第115話 鍋パのスタートです!
自信満々なガンジさんと、半信半疑なみんなの構図。
でもなんでしょうね、ここは俺自らがみんなにアピールしたかったんですが、いつの間にかガンジさんに全部持っていかれているような……。まぁ仕方ないか。
「そ、そうだね。ちなみに皆さんは、これをいつもどんなふうに食べてます? 一般論として聞いておきたいのですが」
俺は日頃キノコを食べないという面々から話を吸い上げ、彼らがどのようにそれを食してきたかをまとめた。ふむふむと話を聞くうち、やはりやむにやまれぬ理由で食べてきた経験がほとんどで、毒の有無も含めて運任せに食べている者すらいる始末。そりゃ食べたくもなくなるよね……
「まず前提として、栽培する種類としては一種類、多くても二種類と考えてます。そもそもキノコと漠然と言っているけど、その種類は驚くほど多いし、食べられるもので言えば全体の数パーセントしかありません。そりゃ闇雲に食べてたら毒にあたる人が多いのも当然だよ」
どうやら村人のほとんどがキノコについて深く考えたことがなかったらしく、まだ漠然と半信半疑に俺の話を聞いている。ガンジさんだけが熱心に聞いてくれてるけど、俺としてはむず痒いのが本音かも。
「百聞は一見にしかずって言うし、まずは実際に食べてみましょうよ。それではガンジさんたちウォンバット族という新たな仲間も増えたことですし、久々にみんなでパーティーの準備をしましょうか!」
ということで、急遽村人全員を集めてのキノコパーティーの開催が決定した。
俺は事前に準備していた食用可能なキノコ数種類を広場の真ん中に並べ、村人たちに巨大な鍋を用意するよう指示した。言われるまま食材を準備する面々を見つめながら、俺はひとりどんな料理を作るべきかを考えていた。すると……
「村長殿、少しよろしいか」
慌ただしく走り回っている村人たちから距離を取った場所で、ガンジさんが手招きしている。
呼ばれるまま近寄った俺は、「どうかしたの?」と聞いてみた。すると彼はいつもの調子とは違う少しばかり慌てた様子で両手を拭うなり、深々と頭を下げた。
「え? え? なに、急にどうした?」
「この度は我ら種族のため、まっことかたじけない。我ら総じて意固地な性格ゆえ、他の村民らへの配慮が足りず、迷惑をかけていることは自覚している。しかしいつも村長殿のご配慮があってゆえ、こうしてどうにか過ごせている。本当に面目ない限りである」
「……はい?」
「此度のことも、恐らくは村長殿が思案し提案いただいたことかと存じておる。他の者たちとは異なり、我らウォンバット族が木々やキノコ類を好んで食することを知っておいでで、このような場を設けていただき感謝の念に堪えませぬ」
……うん?
いや、そんなの初耳ですけど。
どちらかといえば、こちらは村民の皆さんへの無茶振りだ~、くらいの気持ちでいたんですけど。
「そ、そうだね。でもまさかみんながここまでキノコに興味がないだなんて思わなかったよ。こんなに美味しい食材なのに」
「そ、そうなのです! キノコは我らにとっても至高の食材。しかもその食材に我が村が手を入れるとなれば、グフフ、もう今からよだれが止まりませぬぞ」
モコモコのウォンバットおじさんがニヤリと笑っている。
不気味だけど、なんか可愛い……
「よぉし、それじゃあ良い機会だ。この場で村のみんなにキノコの素晴らしさを知らしめてやろうじゃないの。ってことで、ガンジさん。これから準備する鍋について、アナタの意見も聞かせてください。どんな鍋が良いと思います?」
こうしてキノコのプロである彼らと共に鍋メニューを考えた俺たちは、村民総出で食材を持ち寄り、巨大なお鍋いっぱいに食材を詰め込み、数種類の鍋を作り上げた。
「まずは我が村特産のコリツノイモを使った、コリツノイモと数種類のキノコを使った甘々ホクホク鍋だ!」
町で買ってきた肉と特産品のコリツノイモ、そして今回の主役である沢山のキノコを大量に使い、肉の旨味、キノコの出汁、そしてイモの甘みを全面に押し出した無限のハーモニーを一点に。ホクホクさとコッテリとしたイモの旨味に加え、キノコ本来の出汁にも負けないしっかりとした苦みや渋みがマッチし、鍋の格をドンと底上げしている。しかもそこに染みた肉の美味さたるや、誰もが箸が止まらなくなるのは必至だ!
「そしてお次はピルピル草の実を使ったすいとん鍋だ。こちらはピルピル草の実をすいとん状にした俺の中では一般的な鍋だけど、多分みんなには珍しい食べ物のはずさ。キノコと山の幸、海の幸で取った出汁をベースにして、今回の主役であるキノコをこれでもかと投入。そして味の染みたすいとんを加えれば、これはもう言わずもがなの文句なし。絶対に美味いね、間違いないッ!」
さらにはコリツノイモとピルピル草の実を両方使って作る野菜とキノコの味噌仕立て鍋に加え、コリツノイモとキノコを使ったチャウダー風鍋も用意し、それぞれの好みに合わせて準備を整える。
グツグツと煮えている鍋を前に、恐ろしくも暴力的なその香りにやられた村人たちが、今にも飛びつかんほどにウズウズし始めた。俺の頭上にいるモコモコさんなどは、既によだれをダラダラ垂らしながら、「ポンチョ、もう食べるー!」と今にも鍋の中に飛び込まんばかりだ!
『 さぁて、そろそろいきましょうか。パーティーのスタートだー!! 』