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第027話 ドーピング農業


 ―― それから数日後




 全ての準備は整った。


 マーロンさんや族長さん、ボアボアや町の人たちにも協力してもらい、必要な人手や物資もどうにか揃えられた。


 全てのお膳立てはしてもらった。

 あとはどうにか形にする。俺が、俺だけが頑張れば、あとはどうにか完成を迎えられる、……はずだ!!


 ビニールハウスをなぞらえた簡易式の小型ハウス(※作業を終えた職人さんに作ってもらった2畳ほどの広さの小屋)を擬似的な亜空間に仕立て、温度、湿度、照度、時間などを意図的に変えられるように調整し、急ごしらえで数種類の種イモを用意した。本来なら数ヶ月かかるものが数日でできてしまうのがこの世界の良いところだが、その分、俺の負担は激増する。この数日でアホほど魔力を消費したので、俺の目の下のクマはエグいことになっていることだろう。


「お、おいハクよ。少し無理をしすぎではないか。腰が曲がり、アンデッドのようになっているぞ!?」


 アンデッドって……。

 それはちと酷くないっすか。

 こうして特製の魔力活性剤や食欲増進エキスを注入し、目をギンギンにしながら頑張っているというのに!


「大丈夫ですよ。皆さんにあれだけ頑張ってもらっておきながら、自分だけ大失敗でしたなんて、恥ずかしくて言えないですから。それに今回ばかりは、失敗は許されません。二つの種族の存亡がかかっているのですから!」


「ハク……。わかった、私もできる限り協力しよう。必要なことがあればなんでも言ってくれ!」


 両手にグッと力を込めるマーロンさん。

 なんだろう、こうして見てみると、なんだから可愛らしく見えてくる。女性だと思っていなかった俺が言うのもおかしな話だけども……。ゴホッゴホッ!


「おいおい、俺たちのことも忘れてもらっちゃ困るぜ。マーロンだけに良い格好させてたまるかよ!」


 活気のある声に気付いて振り向けば、そこには猫族の皆さんとブホブホ鼻を鳴らすボアボアたちの姿も。これは心強いですね。


「ト~ア~! ポンチョも働くー!」


 ぴょんぴょん跳ねながらポンチョが俺の足にしがみついた。どうやらこれで全員揃ったらしい。……では、始めますか!


「ありがとうございます。しかし皆さん、そこまで気張らずリラックスしていきましょう。あとはコイツを埋めていくだけですから」


 俺は用意した一見では種イモに思えない枝のようなものを見せながら、これを一つひとつ等間隔に埋めていくことを皆に説明した。


 種イモについては、町の人から細かな情報を教えてもらい、自分なりに工夫を凝らして作り上げた。一般的な植え付けに必要な種とは趣向を変え、ハウス内で試作した中で最も生育が早かったイモの枝を垂直植えする方法を採用し、数を用意した。事前に聞いていた病気除けの『祝福』と呼ばれる魔法の付与に加えて、成長続伸、魔力吸収、水分吸収、日光吸収などの成長因子も可能な限りゴリゴリに付与しておいた。失敗する可能性を最大限に減らす工夫と、一定以上の量を作るための努力は、時間の許す限り全て詰め込んだつもりだ。


 集まった人たち皆で手分けし、数ヘクタールにも及ぶ巨大な農場の全領域に、小さな苗を植えていく。その光景は昔々小さな頃に見た、田植えを行う子供時代の自分を見ているようで、それはそれは牧歌的な良い風景だった。


 用意した苗を全て植え終えた俺たちは、作業の終了を喜び、全員でバンザイの声を上げた。しかしまだ仕事が終わったわけではない。……むしろ、まだ始まったばかりである!!


「ところでマーロンさん、例の件、覚えていらっしゃいますよね?」


「ふん、私を誰だと思っているんだ。もちろん、それなりの人員を集めておいたぞ!」


 マントを(ひるがえ)すような仕草をしながら、「こちらへどうぞ」とマーロンさんが人を呼んだ。するとそこには猫族だけでなく数頭のボアもおり、威勢よく「おー!」と声を上げた。


「……え? あの、俺が頼んだのって、次元魔法や天候魔法を扱える人材、でしたよね?」


「だから選りすぐりの人材を用意しておいたぞ。しかも今回は我々だけでなく、ボアたちの中からも魔法が使える者を呼んでおいた。彼らは魔物でありながら、低級の温冷魔法が扱えるようだからな!」


「ほへ~、俺の知らないところで色々やってくれてたんですね。本当に頭が下がります」


「それほどでも!」と全員が鼻の下を擦っている。ホント、短い時間でしたけど、皆さん良いチームワークになりましたよね。自分だけ置いていかれてる気がしないでもないけど……。


「ただ残念ながら次元魔法を扱える者だけは用意できなかった。さすがにそこまでの高等魔法となると、そうそう見つけることはできないと思う」


「大丈夫ですよ。そこはもし見つかったら程度に考えていましたから。それに、いないならいないで、俺が頑張るだけですから!」


「俺が……って。まさかハク、お前は次元魔法まで使うことができるのか!?」


「言ってませんでしたっけ。俺、五大属性に加えて、光・闇・無属性の魔法も一通り使えるんですよ」


「は……? 五大属性に加え、他の魔法も……? なんだよそれ、聞いたことないぞ!!?」


「ですからここだけの話でお願いしますね。では早速いきましょうか。温冷魔法組の皆さん、準備をお願いしま~す!」



 呆然と口を開けているマーロンさんのことは一旦置いておき、ここから先は魔力と体力によるゴリ押しがひたすら続く作業となります。


 温度管理と時間管理、そして日照管理を人工的かつ擬似的に作り出し、短期間で一気に農作物の成長を促す。言うなれば、ゴリゴリのドーピング農業である。


 実のところを言えば、食糧問題についてはかなり切羽詰まった状態になっていた。そもそも俺が止めなければ、ボアたちは数日後、町に攻め入っていただろうと聞かされていた。裏を返せば、それはもう彼らにとって森に食料が残されていないことを意味していた。


 そんな状態にも関わらず、俺は無理を言って彼らに手を貸してもらった。恐らく彼らの中には体力的に相当逼迫した状態の者もいたはずだ。だからこそ、俺たちは一分一秒を惜しんで作業を進める必要があるんだ!


 それから俺たちは、魔力の続く限り昼夜を通して畑全体の全天候と時間を操り、本来60~70日が必要となるところを、たったの8日という短期間で走り抜けたのだった。そして……




 ―― 9日目早朝


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