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第120話 ヌメヌメのベットベト


 高らかに宣言し、ニカッと笑う。

 マーロンさんと俺は呆れているが、そこまで言われちゃ期待に応えないわけにいかないよな。


「不安なのは悪いことじゃありません。が、ひとまず俺を信じて目的地を目指しません? 損はさせませんよ」


 ぐぬぬと下唇を噛むものの、仕方なく飲み込んでくれたガンジさん。

 思えば初めて折れてくれた気がする。

 これもいわゆる一つの進展なのかな。少しだけ嬉しい。


「よ~し、それじゃあ急いで目的地を目指そー!」


 そうして俺たちは一定間隔に並び、キノコを探しつつ目的地を目指して歩き出した。しかし目的のキノコは一向に見当たらず、ただ時間だけが過ぎていった。しかも進めば進むほど周囲を取り囲むマグマの量は増えていき、本当にこんな場所にキノコが生えるのかと疑いたくなるほど過酷な環境へと変貌していった。


「そ、村長殿、周囲の景色が凄いことになっていますぞ!? 本当にまだ進むおつもりか!!?」


「つもりもなにも、ここまできて帰る選択肢はないよ。それに……、目的地すぐそこだし」


 俺は眩いばかりに熱を発して輝くマグマ溜まりのさらに奥を指さした。そこは当初予定していた火口最奥の目的地で、地形が不自然に窪んでいるにも関わらずマグマが薄い場所だった。しかし――


「不自然なほどマグマが少ないってことは、それにちなむ何かが存在しているってわけで。ねぇハク、()()、本当にどうにかなるのよね……?」


 彼女の言う『何か』がギラリと眼を光らせた。

 マグマの弾ける音とは別の(いなな)きが火口付近を抜け、俺たちの鼓膜を激しく揺らす。


 侵入者の存在に気付き、雄大な巨体をゆっくりと揺り起こす。互いに共鳴するように吠えて俺たちを威嚇したのは言わずもがなである火竜様で、しかも三体が群れになってこちらを睨みつけていた。


「こ、このような場所に、か、火竜が三体……。(それがし)の命、もはやこれまでか」


 ガンジさんが辞世の句でも詠むように呟いた。それに釣られ、リッケさんとマーロンさんも同じくゴクリと息を飲む。しかしそんな中でも、俺の頭上でスヤスヤ眠り続けるモコモコさんがひとり。さすが我が心の友であるポンチョさんは肝が座っていますこと!


「皆さん、しばらくジッとしていてくださいね。すぐ済みますんで」


 先陣を切った一匹が大口を開けながら奇声を上げ、背中に魔力を溜め始めた。「南無三」と首を横に振ったガンジさんの肩に手を置いた俺は、「そのまま動かないで」と念押しし、氷の壁(アイスシールド)逆風(ヘッドウインド)の魔法を唱えた。


 激しい轟音を伴って、放たれたブレスがこちらめがけて飛んでくる。祈るかのように立ち尽くす三人の前に立った俺は、正面からブレスの衝撃を受け止め、そのまま炎の揺らぎを氷の(つぶて)に変換して跳ね返した。


 体感1200度を超える熱の中でも溶けることのない高圧縮された氷の(つぶて)が、拡散し、火竜の群れに突き刺さった。しかし鉄砲玉程度しかない散弾で押し切るには難しく、小さな傷を負った火竜に怒りを買ってしまったらしい。逆上したもう一匹がそのまま地を這って突っ込んでくるが、俺は氷の壁(アイスシールド)をポンと地面に倒し、通り道に敷いてやる。すると熱を帯びて表面が溶けた摩擦の無くなった氷の上で火竜がすっ転び、目前で激しく転倒した。


「まぁまぁ可愛らしい、思い切り転んじゃって。おマヌケさんですこと、オホホ」


 頭を打って目を回した火竜の顔面に、正拳で右左右と三連発。

 その勢いのまま、今度は奥で待ち構えていた二匹の火竜にまで一気に距離を詰め、慌てる暇もなく絶対零度アブソリュートフリーズで一瞬にして凍らせてやる。ハイ、一丁上がり!


「ば、バカな、火竜三体を一瞬で……」


 呆れ顔のマーロンさんとリッケさんに、唖然としているガンジさん。

 たまには俺も見せ場がないと悲しいですから、ちょっとだけ得意顔です。


 最後に気絶した一匹と固まって動けなくなった二匹をまとめて遠くへポイし、パンパンと手を払ってから、「さぁキノコ探しを再開しましょう」と朗らかに言った。


「まったく、相変わらずメチャクチャよね。火竜を相手にしないなんてさ~」


「ですね。怯えてたこっちが馬鹿みたい」


「まぁまぁそう言わずに。ほらほらお二人さん、時間もあまりないのでキノコを探しましょう。タイムリミットまで30分もありませんよ!」


「ハーイ」と子供のように返事した二人が散っていく中、まだ呆然と立ち尽くしていたガンジさんは、口を開けたまま放心していた。ま、彼はそのままでいっか。


 俺たちはキノコ探しを継続し、魔法が切れるまでの30分で三本のハイイロダラヌメダケを探し出すことに成功した。ほんの15センチ程度しかないキノコにも関わらず、その燃えるような赤色の傘と、灰色の柄のコントラストがあまりにも美しい。しかしそんな見た目に反し、その名に(たが)わずヌメヌメとした液体が全体を包み込む妙なキノコは、握るだけで手がベトベトになった。しかもその液体は永遠に思えるほど漏れ出し続けていて、「キノコの質量に対してヌメヌメの量がおかしいだろ!」とツッコまざるを得なかった。


「キノコの異常さは置いておくとして、ひとまず発見できましたので次に参りましょう。今度のキノコはなんでしたっけ?」


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