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第016話 金ピカのイノシシ如き


「だったらどうしてギルドに相談しなかったの。そんなになる前に相談できたはずじゃない」


「……人族に頼ることなどできるものか。キサマら人族は、我々のことを下等な種族でしかないと決めつけている。我らが長たちは、過去幾度となく人族に助けを求めたが、キサマらが我らに手を貸すことはなかった。そんな者たちに助力を求めたところで、解決になどなるはずがない!」


「そうかなぁ。俺にはローリエさんたちがそんな人には見えなかったけど」


 ムッと下唇を噛むマーロンさん。

 きっと彼も自覚しているんだろうけど、今さらそれを認めることもできないんだろうね。


「だけどあの様子じゃ、討伐隊を組むにも数日はかかるだろうね。しかしボアたちがそれを待ってくれるかは別問題で……。結果的に、キミらがもっと早くギルドに報告していれば、事態は違う方向へ向いていたかもしれない。違うかい?」


 黙り込むマーロンさん。

 しかしこうなってしまったのは彼自身の選択ではなく、一族の考えが大きいのはなんとなく俺にもわかる。彼がこれまで人の言葉を使わず、人族と意思疎通を取らずにいたことからもそれが窺えた。


「だから私が、……私たちが奴らを食い止める。それしかないのだ!」


「う~ん、でもさっき自分で難しいって言ってたよね。なら無理するもんじゃないと思うよ」


 腰を叩きながら立ち上がり、また手を振り出発しようとする。しかし彼は「待て!」と声を荒らげ、俺を指さしながら言った。


「ふざけるなよ。確かにアンタは強いかもしれない。しかし相手を舐めすぎてる。……なによりアンタの頭の上にいるソレ。その子も連れて行くつもりなのか。わざわざ危険な森の奥地へ、その子を連れて行く気なのかと聞いているんだ!?」


 充血した猫目で忠告した彼は、馬鹿にするのも大概にしろと俺の胸ぐらをたくし上げた。確かにそれはそうかもしれないと息を吐いた俺は、ならばと彼に前置きしつつ、ひとつ質問をした。


「マーロンさんは、『百灼(びゃくや)の魔女』のことを知っているかい?」


 突然の質問に、彼の視線が泳いだ。

 しかしすぐに我に返り、「名前くらいは」と返事した。


「しかしそれがどうした!? そんなもの、もう200年以上も前に死んだ伝説の魔術師だろ。話をはぐらかすなよ!」


「そう、今から約200年前、ここから西の、さらに西の大国に実在したとされる魔女の呼び名さ。誰でも知ってる伝説上の人物だ」


 俺は頭の上で眠るポンチョのお尻を撫でながら、ふぅと息を吐いた。それからひとつ気を引き締め、次の言葉を呟いた。



「百灼の魔女の呪い」


「……え、魔女の?」


「百灼の魔女の呪い。キミは聞いたことがあるかい」


「いいえ、……それは」


「百灼の魔女は、自らの死期を悟った晩年、彼女の分身として、ひとつの呪いを生み出した。それが彼女の力を知らしめるためなのか、それとも誰かに恨みがあったのかは知らない。しかし彼女は死ぬ間際、ある場所で呪いを発動させた」


「それがどうしたというのだ? 今は魔女の呪いなんて関係ない!」


「その呪いは、その場に居合わせた全ての者たちにかけられてしまった。ひとりは半病人で、ひとりは傷付いた戦士で、そしてもうひとりは五歳の誕生日を迎えたばかりの子供だった」


「な、何を言っているの?」


「呪いは、それを受けたものから全ての時間を奪い去った。……取られちまったのさ、時間っていう概念そのものを」


 俺はポンチョを芝生の上に寝かし、その隣であぐらをかいた。そして頭を撫でながら、どうしようもない虚しさを噛み締めながら呟く。


「ポンチョはな、そのときからずっっっと五歳なのさ。あれから200年の時が過ぎたけど、コイツの中ではずっと変わらない、200年前のまんまなんだよ」


「え、それって……」


「なんの因果か偶然か。コイツはその呪いを受けちまって、永遠に歳を取らない身体にされちまった。いや……、そんな単純なものじゃないな」


 声を出さずマーロンさんを呼び寄せた俺は、ポンチョの柔らかな毛の一本を摘ませ、「抜いてみな」と伝えた。言われるまま毛を抜いた彼が「これがどうしたの?」と言った直後、摘まれていた毛がひとりでに動き出し、吸い寄せられるように元あった場所に留まった。


「う、そ……。なんなのこれ」


「歳を取らないだけじゃない。ポンチョは、永遠に変わらない、死ぬことすらできない身体に変えられちまったのさ。それをかけられた瞬間から永遠に変わることができない呪い。それが百灼の魔女の呪いの正体さ」


 文字通り永遠の五歳児となったポンチョの身体は、泣こうが、喚こうが、傷付こうが、爆発しようが、死のうが、何一つ変わらない。例え爆散しようとも、すぐに吸い寄せられたように集まり、もとに戻ってしまう。燃えても、沈めても、食われても、その姿形が変わることは絶対にない。


「俺がポンチョに出会ったのはほんの10年足らずだが、その頃コイツは、とある国の貴族に見世物として飼われていてね。それはそれは酷い扱いを受けてた。色々あって俺はその糞貴族からコイツを解放して逃がしてやったんだが……、なんの因果か懐かれちまってさ。それ以来の腐れ縁ってやつさ」


「で、でも、それとこれとは……」


「それから俺も色々あってさ、なんというか、そう、色々あったんだよ。でもまぁ、コイツってアレじゃん? いつも俺の近くでさ、腐りきってた俺の心を癒やしてくれたんだよ。終いにゃ本当の本当に命を救ってくれやがって……。俺の心も身体も、何もかもを救ってくれた。……恩人なんだよ、コイツは」


「恩人……」


「だからさ、俺が生きてる間くらいは、コイツにはずっと笑っててもらいたいのよ。馬鹿みたいに転げ回りながら、これまでの人生なんて何事もなかったように、馬鹿みたいに笑っててほしいんだ。……だから俺は、もう二度とコイツを一人にしない。そう決めてんの」


 思いがけず自分語りしちまったと頬を掻きながら視線を外す。しかしだからといって、彼の言い分が覆ることはないだろう。でもね……


「だったら尚更連れて行くべきじゃない。この子が巻き込まれることは、アンタも本望じゃないはずだ。どちらにしろ――」


 俺は一本指を立て、彼の口を塞いでみせる。そしてそのまま親指で自分を示しながら宣言した。



「そっちこそ舐めてもらっちゃ困る。俺がたかだか()()()()()()()()()()に負けるって?」



 そのまま首を落とす仕草をしながら親指を下へ向けてやる。そして思いきり舌を出し、不敵に笑ってやるんだ。



「全部俺に任しとけ。その仕事、そっくりそのまま俺が請け負った!」


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