はと。黎明運ぶ時の風
作品を、開いてくれて、ありがとう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!111
*この物語はフィクションであり、
実際のハトは本作に出ている行動をしない場合があります。
あくまでストーリーを楽しんでいただけると幸いです。
第一幕 幸福
緑豊かなとある町。
僕らはそこに住んでいる。
その町の赤色の屋根が特徴で、木のぬくもりが心身ともに温める
そんな家の広い庭。
その広大な土地と生い茂る植物たちのおかげで、
僕らの巣は、誰にも見つかることはなかった。
誰にも邪魔されずに、
僕たちは過ごしていた。
太陽があたりを照らし、
あたり一面の花々が歌いだす
珍しいほどにすがすがしい日に、
妻が卵を産んだ。
日に日に卵はかすかに動くようになっていた。
耳をすませば、小さくか弱い心音が聞こえた。
その時、二人は幸せに包まれていた。
豊かな自然は僕らハトの夫婦の身を隠し、守り、育んだ。
何度か、元気に走り回る人間の子供に巣が見つかったことがあったけれど、
治安や民度の良さからか、なにもされることはなかった。
少し雲のかかったある日、
僕は食料を探しににでた。
豊かで安全な場所にすっかり安心していて、
その日は少し遠出してみようと、
遠くの山まで行った。
途中まではすべてが順調だった。
山に向かう途中、
もう一匹のハトと偶然出会い、
道が分かれるまでは並走し、
話をしていた。
「最近、そっちはどう?」
偶然会った、そのユーラシアというハトにそう尋ねられた。
「そりゃあもうすべてが完璧といえるほど順調だよ」
「それにここのあたりは、餌も豊富で脅威から隠れることのできる草木も生い茂っているからとても快適だよ」
そう僕が答えるとユーラシアは少しうつむいていった。
「そっか、よかったね。僕は奥さんとけんかをしてしまって,,今ちょっと機嫌が悪いようだから、
「治るまで山あたりに行ってみようと思ったんだ。」
「それは..大変だね」
少しばかり悲しい話に、僕はなにか手助けできないかと、いろいろな案を模索した。
その中からとっておきの考えをユーラシアに伝えた。
「そうだ。この前山に行ったとき、とってもいい餌が取れる場所を見つけたんだ。」
「結構時間がかかるけど、しばらく奥さんと顔向けできないなら、時間はあるよね。」
「案内してあげるよ、それで、その質のいい餌を食べて帰れば、奥さんの機嫌も直るかもよ。」
ユーラシアは翼を震わせ、顔がぱぁっと明るくなった。
「本当に?ありがとう。君は大丈夫なの?」
「平気だよ。なんたって僕らの巣はとってもいい場所にあるんだから」
僕は自慢げに言った。
その後は軽くおしゃべりをしながらそのおすすめスポットまで二人で言った。
僕の言った通り、その場所には、豊富で質の良い食べ物が多く実っていた。
ユーラシア「これなに」
僕 「それ毒」
ユーラシア「えっ」
ユーラシア「食べちゃった」
二人 「...」
ユーラシアは軽く痙攣して泡を吹いて白目をむいていたけど、
なぜか驚異的な生命力で5分経たずして復活した。
食べて帰る持食べ物を厳選し、
ユーラシアと会話を重ね仲良くなったころ、
そろそろ帰らなくてはと、翼を振って、二人は別れを告げた。
今日は特に良い食べ物が多かったなぁ。
まぁ結局、ピジョンミルク(ハトの生成する特殊なミルク)になっちゃうんだけど。
まぁ,,たぶんおいしいものをピジョンミルクにすればおいしいやつができるよね
うん、きっとそう
ユーラシアも飛び立ち、腹も膨れて満足したころ、
僕は翼を広げ、帰路についた。
しかし、さっきまですがすがしい青空だったにもかかわらず、空には少し濃い灰色の雲がかかっていた。
やがて、空は雲に覆われ、雨が強く降り始め、やがて豪雨となった。
咄嗟に木の下に逃げ込んだが、
すでに体はびしょびしょ。
これはしばらく帰れそうにないな。
想定していなかったことだから、少し不安になってきた。
妻は大丈夫だろうか。
腹をすかしてないだろうか。
もし..いや、考えても無駄かな。
なんてったってあそこはとっておきの隠れ家...
