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第026話 最高の夜


 俺が簡易の研究小屋にこもり、イモの因子研究に入って一週間が過ぎた。意外に時間がかかるんだなと頻繁にマーロンさんが様子を見にきたけど、もともと一週間ばかりで終わる作業でないことはわかっていた。しかし自分の中で最初から一週間以内とタイムリミットを決めていたため、ひとまずここまでと割り切って作業を打ち切った。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、ずっと同じ体勢だったせいで腰が痛ぇ……。って、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!」


 昼夜問わずこもりっぱなしの作業を続けていたため周囲の景色に目が向いていなかったのだが、たった一週間という短い期間で、小屋周辺の景色はすっかり変貌を遂げていた。


 ただ草が生えている更地でしかなかった場所の中心に、ガッチリとした土台の上に乗った木造りの建物が出来上がっており、その隣にはどこから引いてきたのか、美しく整備された水場が用意されていた。家に至っては猫族の村で見たどの建物よりも頑丈かつしっかりとした作りをしており、職人らしき猫族の棟梁がへヘンと鼻をすすった。


 かと思えば、庭先から見えている視線の先では広大に耕された畑が広がり、上下数メートルを掘り返したのだろう、木の根一つない土壌の上に等間隔に(うね)が備えられ、今すぐでも植えられますとお膳立てされていた。


 適材適所といえば聞こえは良いが、体の大きなボアが力仕事をこなし、細かな作業を猫族たちが補い合い、思っていた以上に作業が捗った結果がこれ、ということらしい。


「は、ははは……。いやいや、ホントに皆さん有能すぎるでしょ……。彼らが力を合わせたら、マジでこの世界一瞬であの頃の現代社会を超えてしまうのでは?」


 ずっとこもっていた俺を見つけ、各所に散らばっていた者たちが集まってきた。皆が皆、口々に「あそこはどうだ?」「良い出来だろ?」と聞いてきたが、こんなのもう手放しで褒めるほかないじゃんよ!?


「ま、俺たちに任せりゃこれくらい楽勝よ。あとはアンタに仕事してもらうだけだな。期待してるぜ大将!」


「ボボボッババッッバババボバボバッバボーボバ!」


 猫族たちだけでなく、ボアたちもどうやら自分たちの仕事に満足しているらしい。しかしたっぷり仕事をしたせいで、その分腹が減ったと頭を掻いている。となれば、これはもう仕方ないか!


「じゃあここで一区切りつけて、皆さんで一緒に食事としましょうか。こんなこともあろうかと、前に手に入れたアレ(※ボアの肉や皮とは言えないのでぼやかした)を町の人たちと物々交換して分けてもらった食材があるので、みんなでバーベキューパーティーだー!!」


 バーベキューがどんなものかは知らないだろうけど、どうやら楽しい催しであることはわかってもらえたらしい。仕事を終えた全員を広場の中央に集めた俺は、余った木々を俵状に組んだものに火をつけ、「祭りだー!」と声を上げた。


 こうなってしまえば、もはや種族の垣根など関係ない。ボアも猫族の者たちも、それぞれがそれぞれに食事を楽しみ、魔物と人との垣根すらも飛び越え、夜の宴を楽しんだ。しかし残念なことに、俺だけがボアたちの言葉を理解することができないので、ところどころ完全に置いていかれ、疎外感を感じる場面があったことを報告しておく。



「しかし凄いですなぁハク殿。貴方様が出してくださるこれらの"特製調味料"と申すもの、どれも異常に味わい深く、我ら始めての体験に心躍っておりますぞ!」


「族長さんたちにそこまで喜んでいただけると、こちらも振る舞った甲斐があったってものですよ。……あれ、だけど前にマーロンさんにお肉を振る舞ったとき、沢山食べてはくれたけど、それほど反応はなかったような……」


 話を振ると、隣で肉を頬張っていたマーロンさんの顔が真っ赤に染まり上がった。どうやら美味しいのを隠して食べていたらしく、本心を言うとあれほど美味しい肉を食べたことがなかったらしい。……だったらその時教えといてよ!


 それにしても、今夜は最高の夜だ。

 俺の人生で、これ以上の夜があっただろうか。


 誰もが皆笑みを浮かべ、思い思いの時間を過ごしている。ある者は食事を楽しみ、ある者は泣き笑い、ある者は唄い、ある者は踊りながら、それぞれが好きにこの場を満喫している。


 しかしこの笑顔も、俺の選択一つで全てが無に帰すかもしれない。


 俺はひとり自分の胸をドンと叩き、必ずや全てをやり遂げると心に誓うのだった――


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