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第023話 新しい村


「不服というか、ハクならばパルパル草を選ぶと思っていたからな。パルパル草はこの国の者にとっては一般的な主食で、その種類も多種多様だ。なにより味も多彩だし、村のものたちにとっても最も必要とされている作物だ。せっかく森の奥地で農業を始めるのだから、特色のあるものに挑戦するのが良いと思ったのだけど……、それでも選ぶのはハク自身だからな」


「ふ~ん。って、やっぱり不服だったんじゃないですか。酷いなぁ、それなら最初に言ってくれればいいのに。なぁポンチョ」


 お腹いっぱいで、いつからか俺の頭の上で眠りこけているポンチョの腹を撫でながら聞く。まぁ完全に無視ですけど。


「だけど裏を返せば、俺がコリツノイモを栽培しても、あまり期待できないと思ってるってことですよね?」


「それは……。言い方は難しいが、コリツノイモは太古の昔から存在するずっと変わらない作物だ。誰でも簡単に育てられるし、飢饉や食糧難に陥った国にとっては必要不可欠の食べ物だ。しかし……、それだけだ」


「でも今回一番重要なミッションは、ボアたちの食糧難解消ですからね。まずは簡単で、かつ量を確保できる食材でなければ意味がない」


「それはそうだけど……。でも苦労して作った結果、奴らに見向きもされませんでした、では済まされないんだぞ」


「その点、俺はあまり心配してなかったり。……あれ、目的の森ってこの先でしたよね。ここにこんな整備された道みたいなものありましたっけ?」


 東の森の奥地へと向かう険しい山林の中に、突如として現れる整備された小路……。狐に化かされてるのかと苦悶の表情を浮かべる俺の隣で、マーロンさんが「ハァ」とため息をついた。


「どうかしました?」


「いえ、これは恐らくアレかと」


 彼女の言葉の直後、森の奥からズドンッと何かが倒れる音が響いた。飛び去っていった鳥たちの姿を眺め見ながら、俺は嫌な予感に襲われるまま、音がした方を目指して走った。すると……


「ボボバボーバ、ボボボバボボボボババボ!!」


 鼻息荒く、人語でない獣の言葉が猛々しく響いた。その傍らでは、屈強な土で押し固めた防具を肩に装着したボアたちの姿がズラリと並んでいる。


「ボバボバボバババボババボボババボ、ボボボバボボボボババボ!」


 ズドドドという地鳴りがする足音を引っ提げ、何かがこちらへ走ってくる。金色に輝く雄大な身体を揺らしてやってきたのはボアボアで、どこか誇らしげにフンフンと鼻を鳴らし、俺の前に(ひざまず)いた。


「こ、これは……。ボアボアくんの仕業かい?」


「ボバババボババボボババ!」


「そうでございます、……だってさ」


 どうやらボアたちは俺の自宅兼畑を作る予定の場所まで、道を用意しようとしているらしい。道中にある木々や障害物を根こそぎ破壊したうえ、さらには地面を踏み固め、整地している真っ最中だった。


「あ、あははは。道を作ってくれてたのね。でもね、道は作らなくていいんだ」


 俺の言葉にショックを受けたボアボアが「そんな!?」と目を潤ませ、見るまでもなく落ち込んでいる。確かに道があれば行き来は便利になるけど、正直便利になってもらっちゃ困るというか、むしろダメというか……。


「親切でやってくれたんだね、ありがとう。でも俺が望んでるのはむしろ逆でさ。俺の家や、キミらの住処への道のりは、より険しく、より危険な方がいいんだよ」


 俺の言葉に、ボアボア、そしてマーロンさんが「は?」という顔をしている。

 そりゃまぁ当然か……


「もちろん俺や彼女にとっては行き来が楽になって良いんだけど、キミらには問題だ。いくら俺たちが町の人にキミらが害のない魔物だと説明したところで、それを信じてくれる人はまだ少ない。となれば、今後キミらのことを討伐にやってくる冒険者がそれなりにいるだろう。そんなとき、森の奥に続く道なんかあったらどうなる? 多分、損をするのはキミらだ。何より もし食糧問題が解決できなければ、再び争い状態に戻ることだってあり得る。そうなると、今度は町にとってこの道が悩みのタネになってしまう。現状、これを作るには問題が大きすぎるんだよ」


「確かに、それはそうかもしれないけど」


「だからまずは現状を変えず、事態の解決のみに注力していこうと思うんだ。ボアボアたちには少し苦労をかけると思うけど、食料問題はできるだけ早く解決したいと思ってる。だから今はそれより先に、俺たちの住む家と農場を作らないとね!」


 するとボアボアは、そこも抜かりないと言いたげに牙を動かし、「背中に乗れ」とジェスチャーを出した。「いいの?」と驚きを隠せない俺たちに頷いたボアボアは、ファサファサで美しい毛並みの背中に俺たち三人を乗せ、踏み均された森の中を走った。


「おおおおおおおお、ゴールデンワイルドボアの背中。フサフサでモコモコだ。おいポンチョ起きろ、モコモコだぞ!?」


 頭の上で寝ていた同類のモコモコさんを起こすと、すぐにテンション爆上がりで「ポッポー!」と騒ぎながら喜んでいる。単純なお子様だこと。


 しばしボアの背中を楽しみながら休憩していると、隣に腰掛けていたマーロンさんが「さっきの件だけど」と声をかけてきた。


「さっきの、といいますと?」


「食料のことよ。ハクはさっきあまり心配してないと言ってたけど、私には心配だけしかないわよ。だってアナタたち、コリツノイモはあまり好きじゃないわよね?」


 マーロンさんがボアボアに質問する。

 するとボアボアは、「コリツノイモ!?」と両目を見開いて反応し、ブホブホと嫌そうに何か叫んでいる。ああ、お芋さんキライなのね……


「ほらみなさい、やっぱりそうじゃない。どうするつもりなの?」


「じゃあちょっと通訳頼んでいいかな。ボアボアはコリツノイモのどこが嫌いなの?」


 バボバボと嫌そうに返事するボアボアの言葉を頷きながら聞くマーロンさん。どうやら彼女もボアボアと同意見らしい。


「甘さより苦みが酷いのと、口の中にやたら繊維が残るのが嫌みたい。それに皮に粘着性があるせいで、飲み込むときに引っかかるんだって」


「ふむふむ、なるほどね。他には?」


「森の中にも沢山あるから仕方なく食べることはあるけど、味は薄いし水っぽいものも多いから(みじ)めな気分になるって。それくらいなら、不味くても他の生き物を襲う方がマシって」


「色々あるんだな。わかった、まずはそのあたりをクリアできるよう考えてみる。さて、そろそろ予定地に着く頃かな」


 事前に伝えておいた泉周辺の開けた場所を訪れるとすぐに、ボアボアがあそこを見ろと鼻面を動かした。そこには既に数頭のボアたちが陣取り、ボアボアに命じられてなにやら作業をしている様子。なんだってんだい?


「え、なんですって? ハク、ボアボアが何か伝えたいことがあるんですって」


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