第013話 ボアの大量発生
―― 翌朝
コイツらは育ち盛りか?
育ち盛りなのか!?
俺よりずっと早く寝ておきながら、まだ気持ちよさそうに眠り続けている。ポンチョはまだしも、こちらの獣人様はよほど疲れていたのか、あまりにも無防備に起きる素振りすらない。
「……こうなったら仕方ない、実力行使だな」
睡眠欲の次にやってくるもの。
それは食欲だ!
昨晩のうちに作っておいたカリカリに焼いたベーコン風干し肉や、挽いた肉を炒めて味付けし固いパンの上に置いたものをベッドサイドのテーブルに置き、温めながらパタパタと団扇に見立てた紙で扇いでやる。さらには早起きして町で購入してきた米風穀物を皿に盛り、その上に野菜とそぼろ状にした肉を敷き、わざとらしく手に握って奴らの鼻に近付ける。
「ふぅん、クンクン……、ぐこっ! ごはん、ゴハーン!」
クククッ、単純な奴め。
朝飯の匂いに釣られてポンチョが目を覚ました。しかし完全覚醒には程遠く、半開きの目でイモムシのように皿にしがみついている。「お行儀が悪いですよ!」とお尻をパチン。
「……ん、んんん……、ハッ!?」
ようやくマーロンさんもお目覚めですか。
しばし周囲を確かめたのち、パタパタ風を送っている俺を見つけ、「何をしているんだコイツは……」という顔をしている。ほっといてくれ。
「いつまで寝ているのかねキミたちは。もうとっくに朝ですよ、さっさとご飯食べちゃいなさい!」
大阪のオカンのように、フライパンをカンカンして叩き起こす。マーロンさんは妙なテンションについてこれないようだが、ポンチョはいつものように上機嫌で、もう勝手にご飯を食べている。自由か。
「……◎△$♪×¥○&!?」
しかし我に返ったのか、マーロンさんは見知らぬ人物の部屋で寝入ってしまった自分に驚き、顔を赤らめている。いや、今さらかい!
「それ食べたら、今日も一日お仕事ですよ。マーロンさんはどこに住んでるのか知らないけど、よろしければついでに送っていきますけど」
「♪×¥、○&◎△$♪×%#」
「いや、わからん。あとでギルドに寄るので、そこで話を聞かせてください」
微妙な空気が漂う中、食事を終えた俺たちは身支度を整え再びギルドへ向かった。朝一のギルドは冒険者の姿が多く、活気に溢れ、ハツラツとした空気が漂っていた。しかし反対に受付窓口にいるローリエさんは、なぜか朝から頭を抱え、酷く落ち込んでいるご様子。何かあったのだろうか?
「おはようございますローリエさん、なにやら元気がないみたいですが?」
重そうな頭を持ち上げながら、取り繕った表情で「おはようございます」と挨拶した彼女は、途端に据わった目で掲示板に視線を移しながら呟いた。
「アレですよ、アレ。ホント、朝から勘弁してほしいです~」
どうやらクエスト掲示板に貼られた何かが原因らしく、俺たちは彼女の指さす先を覗いてみた。そこでは既に集まった冒険者たちが紙を覗き込みながら、口々に噂話を広めていた。
「ええと、なになに。モリスの森、西南の最深部にて、ゴールデンワイルドボア発生の目撃情報有。至急討伐されたし……?」
俺が知る限り、ゴールデンワイルドボアはワイルドボア亜種のさらに上位種で、普通の環境ではまず発生しない超がつくレアモンスターだ。しかも町からほど近い森に発生することは稀で、仮にそのボアたちが徒党を組んで町を襲うようなことがあれば、万単位の人が住む町ですら滅ぼされかねない。どうしてそんなモンスターが近くの森に?
他人事のように見つめていた俺とポンチョの隣で苦々しい顔をしているマーロンさん。彼と出会った状況を考慮すれば、それが関係していることは聞くまでもないが……、どうしたものか。
「俺たちは今日も森へ薬草採取に出かけるつもりですが、マーロンさんはどうします? まずは自宅へ帰りますか?」
しかし俺の質問に答えるより先に、彼が慌てた様子でギルドを出ていこうとする。だが焦って飛び出したところで、良い結果に繋がるとは限らない。俺はすぐに彼の手を掴み、「もう少し情報を集めませんか」と提案してみる。
「○&◎△$♪♪×%#」
「うん、わからん。ちょっと待って、ギルドの担当さんにお願いしてみるから」
俺はローリエさんに依頼し、獣人語が話せる職員さんに通訳をお願いした。すると彼は通訳の職員に「情報の出どころを留めてほしい」と前置きしてから、俺たちに打ち明けてくれた。
数週間前からモリスの森の西側でワイルドボアの大量発生が起こっているらしい。彼はその原因を探るため西の森で情報を集めていたところをボアの襲撃に会い、そこで俺に遭遇した、ということらしい。
「だとしたら、我々はすぐにでも対策を打たなくては……。こうしてはいられない!(※通訳さんのセリフ)」
聞くところまで聞いて、通訳さんがギルドマスターに情報を伝えるため飛んでいってしまった。「まだ話の途中なんですけど!?」という俺の引き止めは、虚しくも無視されてしまった。ちょっと酷くないですか!?
「ですが、もしマーロンさんの言葉が正しいとしたら大問題ですよ。私たちがこうしている間にも、徒党を組んだボアたちがいつ攻めてくるかも……。マーロンさん、どうしましょう!?」
隣で話を聞いていたローリエさんが錯乱気味に慌てている。その証拠に、今後のギルド方針をなぜかマーロンさんに訊ねている。それを決めるのが貴方たちギルドの仕事でしょうに……。
しかしまぁ、それはそれとして――
「クエストを受けたいのですが。昨日と同じのを」