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第126話 ガーンビア地下迷宮



    ☆ ★ ☆ ★ ☆




 そう、彼女の言いたいことは俺にもわかる。

 なんなら、ずっと俺も同じことを考えている。



「あの……、マーロン様?」


 いよいよ辛抱ならず、ムトさんが口を開いた。

 俺は半身だけ身体を寄せ、彼女の言葉に耳を傾けた。


「あ、あの、……こちらの方々は……?」


 そう、それですよ!

 俺もそれが聞きたかった!!


 今回の案件は緊急を要する案件だからと、俺たちだけに要請があったわけだ。

 だというのに……


「ええとね……、こちらはウチの村人であるリッケさん。村の相談役、兼商会の窓口担当をしてもらってます。そしてこっちはガンジさん。同じく商会で働いてもらってるんだけど……」


 ニへニへと不敵に笑うリッケさんに、真面目な顔してうんともすんとも言わないガンジさん。

 どうしてアンタたちが一緒にきてるんですか!?


「あらあら、ブルーム商会のお嬢さんたら。細かいことはお気になさらず、我々はただのオマケくらいにお考えくださいな、オホホホホ♪」


「お、オマケ、ですか? ですが、これから私共(わたくしども)は危険なダンジョン奥地の魔物たちが住まう場所へ赴くわけで、決して遊びに参るわけでは……。それにハク様の頭上でお眠りになられているお子様(?)も、なぜこのような場所に……」


「その者の名はポンチョ殿、村長殿とは常に一心同体であられるため、今宵も同行されることになり申した。なぁに心配なさるな若者よ。我が村長殿がご同行致すのだ、大船に乗った気でいなされ」


「そうそう、オホホのホ~♪」と高笑いしているリッケさん。

 加えてガンジさんまで随分と軽い感じが。

 キノコ探しの時はあれだけ頑なだったくせに、急になんなんだよ……


「こらお二人とも、商会のお嬢様に変なことを吹き込まないでください。それに彼女の言うことはもっともです。今回は遊びじゃありません。どうして二人がついてきてるんですか!」


 すると二人は顔を合わせ、「当たり前じゃないですか」と、さも当然と真顔で言った。

 いやいや、当たり前じゃないからな!?


「商会のご令嬢様から直々の依頼となれば、当村の商会関係者であるアタシたちが同行するのは当然のこと~♪ ですわよね~、ガンジさんに、ム~トさん?」


 この野郎、またおかしなこと企んでやがるな。

 ガンジさんもガンジさんで、随分と落ち着き払ってくれちゃって。

 ついさっきまでオタオタ慌ててたくせに!


「あ、あの、マーロン様。そちらの方々のこと、本当によろしいのですか?」


 不安そうにしている彼女をこれ以上心配させないよう、額を押さえたマーロンさんが「大丈夫だ」と答えた。しかし正味な話、ムトさんとその関係者六名に加え、リッケさんとガンジさんを含めれば八名(+1モコ)の足手まといがいるわけです。一体全体、誰がキサマらお荷物さんを守ると思ってるんですかね。


 少しはこっちの苦労も考えてほしいんですけど!?


「まったく……。最初に言っておきますが、絶対に勝手な行動はNGですからね。死んでも責任は負いませんから」


 ムトさん一行が額に脂汗を滲ませ「ゴクリ」と息を飲んだのとは対照的に、ウチの商会員二名は「ハハハ~」と呑気に口を開けている。コイツら、ホンマに殺したろか。


 しかしいつまでも無駄な時間は使っていられない。

 ここで一度気を引き締めることとする。


「オッホン、いいですか! これから私たちは、今回の目的である幾つかのアイテムを手に入れるため、公国南西の砂漠地帯の地下に広がっているダンジョン、通称『ガーンビア地下迷宮』の第二階層を目指します。『ベルガデムのオーブ』、『ガンガリブの鉤爪(かぎづめ)』に加えて、『翠玉の魔石』と『紅玉の魔石』をそれぞれ一つずつ、計四個のアイテムを入手しなければなりません」


 すると俺の言葉に間髪入れず「ハイッ!」と手を挙げたリッケさん。

 どうしてアンタが最初に質問するんだよ……


「質問、しつもん、しつもーん! 先生、どーして目的の階層が第二階層なんですか。アタクシ、もっと下の第三階層や、さらに下の深層域の方に興味があります! アタクシ、気になります!!」


「目的のアイテムが二階層で手に入るからに決まってるでしょ。……あとキサマ、金輪際喋るな」


「え~、つれないなぁそんちょ~。ほらほら、お嬢様方が緊張してるからさぁ、もっと気楽にいかないと困るでしょ~。ね~、ムトちゃん♪」


 リラ~ックスリラ~ックスと深呼吸を促すリッケさんと、一緒に身体を伸ばしているムトさん。

 まったくこの人は……


 しかしムトさん一行に油断する雰囲気はなく、それどころか決死の覚悟を匂わせる形相に、思わずこちらの身が引き締まる。それもそのはずで、ガーンビア地下迷宮は第二階層といえど公国内でも屈指のランクに数えられる『高難度ダンジョン』であり、冒険者ランクに準ずればCランクに位置される魔境だ。

 それは彼女の護衛としてついている冒険者にとっても他人事ではなく、いつ魔物に襲われたとしても戦えるよう常に周囲を警戒しなければ命を落としかねない。やはり冒険者はこうでなくては。


「マーロン様はAランク、村長のハク様はBランクですから絶対に大丈夫とマスター様は(おっしゃ)っておりましたが、恥ずかしながら私や使用人のパールなどはダンジョンどころかまともに魔物と対峙したこともございません。そのような(わたくし)どもが迷宮に挑戦など、本来ならば夢のまた夢のようなこと。もしも有事の際は、我らのことなど捨て置き、皆様だけでもどうか無事に帰還いたしませ……」


 悲痛の覚悟を振り絞るようにムトさんが呟いた。

 その目を見れば彼女が本心で言っていることはよくわかる。

 うん、ウチの相談役にもこれくらいの覚悟が欲しいもんだ。


「そうならないように頑張ろうね。……ということで、ここから先がいよいよ迷宮の入口となりますが、覚悟はよろしいですかな?」


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