第018話 宣言
太陽の光に同化し、かつ完璧な隠密や無色化で身を隠した俺を視認できる者などそうはいまい。
背中に乗られていることすら気付けないゴールデンワイルドボアや周囲を固めている部下たちは、未だ思い思いに身体を掻いたり、鼻を鳴らしたりしている。
「思い残すことは……じゃなかった。そうか、俺はもうこれを問うべき存在から卒業したんだっけ。だとしたら、俺がすべきことは一つだな」
俺はボアの毛だらけな耳に顔を寄せ、「おい」と話しかけた。酷く慌てた表情でボアの目玉がギョロリと移動し、こちらを真っ直ぐに見つめた。
「ひとつ、お前に問う。この場で首を斬り落とされるか、大人しく奴らを引くか、選ばせてやる。良いか、俺は一度しか聞かない。この場で死ぬか、部下を引くか、選べ」
指先に魔力を集中させ、ボアの皮膚に触れる。たったそれだけで滝のような汗がボアの皮膚から溢れ、恐怖が指を通じて流れ込んでくる。
野生のモンスターといえど、高ランクの魔物となれば知恵も効く。圧倒的な脅威の前で、その牙を隠すことはごく当たり前なことだ。
すぐに身を伏せて降伏を示したボアは、ガタガタ震えながら泥の中に顔を隠した。そこでようやく異変に気付いた周囲の取り巻きたちが、何事だとこちらへ視線を向けた。
「大将は降参したが……、お前らはどうする? 肉として売り捌いてやってもいいが、幸福なタイミングで死にたくはないだろう。ならば静かに身を寄せ合って伏せろ。お前らの主と同じようにな」
制圧まで時間はかからなかった。
瞬時に判断したボアの部下は、主を囲むように頭を垂れ、泥にまみれて身を伏せた。「いい子だ」とゴールデンワイルドボアの頭を撫でた俺は、岩場の影で慌てふためいていたマーロンさんに手を振った。
「ぷ~、ぷぴ~、フゴッ、んあ、ト~ア、もうご飯?」
タイミングが良いのか悪いのか、ポンチョがヨダレを拭いながら目を覚ました。しっかしこの状況で最初に口にした言葉がご飯とは。肝がすわってますねぇ、ウチのお坊ちゃんは……。
恐る恐る近寄ってきたマーロンさんが、戦うことなくボアたちを屈服させてしまった事実に驚嘆し、言葉を失っているご様子。場合によってはボス一体に死んでもらうつもりでいたけど、どうやら思った以上に統率が取れている集団らしい。すぐに全てを諦めたゴールデンワイルドボアのボアボア(※仮名)は、兵である部下を前線から引かせ、森の東側に仲間たちを集結させたのだった。
「ということで、ひとまず今回の目的は達成したわけですが。問題はここからだ……。それじゃあボアの代表者であるボアボアくん、言いたいことはあるかな?」
沼地に集められ、八列に並ばされた先頭で「フゴッ!」と鼻を鳴らしたボアボアは、自分たちが置かれた立場を語った(※直接何を言ってるのかわからないので、マーロンさんに翻訳してもらった)。どうやら彼ら曰く、急激に個体数が増えた結果、森の一部だけでは餌場が足りず、従来の領域を侵食している最中だったという。
「それでマーロンさんたちの住む村の周辺にも足を伸ばしていたと。しかしこれは困ったな。俺がやめろと言ったところで、コイツらの餌が降ってくるわけでもないし……」
だからといって餌場として町を襲わせるわけにはいかないし、ボア同士で食い合いをさせるわけにもいかない。何よりこのまま彼らを増殖させ続ければ、森自体の存続すら危うくなる。どれだけ広大な森だとしても、生態系が崩れれば消滅までにさして時間は掛からない。
「となれば、必要なものは人員の統制と食料の確保か……。よし、なら決めた!」
俺は拳を握り、列になった彼らの前で右手を高々と掲げ、宣言したのだった。
「俺はこれからここに村を作り、そしてここで、農業を始めようと思う(ドドーン)!!」
ここまでが序章となります。如何でしたでしょうか?
これからは新たな拠点準備へと進んでいきますが、
引き続き彼らの町作りをお楽しみください!
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