その時、なんとなく嫌な感覚を覚えた。
いやな予感がする。
これは直感でなんの根拠もないけれど、
なんとなく。。
その時の僕は、危機感を抱いていて、一刻も早く帰りたい気分だったが、
こんな天候ではどんなにあがいても帰ることはできない。
雨が止むのを待つその一時は、人生の中の最も幸せな時よりも、最も不幸だった時よりも、長く、孤独に感じた。
第二幕 無音の別れ
雨がやみ、再び小鳥たちは木から顔をだし、歌いだした。
局所・短期的な豪雨だったようで空は嘘のように晴れた。
しかし、心の中は、まだ曇ったままだった。
不安が体を蝕んで、飛ぼうにも少しふらついて、うまく飛べなかった。
なんとか巣の近くまで行くと、とくになにも変化がなさそうで、僕は心底安堵した。
木のみは変わらず赤く実り、
草木も燃えたりしていない。
その時、僕は巣のある木にとまった。
その木はいつもと同じように静かであたたかった。
しかし、巣をさえぎっていた葉をどけると、
そこには誰もいなかった。
顔が青くなり、背筋が凍った。
妻がいないことはたまにあるんだ。
そう、待ちきれず、餌をとりに行ったり、
ちょっとばかしお出かけしたり。
けれど、今回はそれではないと一目でわかった。
愛をこめて育てていた僕らの卵は消え、周りには少しばかり、
白色のからが散らばっているように思えた。
思い出と時間の詰まったあの巣からは、
いくつも枝が落ち、原形をとどめているものの、
なにかがあったと一目でわかるくらいには、破損していた。
妻はどこに行ったのかと、
あたりを軽く散策しても、
妻はいなかった。
200mに散策範囲を広げても見つからなかった。
今思えば、距離と時間からしてもしかしたら200m以内に隠れていたりしていたのかもしれないけど
ともかく、その時は見つからなかった。
少し疲れて、額から汗が流れてきたころ
再び、雨が降り出したように思えた。
しかし雨はしょっぱかった。
その雨は、涙だった。
顔を覆いつくすのかと思うほど、涙が流れた。
僕は、誰一人いない、本当の意味で静かになったその巣の中で、太陽が隠れ、それが暗く染まるその時まで、鳴いて、泣いて泣き続けた。
第三幕 町中に響く孤高の旋律
ほのぼのとした田舎は、ノイズがどこまでもいきわたるひとつの都市となっていた。
立地上、ここを開発することができれば、交通の便が非常に良くなるそうで、
計画は住民の協力もあってとんとん拍子で進んだそうだ。
私たちが住んでいたあの巣付近を中心に都市開発が
盛んにおこなわれ、今は立ち並ぶ高層ビルの屋上から下を見下ろせば、
サラリーマン、フリーター、学生、観光客などが携帯に視線を落としているのがはっきりと見える。
上空から見下ろすその人の流れは波のように揺れ動いているように思えた。
ここ数年で、目まぐるしく環境が変化していった。
私たちの、あの自然豊かで草木が生い茂り、
何不自由なかったあの頃とは、なにもかもが違っていた。
「っと」
電線が巻き付く電柱に着陸し、人の行きかう道路に視線を落とす。
お、いいのがあるじゃねーか。
視線の先にあったのは、ひとかけらのフライドポテト。
フライドポテトといっても
そのサイズは、おそらく通常の3分の1以下だろうが、
まぁいい。若干焦げ目がついているからな。カリカリだぜ。
まぁ食べたくて食べているわけじゃないんだが、
ここで生きていくためにはいやいやでも食うしかない。
人の足を避けながら、フライドポテトをつっついていると、
近くに一匹のハトが降り立った。
そいつはソリチュードの群れの一匹、アルバルトだった。
その時私は、口を動かしながら、フライドポテトの上に立ちふさがり、アルバルトのほうを見ながらこう言った。
「どうしたんだアルバルト。先にいっとくがフライドポテトを分けてもらおうなんて考えんなよ。」
アルバルトはチェッと残念そうに舌打ちしたが、その後本来の目的を思い出したように、顔を上げ口を開いた。
「フライドポテトが目的だったわけちゃうわ。ただそこにお前がいたから近くに来ただけだ。」
食べるのに夢中だったからか、その後会話は弾まなかった。
アルバルトも近くに落ちたパンくずを口の中に放り込み、
腹を満たそうと必死だった。
お互いの腹がある程度満たされた時、
アルバルトが口を開いた。
「ところでさぁ。お前なんでどこの群れにも属さず、いつもそこら中を飛び回ってんだ?」
「どうやら腹いっぱいの時も意味なく飛びまわっているようだが、体力の無駄じゃないか?」
口に含んだフライドポテトをごくんと飲み込み、
質問に対してこう答えた。
「...その質問は耳が腐るほど聞いたよ。」
「俺はな..」
「ある日離れ離れになってしまった妻をまだ探しているんだ。」
それを聞いたアルバルトは予想外にも、あまり気に留めてない様子で、続けてこう聞いてきた。
「へぇ、それは熱心だね。で、どのくらい離れ離れになっちゃってんの?その奥さんと。1か月?それとも大きい嵐があった6か月前?」
