様子に目を奪われたまま、今度は困惑の表情を浮かべ始めた。まぁ無理もないよな……。


「ご安心を。最初に言いましたが、我らとボアたちの連携は完璧です。彼らが皆さんのことを襲うことは絶対にありません」


「し、しかし、この状況は少々冗談がすぎるかと」


「ふふ、そうでしょうか。それに、驚くのはまだ少々早いかと」


 不敵に微笑むマーロンさん。

 そこまでしなくていいと言っておいたのに、どうやらそこまでやってしまう、つもりらしい。


 パチンと彼女が指を鳴らすと、皆を取り囲んでいるボアたちの輪が広がった。そして次の瞬間、さらに激しい揺れとともに、皆々の前に激しく身体を揺らしながら黄金に輝く巨体が姿を現した。その様は、言ってみれば絶望を引き込むほどの迫力を醸し出している。


「なッ!?」


 大トリとして出現したゴールデンワイルドボアの迫力に飲まれ、視察団の身体から力が抜けていく。


 もはや死すら覚悟させるほどのボアボアの威圧感にやられ、冒険者たちはグルルルと鼻を鳴らした圧倒的な脅威から逃れる術なく立ち竦んでいた。


「……ご納得いただけたでしょうか、我らがボアと共存共栄の関係であると。それともまさか、まだ疑いの声を上げるとでも? でしたらそれも構いませんが、そのときはそれなりのお覚悟をいただく必要があるかもしれませんね」


 いやいやマーロンさん、何を仰っているんですか……。それ、皆さんを生きて返さないと言ってるのと同じことですよ?


 穏便にいきましょう、穏便に……。


「なるほど、確かに貴方がたとボアは協力関係にあるらしい。しかしいただけませんな。これでは何か、後ろめたいことでもあるかのように受け取られかねない。違いますかな?」


 ほ~ら、そうやって勘繰られる。

 視察団の中で唯一冷静を保っていたマスターのテーブルは、目の前で生暖かいボアの鼻息をかけられてもなお、腕組みしたまま、まっすぐに彼女のことを見定めていた。


 う~ん、そろそろ潮時だな。


「はーい、ストップストップ。皆さん、少々落ち着きましょうね。ローリエさんも落ち着いて、はーい深呼吸!」


 もはや魂すら抜けてしまいそうなローリエさんをボアの輪の中から助け出した俺は、「自分は部外者ですけど」と前置きしつつ話に割って入った。「だからコイツはいつもなんなんだ」と訝しんでいるテーブルの顔色を窺いながら場をなだめた俺は、「喧嘩はダメですよ」と彼らを仲裁し、取り囲んでいるボアたちに解散するよう命じた。


「まぁこんな感じで、猫族さんとボアたちは仲良く過ごしてますから大丈夫です。ほら、そもそも部外者の俺ですら、これだけフレンドリーな関係なんですから」


 などと言いながらボアボアの鼻面を撫でてみる。フンフンと嬉しそうなボアボアの姿に安堵したのか、残りの冒険者の顔色が少しだけ明るくなった。それでも……


「なるほど、本当にゴールデンワイルドボアを飼いならしている、か。しかしそれはそれで問題ですな。先程の貴殿らの発言は、それを黙って見過ごせと仰っているように窺えた。……これだけの戦力を保持し、はてさて何をするつもりですかな。まさか、国家への反逆などとは申しませぬな……?」


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