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第127話 お姉様と妹さん


 ムトさん一行は兜の緒を締め直し、リッケさんはゲヘゲヘと怪しい笑みを噛み殺し、ガンジさんは真顔でダンジョンの奥を見つめている。そして俺とマーロンさんは彼らをどうにか無事に帰せるよう最低限度の覚悟を決め、いよいよ準備を整えた。


「それでは行きましょう。まず始めの階層は、ごくごく初歩的な魔物やギミックが広がる領域と聞いていますが、ダンジョン探索自体が初めてなムトさんとパールさんにとっては、それなりの驚きが待っていることでしょう。どうか油断せず、確実に進んでいきましょう」


 コクリと無言で頷いた彼女らを囲み、先頭にマーロンさん、そして殿(しんがり)を俺が務め、いよいよ俺たちはダンジョンへと足を踏み入れた。見るもの全てが初体験であるムトさんは、不気味に(うごめ)くダンジョンの風景や魔物たちに驚きながらも、どうにか足を止めず、一歩ずつ確実に歩を進めた。


「……マーロンさん、次の角を左ね」


「ありがとうハク。それにしても凄いね。このダンジョン、狙ったみたいに順序立てて魔物やトラップが出てくるよ」


 村人だけの連絡用に用意した魔道具で会話していた俺とマーロンさんの言葉に反応し、コソコソと近寄ってきたリッケさん。ニタァと嫌らしい笑みを浮かべた彼女は、どうやら〝 その真意 〟を理解したらしく、セクハラオヤジのように俺の横腹を肘でつつきながら言った。


「騙されちゃダメよぉ、マーロンちゃん。そんなの、ウチのそんちょ~のせいに決まってるでしょ。ですよねぇ、そんちょ~さぁん?」


 まったくこの人は……。

 たまに察しが良すぎてやりにくいったらないよ。


「え、ハク、どういうこと?」


「察しが悪いねぇ、(ウチ)のお嬢様は。あの(かわいこちゃん)が急な事態で驚いちゃわないように、魔物やギミックを選別して、順を追って見せてやってんのさ。こう見えて、我が村のそんちょ~さんはジェントルメンなんだからぁ、うへへ~♪」


 わざわざタネ明かししたリッケさんの額をチョップし、俺は改めて咳払いしてから「皆さん、油断は禁物ですよ」と釘を刺した。どうやら気付いていない様子のムトさんたちにウンウン頷いた俺は、初めてのダンジョンツアーを滞りなく終えられるよう、万全を期して行路を選択しているつもりだ。それでも全てが初めてなムトさんやパールさんにとっては疲労度も緊張度も想像以上だったようで、歩くうちに呼吸は荒く、次第に足取りは重くなった。


「少し休憩しましょうか。まだまだ先は長いですからね」


 僅かに人が休める程度窪んだ岩場に、ムトさんら一行を座らせ一息つくことにする。

 護衛の冒険者も同じく緊張を隠せず肩で呼吸している者もいるのに対し、それと比べてウチの余計な二人組ときたら……。さっぱりした涼しい顔で、あまりにも軽やかすぎる足取りだ。やっぱり気の持ちようってのは大事なんですね。


「あの……、マーロン様?」


 などと苦笑いを浮かべている俺たちにムトさんが話しかけてきた。

 まずご苦労をかけて申し訳ございませんと詫びた彼女は、「ダンジョンというものは、かほどに過酷なものなのですね」と憔悴しきっている。12歳の少女が初めてダンジョン探索をしているのだから、それも仕方のないことか。


「大丈夫、確実に進んでいきましょう。私だけでなく、こうしてハクもおります。どうかご安心を」


「ありがとうございますマーロン様。(わたくし)、初めてのダンジョン散策が()()()と御一緒できて、本当によかったです!」


「お、お姉様……?」


「あっ、その、も、申し訳ございません。(わたくし)、兄や姉といった兄妹がおらず、もし私にお姉様がいらっしゃったら、マーロン様のような御方がと勝手に想像してしまい。申し訳ございません!」


「い、いや、べ、別に構わないが。私がお姉様か、……お、お姉様」


 なにその顔、マーロンさん。

 まんざらでもないみたいじゃん。

 お姉様、格好いいですわよ!


「な、なによ、ハク。何か言いたげね」


「いいえ。良かったじゃないですか、可愛い妹ができて」


 カァーと顔を赤くしたマーロンさんが俺の横腹をドンと突いた。

 くっくっく、これは一つ新たなイジりポイントを手に入れたぞ。


 しかしそれはそうとして、どうやらこの迷宮は当初思っていた以上に敷地が広く、敵の数も多いようだ。ダンジョンに入ってから既に半日が経過しているが、未だ下階層へ続く道は見えてこない。テーブルから事前に得ていた情報では第一階層は脅威度がないとされていたが、確かに脅威ではないかもしれないが、魔物の数が多く、未熟な冒険者では下手すれば囲まれてやられてしまう危険性すらある。


「これは二階層の情報も信憑性が疑われるというものだ。何もないといいのだが……」


 俺の思考を先読みしたようにマーロンさんが呟いた。

 まったくこの()は、いつもいつもそういうフラグをわざわざ踏まないの!


「さて、いつまでも休憩しているわけにいきませんから、そろそろ進みましょうか。ムトさんにパールさん、お二人はできるだけ前だけを見て進みましょうね。背後や横道までキョロキョロしてると疲れちゃいますから」


 ガンジさんがうむと頷きながら親指を立てた。

 そしてそれを見ていたリッケさんも、同じく半笑いで親指を立てた。

 コイツら、なんかいちいち腹立つな。


 その後、スライム、ゴブリン、コボルト、ダンジョンウルフ、ホーンラビット、ストーンゴーレム(小型)と順々に敵のランクを上げながら戦闘を繰り返した俺たちは、薄暗いダンジョンの一階層を丸一日かけて踏破した。そして息も絶え絶えになっているムトさんの背を押し押し、ようやくフロアボスの待つ巨大扉の前まで辿り着いた。


 扉は背丈の十倍以上ありそうなほど大きく、重さや分厚さを感じさせるほどの迫力である。しかも黒光りするほど魔力をまとった圧力は未熟な冒険者にとっては壮大で、ムトさんとパールさんは巨大すぎる扉を前に後退りしてしまうほどだった。


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