第116話 一致団結した先に……
一斉に解き放たれた面々が思い思いの鍋を手に取り、ズズズと一口。
するとどうだ、「ほわぁ~」と広がる美味いの言葉の数々。
そうだろうそうだろう、ホンモノの食材を使った飯は本当に美味いんだ!
「ハク、なんなのだこれは!? 美味い、美味すぎるぞ、こんなに美味いとは聞いてない!!?」
両頬いっぱいにキノコを詰め込んだマーロンさんがウットリしている。
しかも今宵の鍋は、俺が過去口にしてきた、いいとこ取りの出汁やら調味料やらをふんだんに使った特製だ。この世界じゃとても手に入らないような裏ワザまで駆使したんだ。そりゃあ美味いに決まっておろうが!
「うむ、本当に美味い。村長殿、キノコの美味さを知っている我らですらこれほど美味いのだ。他の面々にとってはさぞ驚きであろうぞ」
「それは良かった。何より今は、ホンモノの出汁や食材ってものの凄さをみんなに理解してもらわなきゃいけないからね。そうでなきゃ困るんだ」
フフンと笑みを浮かべ、ガンジさんとハイタッチする。
そして俺も改めての一口。うむ、美味い!
「ポンチョ、これスキ~♪」
「そうだね、私もスキ~♪」
「アタシも~♪ ゲヘヘヘヘ(ズズズ)」
ポンチョやマーロンさん、それにリッケさんも、どうやら満足いただいているご様子。
子供には難しい味かな、なんて思ったけど、やはり美味いものは美味いんだな。
「し、しかしこれは驚きですぞ。我ら猫族やアリクイ族だけでなく、もとよりキノコを食さぬボアやウルフの者たちですらその味に感服している。まさかこれほどとは……」
「だから言ったでしょ。しかもキノコは食べ方も色々だからね。焼いてもよし、蒸してもよし、炒めても煮ても乾燥させて出汁にしてもよしときたもんだ。しかも食べすぎてお腹がパンパンなボアボアくんなんかには、ダイエット効果もあるのだ。どうだ、まいったか!」
全部食べ尽くして鍋の底を舐めていたボアボアが「ブヒッ」と反応した。
恥ずかしい奴めと横槍を入れたシルシルも、さっさと食べ終えてしまった自分の皿を名残惜しそうに咥えているのだから面白い。
和やかなパーティーの席は進み、それぞれが最高の香りと味を楽しんだ。
しかしそれはそれ。俺の目的はそこじゃない。その先だ!
「と……、みんなにはキノコの持つポテンシャルの『ほんの一例』をお楽しみいただいたわけですが……。さて、ここからが本題です。もし今回使用したキノコが、こんな貧相で『うっすいうっすい味』でなく、さらに香り高く、肉厚で、かつジューシーなホンモノだったとしたら、さてこの鍋はどうなっていたでしょう?」
皿を片手に、皆の動きがピタリと止まった。
これほど美味しいものを食べさせておきながら、この人は何を言っているんだと言いたげな面々がゴクリと喉を鳴らした。そして俺は彼らの望む一言を、そこに付け足してやるのさ。
「五倍だよ。これよりもさらに五倍美味い鍋ができあがる。想像してみな、今みんなが口にしたものよりさらに五倍も美味いんだぞ。……そそるだろ?」
これより、さらに美味い?
それぞれが顔を合わせながら、本当にそんなものが実在するのかと首をひねる。
そして俺はガンジさんの肩に腕を回し、ニィと不敵に微笑んでやる。
「ホンモノのキノコはこんなものじゃねぇぞ。だよな、ガンジさん?」
「ですな。確かに香り高きホンモノのキノコは、こんなものではなかろうぞ」
人というものは、自分が経験したことでしか本物を感じることはできない。
体験し、実感し、そして初めて本物を知るのだ。
今彼らが口にしたニセモノも、確かに美味い。
しかしそれより上があるのだとしたら……。
人というものは、本当にワガママなイキモノだ。
「……やりましょうぞ」
村人の誰かがボソリと呟いた。
そしてその一言に上乗せするように、また誰かが「やろう」と言葉を被せていく。
折り重なるように膨らんでいくリリックは秒毎に大きくなり、村全体を押し上げるように巨大な輪になり、全員が同時に右腕を高く高く掲げていた。
「よぉし、それじゃあ次はキノコだ。コイツでこの世界の度肝を抜いてやろうじゃないの!」
次の目標は決まった。
しかししかし、
初めての挑戦が簡単にいくほど都合はよくないわけで――
そもそもみんな忘れているかもしれないけど、キノコを作っても売る先はありません。その点も皆様、忘れずに進めましょうね。お兄さんとの約束だよ!
ということで、まだまだ前途多難である!!
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