第020話 男の子女の子
残念なことに、俺とポンチョには拠点とできるような居場所がない。しかも余計な干渉を受けずに生きていけるとなれば、それなりの条件が揃っていなければ意味はない。
ある程度町に近く、周囲に余計な声が届かない環境があり、贅沢を言えば自分たちに手を貸してくれる仲間がいる。そんな場所を見つけられればベストだった。
「人の出入りが少なく通称が付くような場所なら、変わり者の冒険者が住むにはもってこいの場所だろう。さらに高ランクのモンスターが出現するとなれば、余計な冒険者が近付く恐れもない。しかも俺に手を貸してくれるモンスターや仲間がいるとなれば、これからの生活をグッと楽にできる。終わってみれば最高の結果に落ち着いたのではなかろうか。一つを除いて、だけども……」
マーロンさんに鬼のような恨みを買ってしまった点は少しばかり痛いけど、そこは少しずつ返していくしかないだろう。今もこうして正座させられ説教を受けているが、これくらいは甘んじて受け入れようではないか!
「アンタは私に相談なく、いつも勝手に事を進めて、本当に何を考えているんだ!? 確かに私は命を救われ、我が村の危機も救ってもらった。しかし、しかしなんだこの湧き上がるような怒りは。一体なんなんだ!!?」
僅かな感謝と言い知れぬ怒りに苛まれ、自分でも何を言っているのかわからなくなってるみたい……。正座させられた俺とポンチョ(※楽しそうだが)を直視できず、マーロンさんが「ああだこうだ」とウロウロしている。
「ま、まぁまぁ、結果的に村も無事だったんだし、冒険者ランクも上がったし、誰も死なずに済んだんだから、万々歳じゃないですか。ははははー」
「うるさい黙れ」
ああ、恐い……。
それからしばらく、俺はマーロンさんにコッテリ絞られ、今後私に黙って勝手なことをしないようにと約束させられてしまった。さらに一度彼らの村を訪れ、猫族の族長に挨拶をするようにと命じられた。
「明日の正午、早速我が一族の長に会ってもらう。良いな、絶対にくるんだぞ!」
どれだけ良い行いをしても、そこに納得感がなければ余計な恨みを買ってしまう。これは良い教訓ですねとポンチョと笑いあった俺たちは、今度こそ怒られないように五分前集合で彼らの集落を訪ねたのだった――
広大に広がるモリスの森の東寄り。周囲から姿を隠すようにひっそりと開かれたその村は、穏やかに森の風景に溶け込んでいる。過去に見覚えのある高床式住居のような、地面から少し浮かせたような造りの小さな家々が並び、その外では……
「も、モフモフさんだ。モフモフさんがいっぱいいる!!」
マーロンさんが短毛だったため仲間もみんな短毛だと決めつけていたが、どうやら彼らはマヌルネコという種類の猫族らしい。しかもよく聞けば、マーロンさんは狩りのほかにも外の村や町との外交役も担っているらしく、仕事の関係もあり毛を短く刈っていただけで、本来は長毛のモコモコなのだそうだ。
(嗚呼、触ってみたい。もふもふしたい……)
村の面々は目移りするほどモフモフで、俺は族長と会話している最中も、まるで言葉が入らず、ずっと彼らの毛束に見入っていた。しかしどうやら悟られてしまったらしく、マーロンさんの肘鉄が横腹に突き刺さった。
「ゴフッ、そ、そうですね。しかし申し訳ない、本日はちゅ~るの持ち合わせがなく、ちゅ~るをチラつかせながらもふもふ、もふもふする……」
「は? ちゅ~る? ハク殿、ちゅ~るとはなんのことであろうか?」
さらに一発エルボーを食らった俺は、ようやく我に返り、これまでの無気力を詫びてから森の東側に村を作る予定であることを伝えた。
「ほう、森の東側奥地で村を。して、なぜそのような場所に?」
「色々とやってみたいことがございまして。手始めは、この森の食糧問題についてでしょうか」
もっともらしく食糧問題について切り出しはしたが、本音をいえばこれが本来の目的ではない。まさか隠れ住む場所がほしかったなどとは言えず、俺はこの森の生態系が崩れていることを挙げてから、まずは正しい形に戻すことが先決であることを彼らに告げた。
「なるほど……。ここのところボアたちの数が増えたあたりから、森の東側で極端に生き物が減ったのを我々も確認しておりました。まさかそのせいで奴らが勢力を伸ばしていたとは露知らず、我々も迂闊でした」
「ですからまずは彼らの食料を確保しつつ、自分たちにできることを模索してみるつもりです。それに冒険者としてもランクアップしたいので、ぜひともマーロンさんにはお手伝い願いたいなと!」
わざとらしく持ち上げてみせる俺にマーロンさんは不機嫌なものの、族長はまんざらでもないらしく、「それは我々としてもありがたい」との返答。よしよし、長いものには巻かれろというが、族長を抑えてしまえば話は早そうだぞ!
「しかし恥ずかしい話ではあるのですが、我らとて次期当主であるこの娘のことが気がかりの素であることは事実。18を迎え、未だ番う相手すら決められぬ未熟者ゆえ、貴方様のような御方が我が村にきていただけるのであれば、我らも喜んで我が娘を預けられるものですが……」
…………。
なんとも言い難い無言の時間が流れる……。
なんでしょう。
今俺は、とてもおかしな言葉を聞いた気がするのですが。
「無理を承知でお願いする。ハク殿、どうだろうか。我が娘、マーロンを貰ってはいただけぬか。貴方様のような強者がきていただければ、この村の先々は安泰だ」
…………。
…………。
…………なんですって?
族長の隣に座っているマーロンさんを一瞥する。
どうしたのですか?
なぜそのように顔を赤らめ、視線をそらすのですか?
おい、俺。
まず少し落ち着いて考えてみろ。
確かに俺は、ひと目で猫族の皆さんの性別を見分けることはできない。だからこそ、まぁなんとなく男かな? 女かな? という感じで判断してきた。
ふぅぅぅぅと深く息を吐いてみる。
これはアレだ。
俺はとても大きな勘違いをしていたらしい……。
しかもこれは、かなり深刻だ。
もしかしたら、俺はここで殺されるかもしれないDEATH!!
この後、俺の顔にネコの鉤爪で付けられた深い深い傷ができたことは言うまでもない。
ちょっと待ッてよ!
頼むから今度は最初に性別くらい教えといてー!!!
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