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第109話 相談係


 ここにきて、また猫族の族長がいらんことを……。

「死罪!?」とざわつき始める村の面々。

 非情な人物を見る目で、俺のことを見つめないでくれ!


「村長、さすがに死罪は重すぎる! 俺たちそこまでの処遇は望んでねぇよ!」


「そうだ、同じ獣人族同士、時には間違いを起こすことだってあるじゃないか!」



『 死罪反対、死罪反対! 』



 死罪反対を訴える村民の声と、死罪を覚悟したモコ父たちの懺悔(ざんげ)が響き渡る。


 でも待ってくれ。

 あたくし、まだ何も言ってないんですけど!?


 そんな村民の意見と俺の状況とにほくそ笑み、リッケさんが面白がってさらに囃し立てる。

「鬼の村長!」だの「ひとでなし!」などと合いの手を入れながら、こちらが困り果てているのに気付いていながら半笑いで楽しんでいやがる。アンタ鬼か!?


 ならば仕方がない。

 そっちがそのつもりなら、こちらにも考えがある。

 これから先、俺が何を口走ったとしても、文句を言わさないからな!!


「じゃあ決めました。モコ父さん、アナタは死罪です」


 場がシンと静まり返る。

 しかしすぐに反転し、「村長、アンタ鬼だ!」と罵声が飛び始めた。


 涙を流しながら膝をついたモコ父は、俺の言葉を受け入れて頷いた。

 モコ母とモコ子二人は、「おっとう、おっとう」と彼の背中から離れそうもない。

 まぁここまでは想定内です。


「しかーし!」


 全ての罵声を断ち切り、俺は声を荒げた。

 そして俺を睨みつける面々を一人ひとり流し見てから、最後に言葉を付け足した。


「ただし、すぐにというわけではありません。四人にはこれから執行猶予の期間を設けます。その期間内に、これから俺がいう条件を満たすことができれば、減刑を考えましょう」


 モコ父を俺の前に立たせ、「執行猶予? 減刑?」との疑問に応えるため、悪ノリして囃し立てていたリッケさんを呼びつける。


「村民の皆さんはご存知のとおり、現在この村には他の町と商談を進められる組織がありません。しかしその必要性は日に日に増しており、早急に準備を進めなければならないのが現状です」


 俺の言葉に不穏な何かを感じたのか、リッケさんが口を挟もうとする。

 しかし彼女を押し退けて悪役を演じる俺は、フフフと不敵な笑みを浮かべながら宣言してやるのだ!


「現状、然るべき立場の者がおらず、(はか)らずも村長と兼任し、私が会長という立場となり話を進めております。ですが残念なことに、私には村長という重い重い仕事があり、商会の長として仕事を進められる時間が充分あるとは言えません。よって、そこを補填していただける人材を、常に探しております!」


 ざわざわし始めた面々に加え、くすりと微笑んだマーロンさんが「もっと端的にお願いします!」と手を挙げた。さすがですね、ナイスタイミング!


「モコ父さん、アナタにはこの村で商会のお手伝いをしていただきます。そこで充分な実績を上げ、私たちが納得する結果を得られたのならば、そのときは減刑することを検討いたしましょう。皆さんもいかがですか?」


 俺の(あお)りに、村民から「それはいい!」と歓声が上がった。

 しかしムギギと顔を強張らせたリッケさんは、「いかがなものでしょうか!?」と反論した。


「村の財を預かる商会の一役に、罪人を据えるというのはいかがなものでしょうね!? それでなくともこの村にとって、商会の存在はあまりにも重要です。そんな重要拠点に、どこの誰とも知れない罪人を置くなど言語道断、決して認められません。そうではありませんか、皆さん!?」


「確かにそれはそうですね。でしたらリッケさん、ここはアナタが手取り足取り彼らに商業のなんたるかを教えていただけないでしょうか。商会の代表者としても、村の力になってくれる村民が増えるのは嬉しいことですし、何よりアナタが彼らの面倒を見ていただけるのなら村長としても安心です。これまで我々のやり取りを見ていただいた皆さんは既にご存知でしょうが、彼らは自分の信念を曲げず、他者に意見することができる人たちです。商会の一員として、これ以上ない人選かと思いますよ」


 そうだそうだの声が上がり、逆風が追い風に変わる音が聞こえてくる。

 フフフ、たまにはこんなのも良かろうもん!


「な、なぜ私が!? それに、私には難癖(なんくせ)係という大役が!」


「それ、いりませんのでお構いなく」と拒否した俺は、リッケさんに商会の『相談係』という役目を押し付けることに見事成功したのだった。現状まだ代表という俺の立場を消すことはできないが、将来的な展望を考えればちょうどいいのかもしれない。クックック、珍しく上手くいったぜ!


 何よりモコ父たちを無罪放免とせず落とし所を見出だせたのが、我ながら良かったのではなかろうか。どうやら死罪とならずモコ母やモコ子たちも安堵している(※もともと死罪にする気はないが)。リッケさんには恨みを買ったけど、ひとまずこれで一件落着だろうか。


「チクショー、覚えてやがれ!」と捨て台詞を吐いて逃げていくリッケさんに悪役を被ってもらい、ようやく場を収めることができた。……と思ったのだが、なかなかそうは上手くはいかないみたいで。


 翌日、新規設立した商会の挨拶を兼ねて訪れたマイルネで、事件は勃発するのだった――


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