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第106話 小童


「はわっ、はわわわわ!?」


 誰の声だろうか。

 俺は指先の光を声がした方へかざしてみる。

 するとポンチョより一回り大きな何かが、地面に何かを落とし、慌てて拾い集めていた。


「……うん? 誰かいるのか?」


 声を掛けたことでさらに慌てた何者かは、またガシャンと物を落として逃げ出した。

 ペタペタという足音が聞こえている先を覗いてみると、地面に食器のような物が落ちていた。


「汚れた食器。もしかして、これを洗いに……?」


 実際に手にとって食器らしきものをまじまじ見つめてみる。

 どうやら俺たちが使っているものより専門的に作られたその道具の先端に、青臭いスジのようなものが残っていた。そのスジを指先で握った俺は、ふむと難しい顔をしながら鑑定にかけてみる。


 すると――


「……ビンゴ。こいつは俺が調合したコリツノイモの苗だ。しかしどうしてこんなところに」


 逃げていった誰かの方向を照らせば、どうやら奥へと道が続いている。

 地下にこんな空間があったことは驚くばかりだが、まさかこんな場所に犯人が隠れていようとは。


「しかしこれは思わぬ収穫だ。そのご尊顔、しっかりと拝ませてもらおうじゃないの」


 俺は服についた水をパッパと払い、ぐるぐる腕を回して準備運動をする。

 我が村から盗みを働く太ぇ輩め。

 まさか地下水脈から敵さんがやってくるとは予想もしていなかっただろう。

 バレちまったのが運のツキだったな!


 魔力検知を張り巡らせ、地下全体の動きを察知する。

 慌てて走り回っている小さな物体Xが、地上に這い出て逃げ出そうとしてるが……。

 しかしそうはさせんよ!


 俺は逃亡中の数体より先回りし、超スピードで穴の小道を駆け抜け、逃亡するグループの前へと滑り込んだ。「ひぃぃ」というどこかで聞いたような悲鳴とともに後退りした四つの影は、「はわはわ」と慌てながらこちらを凝視していた。


「さ~て、一体どなたが我が村から泥棒を働いてくれたんだろうねぇ。そのお顔、よ~く見せてくれないかい。よぉ~くねぇ?」


 ピロピロ舌を伸ばしながら言ってやる。

 すると驚き竦み上がった誰かが「命だけわぁ!」と叫んだ。

 さらに少しだけ大きな影が一歩前に出て、「やるなら(それがし)をやれ!」と声を震わせながら言った。


 俺は遊ばせていた舌を引っ込め、目の前で四人固まって震えている物体Xを凝視する。


 体長90センチほどの小さなボディ。

 ピョコンと申し訳程度に伸びた短い耳。

 ファサファサとした手触りの良さそうな中毛の灰色お毛々。

 そしてそして、そのつぶらすぎて可愛らしいお目々が。


 必死に背後の三人を守っているにも関わらず、その姿は酷く愛らしく、俺は思わず見入ってしまった。そのあまりにもモコモコなボディは、まさに俺の理想とするやんわりボディ。

 これはなんたることでしょう!!?


「お前たち、この隙に逃げるのだ! こ、ここは某が、某がどうにかするでござる!」


 妙な口調で武器を構える愛らしい姿に、俺は思わず口をツンと尖らせてしまう。


 なんだ、この可愛い珍獣は。

 一体全体なんなんだ!?


 ポンチョに輪をかけたような丸さの獣人が四人。

 ポンと鼻が大きくて、ビーバーのような特徴的な前歯をしたそのモコモコは、内股で短い足をバタバタさせながら逃げようとしている。


 ……が、そうは問屋がおろさない。


拘束(アレスト)


 俺の影から派生した黒い魔力が四体の身体にしがみつき、その動きを一瞬にして拘束する。

 身動きが取れず、目に涙を浮かべて今にも泣き出しそうなのは、正面に立っているモコモコさんの子供たちだろうか。ポンチョよりさらに小さくて短い手足をパタパタ空転させていた。


「ご、後生でござる。子たち、子たちだけはどうか!」


「侍なの?」という俺の疑問はさておき、四体の珍獣が目に涙を浮かべながらハウハウしている。

 俺は彼らを見下ろしながら、目の前でしゃがみ込む。

 そのたびビクッと反応し、今にも卒倒してしまいそうだ!


「も、もはやこれまで。こ、子たちよ、無様な父を許しておくれ」


 抵抗できず、どうやら最期を悟ったモコ父(※モコモコな父親の略)がグッと目を瞑る。俺は彼の額に手を触れながら、ぐぐぐと身体を寄せ、悪の帝王くらいに迫力満点な顔して言ってやる。


「こぉら盗っ人。人のものを勝手にとっちゃダメだって学校で習わなかったか? んん?」


「ひぃぃ」と仰け反った四体が一斉にペタンと尻もちをつく。

 俺はその様子がもう可愛くて可愛くて、今にも微笑んでしまいそうになる。

 それでもどうにか悪魔っぽい表情を必死に保った。


「わ、我ら、腐っても()()()()()()()()()。盗みなどという卑劣な行為は断じてせぬ!」


 俺は彼の額にポンとチョップし、先程の青スジを目の前に摘んで見せてやる。


「これ、アンタらが食ったんだよな?」


「そ、それは我が見つけし伝説の青草! 何を抜かすか、それは我らウォンバット族が、この森で苦労して探し当てた極上の食材ぞ。貴様ら小童に四の五の言われる筋合いはない!」


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