表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

111/131

第111話 契約不成立!


「そ、それは……」


「そもそもハク殿も軽薄でござる。このような美味すぎる逸品を、安値で都へ流した場合の成れをどのようにお考えか。多少の上振れはあれど、これが従来の品と同値で市場へ流れた日には大問題が起こりますぞ」


「いや、それはそうかもしれないけど……」


「何よりこれらが出回ることで、従来のイモやピルピル草を作っておる民が飢えて路頭に迷うことにも繋がりかねず、謀らずも価格は高騰し、これら品をタネに争いが勃発することは必至。そうなれば、我ら村にも大きな問題となって降りかかることでしょうぞ。……そこのところ、お考えであるのか!?」


「し、しかしお待ちくだされ。これら品を待ち侘びているマイルネの者たちも多く、我が商会としても、できる限りの低価格でこちらを仕入れさせていただきたいと思っており――」


「ふん、見え透いておるわ。まずは少量を低価格で城下へと流し、具合を見つつすぐに価格を跳ね上げ流通を牛耳るつもりでござろう。しかも代表殿の商会は、国の直属と言いつつ直轄のギルドではござらぬと伺っておるぞ。ならばそれくらいの手は打つに決まっておろう。違うか?」


 妙なほど具体的に相手を勘繰りながら詰めていったガンジさんは、一歩一歩ロベリウスと距離を詰め、その苗を相手の首元へ突きつけた。


「我らの苗を安く見積もっていただいては困るな。まずは改めてよ、そしてこの品に見合う価値を示してみせよ。そうでなければこの交渉、見送らせていただく」


 えー!?

 と驚愕している俺とリッケさんをほったらかし、つっけんどんに突き放したガンジさん。

 ちょ、ちょっと、いきなり何を言っちゃってるんですか、アナタは!!?


「……な、なるほど。しかしさすがに1.5倍の価格というのはやりすぎではなかろうか。我ら商会も、サワー殿の紹介ということもあって、それなりの誠意をもってこの額を提示させていただいているのですがね」


「我が村としては、その価値をより理解いただける者との取引を望むまでのこと。何より我らとて、相手がロベリウス殿限定というわけでもござらん。この苗の価値を理解される者はごまんとおるからな」


 一転してバチバチ火花を散らし始めた二人が、真正面に視線をぶつけ始めた。「これはなんの冗談ですか?」と口すら挟めない俺とリッケさんは、不慣れな状況にあわあわするばかりだ!


「当方ギルドを敵に回し、他所(よそ)へ卸すことも考えると申しますか。しかし困りましたな、それだけの量を、我らギルドのほかに捌けますかな?」


「心配いただかずとも。もとより商業ギルドというものは当国のみを購買の対象としているわけではござらぬゆえ。それとも、この物の価値に気付かぬ者が他国におらぬとでも申されますかな?」


「それは、我が公国の市場を軽んじていると捉えて相違なかろうか? そもそもそちらのギルドは新設の流通網を持たぬ組織とお聞きしているが。それら事情も考慮のうえですかな?」


「その点もご安心を。我が主であるハク殿は超の付く切れ者ゆえ、この程度の困難など小石ほどの障害として乗り越えましょうぞ」


「ふむ、あくまでも引かぬと。でしたらひとつお話を。何より我々としては、これまでに卸していただいた実を、自らの農地で栽培することも可能なのですよ。それを承知で、こちらの商品につきましては当ギルドから相当量を上乗せした価格で、……と提案させていただいているわけですが」


「ほう、では代表殿は我が村で生み出したこれらの品を、混乱に乗じて()()手に入れた品を、()()()栽培し、それを()()()()()()()()()と称して売り出すと申されますか。これはこれは、とても国家の後ろ盾を得ている者の申す言葉ではござらぬな。まるで火事場泥棒ではござらぬか。それに、……この奇跡の実を軽く育てられるとお思いかな、代表殿?」


 俺が「あばばば」と驚愕の顔をしてみても、ガンジさんはまるで動じず、こちらのことなどガン無視だ。ロベリウスの機嫌が秒毎悪化しているのは明らかだし、このままでは今にも話が拗れてしまいそうだ。これは本格的にマズい!!


「ちょっとお待ち下さい。ガンジさんも少し落ち着いて。ええと、その……、少しばかり一考する時間をいただけませんか。どうやら私たちも不勉強なところがあったようですので」


「しかし主殿、こちらが譲歩することはござらぬぞ。たとえ相手が国だとしても、その価値を下げるようなことをすべきではありませぬ。そしてそれは、代表殿もご承知かと存じますゆえ」


 一切引く気がないガンジさんは、俺の制止もなんのその、まるで意に介していないご様子だ。「なるほど」と頷いたロベリウスが、ひとまず俺の顔を立てて改めて話をしましょうと提案し、ひとまずこの場はお開きとなってしまった。



 放り出されるように商会を飛び出した俺とリッケさんは、どこか呆然としたまま大口を開けるしかない。反対にガンジさんは、表情ひとつ変えぬまま「帰りましょう」と頷き、さっさと行ってしまった。


 いや、ちょっと待ちなさいったら!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