その質問に対して、その時、自分の瞼が若干重くなっているように感じた。
そして、少し間をおいてから、こう答えた。
「6年前」
はぁ?とアルバルトは声を漏らしてしまった。
その拍子に口にくわえていたパンくずも一緒になって落としてしまったようだ。
あきれ顔で、アルバルトは続ける。
「6年?6年だろ..ちょっとまてよ...おい、それってこのあたりが開発される前じゃないか?」
コクリと小さくうなづく。
「6年もそれに躍起になってるやつに言うのは忍びないが、もう、あきらめろよ...」
「6年だぞ?環境の変化で死んでるかもしれないし、どこか遠くへ逃げたかもしれないし、あと..いや、あぁ、まぁたくさんの可能性が..」
「もし生きていたとしても再会なんか、誰もいないところにハンバーガー丸々一個放置されているくらいには低確率だ。」
なにも返す言葉が私には思いつかなかった。
2年前までは、妻と僕は愛の糸でつながっているんだとか、直感がそう言っているんだ、なんて痛々しい言葉を吐くことがいくらでもできたが、
もうそれも限界に近くなってきた。
会いたいとは今も強く思っている。
けれど、今は昔と比べて、明らかに無気力だ。
うすうす感づいているからだ。
もう会うことなんか、夢のまた夢だって。
けど、それを認めたら、本当に生きる意味がなくなってしまう。
人生の半分以上をこの時間についやしてしまったのだから。
3年前なら、まだ新しく人生を始めることができたかもしれない。
2年前でも、まだ間に合ったかもしれない。
1年前でも、ギリギリ生きていけてたかもしれない。
いや、どうせ来年の自分も同じことを言っているんだろうな。
思い悩んでいる自分の姿を見かねてか、アルバルトが自分に慰めの言葉をかけてくれたが、
その後は特に何もなく、解散した。
ひとりになって、私はいつも通り、半径8キロメートルの捜索を始めた。
一日で全部回りきることは困難だから、何回かに分けて行うことにしている。
わかりやすく言うと、三日捜索→ねぐらで休憩→三日捜索のような具合だ。
一日に10キロメートルくらい飛ぶのならたやすいのだが、
捜索、しかも半径10キロメートルなのだから、正直、6年間探し回っても探し切れていないところが大半である。
それに最近は都市開発のせいで、隠れられるところが増えてしまったので、余計時間がかかる。
そんなことを頭の中で愚痴りながら、あたりを見下ろしながら飛行していると、
不思議と、なつかしい鳴き声が聞こえた。
ついに幻聴が聞こえ始めたか。
そう思って暗い気持ちになりながらも
念のため地に向かって翼を羽ばたくと、
その声が、少しづつ強くなっていくのがはっきりとわかった。
期待を胸に抱きつつ、またその期待を否定する自身の経験を抑え、
近くのビルに降り立つと、
視線の先の木の上になにも変わらない、美しい姿を持つ妻の姿があった。
第四幕 黎明運ぶ時の風
そのなにも変わらない妻の姿に、僕は思わず涙を流した。
深く埋もれていた記憶のかけらが、再び頭の中でひとつになった。
僕はその光景に、泣いて、鳴いて泣いた。
あの日と今が重なる。
けれども、違う涙だ。
待ちきれず、
僕は妻の佇んていた巣に向かって滑空する。
すると、妻も自分に気づいたようで、
こちらを向いて、きょとんとした顔をしていた。
爪を巣に引っ掛け、
僕は、妻に、再開の言葉をかけた。
「ただいま。」
そう言えただけでも、僕は心底うれしい気持ちになった。
あの頃を思い出す。
けれどその時、体がふらついて、誤って巣から落ちてしまった。
地面に向かって落下するさなか僕の心の中は幸せでいっぱいだった
あれ、ちょっと感動しすぎちゃった。
けどまた、あの頃に日常が手に戻る。
いや、あの自然は戻らないけど、
また、妻と、そして今度こそ、かわいい子供たちと。
ボト、鈍い音が響き、目の前が真っ暗になった。
あれ..?
あ..
ちょっと疲れちゃったのかな。
体が..動かない。
あれ..
意識が..
再開を果たした..ばかりなのに。
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台?幕 誰かの幸せ
いつの時か、少し離れた街路樹の上から、一匹の雄の鳩が巣に向かって飛んできました。
雄の鳩は、どうやら妻のため、餌をとってきていたみたいです。
すると、巣で夫の帰りを待っていた妻の鳩が、雄鳩に向かって、
こう言いました。
「おかえり」
雄の鳩は答えました。
「ただいま」
フィクションと書いてありますが、
この鳩の物語には元となるお話がありまして、
それはうちの庭で巣を作った鳩の夫婦のお話です。
ほっほー、と鳴きながらふたり協力して巣を作り、ついには卵もできていたのですが、
夫がいない間にたまごが食われてしまっていたようで、本当に悲しそうに泣いて鳴いていたんですよね。
それにインスピレーションを受けました。