7話:侵略村⑤
およそ地方の村には似つかわしくない、宮殿のような煌びやかな建物を中心としたきれいな街並み。
そして道行く人は皆、小綺麗な装いをし、中には貴族かのような身なりをした人もいた。
「ここがギゼル?こんな発展しているところなのか?」
「そんなはずないわ。ここも他と変わらず普通の農村だったはずよ。」
「トキナ先輩それは無理があるっすよ。
ただの農村がここまで発展するのは相当時間が掛かるはずっす。」
「これもサガタが関わっていると見て間違いなさそうだな。」
3人で様子を伺っていると、馬車が村へ近づいてきた。
「お前ら、隠れろ!」
3人は物陰に姿を隠した。
馬車が止まると、数人の男が降りてきた。
1人は小綺麗な身なり、残りはどこにでもいるような普通の格好だ。
小綺麗な男が何やら、ほかの男たちに指示しているようだ。
指示を受けた男たちは馬車から積み荷を降ろして村の中へ運び始めた。
男たちが積み荷を運んでいる間、小綺麗な男は村にいた同じくきちんとした
身なりの男と談笑をしていた。
そこへ、貴族のような男女が近づいてきた。
すると、談笑していた男たちは深々と一礼をした。
そして何か言葉を交わしたのち、小綺麗な男が
積み荷を運んでいた男の1人を怒鳴りつけた。
怒鳴りつけられた男は恐る恐る、小綺麗な男たちへ近づいて行った。
そして何かを怒鳴られたかと思うと、貴族のような男にお腹を蹴られた。
倒れてもだえる男。
それを見て、小綺麗な男たちは笑っていた。
道行く人は誰も止めるそぶりも見せず、どうやら笑っているようだった。
異様な光景であった。
「なんすかあれ?気分悪いっす!」
「あぁ、だがそれ以上に不気味な光景だ。
ああいった光景は階級社会のこの世の中では珍しいものじゃない。
だが、ああいったことは基本、人目に付かない場所で行われる。
表向きには許される行為ではないからな。
だから、あんなにも堂々と酷いことをしてそれを周りが皆して笑うというのは
異常というしかないな。」
「それだけじゃないわよ。
アンタが言ったのは、貴族階級と労働階級の間であったり
身分に差がある個人間で起こるものよ。
でも、たぶんだけど彼らはみんなもともとはただの村の人間。
同じ労働階級同士のはず。何なら労働階級の中でも貧しい方でしょうね。」
「じゃあ、あの光景は何なんすか?」
「分からない。
彼らの間に俺らの知る格差とは別の差が存在しているってことだろう。」
「それもサガタのせいってことっすか?」
「だろうな。」
3人が物陰に隠れて様子を伺っていると
宮殿のような建物の扉が開く。
すると村にいたすべての人が一斉に2列に並び跪いた。
そして扉の奥から両脇に女を付き従えた男が現れた。
男は村の中心まで行くと、近くにいた跪いている男の首を掴み持ち上げた。
「入界管理局の皆さん、こそこそしていないで、出てきてください。
あなた方が来ているのは分かっています。
出てこないなら、この人を殺します。
それでも出てこないなら出てくるまで殺します。」
村から声が聞こえた。
3人は顔を見合わせる。
「くそっ、気づかれていたのか。」
「どうするっすか?」
「どうするって、人命が掛かっているんだ。出ていくしかないだろう。」
「そうね。行きましょう。」
そうして3人はギゼルの村へ足を踏み入れた。
3人を見て、男は掴んでいた首を放した。
「入界管理局の皆さん。ようこそ、僕の王国へ。」
「お前がサガタか?」
トーアが問いかけた。
「そうです。改めて自己紹介をしましょう。
僕の名前は差形 綾人。
あなたたちの思っている通り、別の世界からこの世界に来ました。」
「そうか。このヒューブリッツで起きている侵略行為の首謀者はお前だな。」
「侵略行為?さてなんのことを仰っているのですか?」
「次々と村を襲いそこの住人をお前の力で支配しているだろ!」
「あぁ、そのことですか。
確かに彼らは僕の王国の領地拡大に貢献してくれています。
でもあれは彼らが自主的にやっていること。
僕は他の村を襲えなんて一言もいってませんよ。」
「なにを言っているんだ。お前が無理やり働かせているんだろ!」
「失礼だな。僕はそんな酷いことはしませんよ。
それにあなた達もこの村を見たでしょう?
