第030話 超希少種
「おい、聞いたか。モリスの森の東側で、またゴールデンワイルドボアが出たらしい。しかも今回のは、以前とは比べ物にならないほどデカいらしいぞ」
その情報は森の東側へクエストにやってきた冒険者によって目撃され、瞬く間に噂として広まった。しかも目撃されたボアは、以前マーロンさんによって倒された(※嘘ではあるが)ものとは比較にならぬほどの大型種とされ、ギルドでは緊急の対応案件として冒険者たちが招集される騒ぎとなっていた。
言わずもがな、真実は冬支度のためたらふくイモを食った結果、ボアボアがどっぷりと太ってしまったのが原因なのだが、しかしそれをギルドに報告するには時期尚早な気がしている。さて、どうしたものか……。
「私も緊急招集に応じてギルドへ行ってまいりましたが、皆さん酷い慌てようでした。我ら猫族がボアを管理していることになっているとはいえ、あれほど巨大なボアをどうにかできるものかと疑いまでは消せずで……。このままでは、少なくとも数日のうちに冒険者たちがボアボアさんを討伐にやってくるに違いありません」
「う~ん、それは困ったなぁ。まだボアボアに死んでもらうわけにいかないし……」
と言いつつ、ボアボアをチラッと見る。
「そんなッ!?」と悲しい顔をするボアボア。いや、さすがに討伐させるわけにはいかないから安心しなって。
「また少し牙を拝借して提出しても誤魔化すことはできないかな? ボアボアも随分牙が伸びて元に戻ってることだし」
「さすがに今度ばかりは難しいかと。前回の討伐(※虚偽報告)も、本当はボアを討ち取り損ねており、討ち漏らした個体が巨大化したのではないかと疑う者もいると聞きます。今となっては確認の方法がないと言い含めているそうですが、今度こそ証拠を提出しないと納得されないでしょうね」
「そっかぁ……。族長はどうするのが良いと思う?」
「我らはハク殿に従うまでのこと。ハク殿がギルドに真実を公表するというのならば、それに従うまでです」
「いやいやいや、だって俺、実際はまだFランク(※1ランクアップした)なんだよ。そんな奴がボアボアを従えてます、なんて言って、誰が信じてくれるのよ」
「ならば代役を立てるほかありますまい。マーロンよ、できるな?」
族長の問いにマーロンさんが驚愕の表情を浮かべている。なんだか面倒くさいことは全部マーロンさんに押し付けてる気がする。ごめんなさい、マーロンさん。
「ですがお待ちください! もし我々が管理していると報告したとして、それはこの地にゴールデンワイルドボアが存在する事実を認めることになります。ゴールデンワイルドボアは、超が付く希少種です。その毛や皮、肉や牙などを狙い、マイルネだけでなく他国からも冒険者たちがやってくるでしょう。それをどう対処するおつもりですか!?」
確かに彼女の言うことは最もだ。
ゴールデンワイルドボアはその存在自体が超貴重で、以前ギルドに提出した牙に関しても、恐ろしい価格で取引されたと聞いている(※前回は討伐隊の招集費用としてギルドに譲渡した)。管理している者がいると知っても、もしその存在が明らかになれば、命を狙って忍び込もうとする輩は確実に出るだろう。
「ようやくボアと猫族の関係性が確立されつつあるのに、今ボアボアがいなくなるのは絶対に避けたい。こうなったら、俺の方でなんらかの対策を打つしかないか……」
しかしゆっくり考えている暇はない。
俺は急ぎマーロンさんとギルドを訪れ、実はゴールデンワイルドボアを猫族との間で管理していることを窓口担当者であるローリエさんに伝えた。
「な、な、な、なんですって……? もう一度、仰っていただけますか……?」
「はい、ですから、我々猫族が管理していたボアたちの中から、新たにゴールデンワイルドボアが発生したと。しかし問題なく管理できているため、町を襲ったりする心配はありません」
「そ、そ、そ、そんなことって、ご、ご、ご、ご、ゴールデンワイルドボアを管理って、本当にそんなことが可能なんですか!!?」
居ても立っても居られず、ローリエさんが立ち上がったままビシビシとマーロンさんを指さしている。その姿はもはや叱責されていると言っても過言ではない。
「は、はぁ……。特に問題なく、良好な関係を築けているかと」
「は、ははははは、ははは、ゴールデンワイルドボアって、少なくともBランク、しかも超巨大となればAランクでも討伐不可って言われてる化け物級の魔物ですよね? それを飼いならすって、猫族とはそれほどまでに強い種族だったのですか!!?」
錯乱状態で手足をビシバシ動かしながら叫ぶローリエさんに気付き、「なんだなんだ」と別の人物が裏から姿を現した。
「ローリエくん、少々落ち着きたまえ。そんなに慌てていては、皆様からまともに話を聞けんでしょうが」
現れたナイスガイは、自分のことをロスカート・テーブルと名乗り、ローリエさんの上司だと挨拶した。しかし……
「ま、マスター! と、突然出てこないでくださいよ、また話がややこしくなる~!!」
これは驚いた。
どうやら彼は、このギルドのギルドマスターらしい。
飄々としているものの、全身からは強者のそれが滲み出ており、恐らくは過去それなりに名を挙げた冒険者だったに違いない。身長は俺よりもずっと高く、ことすれば威圧感のある体格といっていい。また全体が青みがかった黒髪に、前髪だけが白髪のメッシュ。左目は過去のものだろうか、縦に傷が入っており窺い知ることはできない。
「これはこれは、以前もお世話になったそうですね。確かお名前は……、そうそう、猫族のマーロンさんでしたか」
ローリエさんの隣に腰掛けたギルマスは、私のことはテーブルと呼んでくださいと前置きしてから、いわゆる本物の顔を見せながら、マーロンさんに質問した。
「聞くところによれば、通常種の三倍はあるゴールデンワイルドボアを管理している、とか……。しかし妙ですね。この短期間に、それほどまでに巨大な希少種が頻発するものでしょうか」
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