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第114話 キノコの実力


「それは……、()()()ですかな?」


 猫族の族長が質問する。

 俺はコクリと頷き、フフンと不敵に笑ってみせる。


「これから俺たちが作るのは、この村でしか生み出すことのできないキノコ。これしかないでしょう!」


 しかしなんだろう。

 どうにも村人たちの反応が薄い。

 これまでずっと黙っていたリッケさんやマーロンさんすら良い反応とはいえない。


 ……あれ、なんか俺、ハズしました?


「ちょっといいかしら。……村長さん、それ本気で言ってます? 冗談じゃないですよね? わざと言ってます?」


 徐ろに口を挟んだリッケさんが、とんでもない呆れ顔で俺を質問攻めにしてくる。

 し、しかし、やると言ったらやるんだもんね!


「と、当然じゃないですか。冗談でもなければ大本気、超本気ですよ!」


 しかし「ハァ」とため息ついた彼女は俺の手元からキノコを取り上げ、ジト―っとした冷たい視線を向けながら言った。


「こんなもの、誰がわざわざ金を出して買うというんですか。キノコなんてものは、人々にとっては百害あって一利なし、購買の対象になりませんよ」


「え゛?」と嗚咽が漏れてしまう。

 ちょっと待って、この世界でキノコってそんな価値しかないの!?


「リッケ殿の言うとおり、我らにとってそれは凶々(まがまが)しい殺意の対象。むしろ人を殺めるために用いる毒の手段と心得ております」


 猫族の族長までもが同調し、おかしなことを言いだした!

 他のみんなもこの人は何を言っているんだろうというジト目でこちらを見つめている。

 マジカヨ……


「いやいやいや、なんなのその反応。だってキノコだよ? みんなも普通に食べるでしょ!?」


 しかしやはりみんなの反応は芳しくない。

 それどころか首を横に振り、そんなもの食べませんという者すらいる始末だ。


 そんなバカな。

 俺はこの世界を生き抜いてきて、嫌と言うほどこの食材のお世話になってきた。

 ジメジメとした日陰者として暮らしてきた俺にとって、キノコは豊富な栄養源として本当に重宝してきた。しかもキノコはあらゆる環境下で育てられる品種が存在し、良くも悪くも利用方は溢れている。これほど万能な食材、他にないじゃないか!?


「主殿、本当にそんなものを育てるのですか。我らウルフ族も、そちらにいるボア共すらあまり口にせぬと申しておりますが……」


 まさかの雑食なウルフとボアたちまで引き気味である!

 こ、これはまさか、味方がひとりもいない感じでしょうか……?


「今回ばかりは私もオススメできないかなぁ。だってキノコってあれでしょ? ヌメヌメしてて、毒もあるし、わざわざ育てて食べるものじゃないよね……。ね、ねぇハク、せっかくだし、前に断念したパルパル草を育ててみない? それならきっとみんなも万々歳だよ!」


 ま、マーロンさんまで……。

 しかもみんなが同意して激しく頷いている。


 だが待てよ。しかしこれは好都合だ。

 どうやらこの世界の人々は、まだあの『美味さ』を知らないらしい。

 あの肉厚で、ジューシーで、コク深い食材の本物の姿を知らないなんて、なんという不幸なのでしょうか!


 俺が満を持してキノコの素晴らしさを語ろうと構えたところで、徐ろにひとりが手を挙げた。

 その人物はわざわざみんなの注目を集めるようにしばし無言を貫いてから、ゆったりと間をおいて呟いた。



「……(それがし)も、キノコ栽培をしてみたく」



 まさかの言葉に全員が言葉を失った。

 俺ですら「え?」と呟いていたのだから、その場の全員が彼の反応に困り果てていたのではなかろうか。


 発言したのは、ウォンバット族のガンジさんだった。

 左目の眼鏡をくいっと挙げながら改めて意見を口にした彼は、自分も村長とともにキノコ栽培に挑戦してみたいと宣言した。


「お、おい、新入り。貴様、急に何を言いだした? まさか村長殿に取り入ろうという算段か」


 シルシルの言葉にギンと視線を鋭くしたガンジさんは、「そんなものではござらん」と否定してから、その場の全員に言い聞かせるように言った。


「物を知らぬのは貴殿らであろう。(それがし)も以前よりこの食材の可能性について考えていたことがあり申した。香り高く、味の裏付けともなり、さらに美味。それでいて敵を排除する毒にもなり、本物の『武器』にもなる。確かに新たな選択肢としてこれ以上の物は考えつかぬやもしれぬ。我が村長殿も恐らくは先々のことを考え、この食材を作ると仰っておるのだろう。ですな、村長殿よ?」


 まさかのトスに、俺はたじろぎながら「う、うんにゃ」と猫のように返事した。

 そこまで大袈裟な理由はなかったけど、なんだか凄い説得力なので乗らない理由がなさそうだ!


「も、物を知らぬとは聞き捨てならんな。古来より、キノコは敵を欺く武器にはなれど、腹を満たすため、わざわざそれを求める者などおらぬものだ。マイルネだけでなく、他の町でもそのような物を見たことはないぞ」


 猫族の族長の言葉に皆も同意する。

 しかしガンジさんは「フン」と鼻で笑い捨て、リッケさんの手元からキノコを受け取った。

 そして――


「村長殿、では実際に見せてやるのが良かろう。此奴(こやつ)の実力というものをな」


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