みんな苦しんでいましたか?」
「それは…。だが、馬車で来た人たちは何なんだ。
荷運びをさせられていた上に暴行されていた!」
「あぁ、彼らはほかの村の住人ですよ。
彼らも私のためによく働いてくれています。
確かにこの村の人と比べると貧しく見えるかもしれませんが仕方がありません。
彼らはカーストが低いですから。」」
「カースト?何を言っているんだ。」
「ご存じないですか?簡単に言えば身分とか階級みたいなものですよ。
僕が彼らにそれを与えてあげたんですよ。
僕の第1技能『階級支配』でね。」
「『階級支配』?それがお前の第1技能にしてこの現状の元凶か。」
「元凶かは知らないですが、原因なのは間違いないですよ。
この技能は10人までを支配することができます。
支配といっても洗脳とかじゃないですよ、ただ命令に従わせるだけです。」
「10人まで?」
「話は最後まで聞いてください。
僕が直接支配できるのが10人までですが、この技能には面白い力があるんです。
それは、支配した人に2人まで他人を支配する力を与えるというものです。」
「何?」
「僕を頂点としたとき僕に支配された10人は第2階級となります。
そして第2階級の人に支配された人は第3階級となります。
上位の階級の人の命令は絶対ですし、歯向かうこともできません。
当然、第3階級以降の人にも他人を支配する力が与えられます。」
「お前他の村を襲うよう指示してその力を使わせたのか。」
「はははは、だから僕はそんなこと指示していませんよ。
僕はただ、この力を説明してあげた後
この宮殿を建てたり豪華な食事を用意するように命令しただけです。」
「それだけで、こんなにも多くの村が侵略されたというのか!」
「そうですよ。コイツなんかは面白かったですよ。」
差形は笑いながら、右手にはべらせていた女の肩を抱き寄せた。
「サガタ様、ひど~い。」
女は笑いながら甘ったるい声を上げた。
「この女はこの力の説明をして命令をすると、すぐに自分の母親と妹を
ナイフで脅して支配しやがった!!」
差形は興奮気味に笑いながら言った。
差形はさらに続けた。
「そして、支配した自分の家族に僕がしたように力の説明と
命令をしたんです。」
「そんな訳が…」
「嘘じゃないわよ。
支配されて力の説明をされたときすぐにママと妹の顔が浮かんだわ。
サガタ様の力は自分より下がいれば最高の力よ。
口うるさいママも、目障りな妹も今は私の言いなりだもの。
それにほかのみんなだって同じでしょ。」
女は悪びれる様子もなくいった。
「そう、コイツは人より速かったというだけで
他の人も結局は同じように他人を支配することを選んだ。
そうして支配された人は自分より下を作るために更に人を支配する。
そして気づいたらこの通りです。
人は最底辺を抜け出すためなら他人を犠牲にできる。
この状況はそんな人の醜さが生み出したんですよ。」
差形は楽しそうに語った。
「それでもきっかけを作ったのはお前だ。
人々を狂わせたのはお前だ。」
「だけど狂ったやつらはそれでいいと思ってるんですよ。
こいつらは自分たちが他人の上に立っているこの状況、優越感を
もう手放せない。それでもみんなを解放しろと?」
「当り前だ。お前に支配された人たちも元は良い人だったはずだ。
きっと元の生活に戻れるし、分かってくれる。
何よりお前は危険すぎる。」
「そうですか。
まぁ、僕を何とかしたいならその前にここにいる全員を何とかしてからに
してくださいね。
どうせ僕には敵わないですけどね。」
そう言うと差形は大きな声で村中の人へ向けて叫んだ。
「僕たちの王国を滅ぼそうとするやつらがいるぞ!
みんなを元の生活に戻そうとしている!
今の生活が奪われてしまうぞ!
さぁ、みんなどうする!!」
すると、村中の人が立ち上がり叫び始めた。
「反逆者を殺せー!!」
「戦えーー!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
村中の人間が3人へに敵意を向けた。
「そんなウソだろ…」
「どうするんすか先輩!!」
「一般人には手を出せないでしょ!
とにかく今は時間を稼ぐしかないわ。
結界を張るから中に入って。
そしてトーアはスキルの準備をして!」
そう言うと、トキナは術式陣が書かれた布を足元へ広げた。
「スキル『結界術』、第一技能:『断界防陣』!」
トキナはスキルを発動させた。
「ちっ、やるしかないか。
これから俺はスキル発動の準備に入る。
トキナはスキル使用中で動けない。
あとは頼むぞザッシュ!!」
そしてトーアは右手を突き上げた。
「スキル『界門の守人』よ、世界の門を開け!」
突き上げた手の甲が光り、少しずつ模様が浮かび上がっていく。
そして村中の人が3人へと襲い掛かってくる。