5話:侵略村③
入界管理局のトーア達の部屋
シュンッ!
部屋が光り、トキナとザッシュが現れた。
「いやー、間一髪だったわね。」
「相変わらずスゴイ技っすよね。この瞬転結界ってやつ。」
「でも、術式陣が必要だから事前に書いておいた布や紙を持ち歩かなくちゃいけないから大変なのよね。」
戻ってきた2人はのんきに会話している。
俺はすぐに2人に駆け寄った。
「大丈夫か!?怪我は無いか?何があった?」
「そんなに慌てないでよ。怪我なんてないわよ。
ワタシもザッシュもこの通りピンピンしてるわ。」
「そーっすよ。ほんとトキナ先輩の事となると大げさっすね。」
「ザッシュ、てめぇ。変なこと言ってんじゃねぇよ。」
「あれぇ、トーアそんなに私のことが心配だったの?」
「ち、ちげぇよ。」
「トーア先輩、照れなくてもいいっすよ。」
「はいはい。おしゃべりはそのくらいにして。
実際、あなたたちはスキルを使って帰ってきた。
つまりスキルを使わざるを得ない状況に陥った。違う?」
「そうですね。」
「とにかく何があったか報告してちょうだい。」
「分かりました。
結論から言うと、今回の一件、黒幕はサガタという異界人でした。」
「やっぱり、異界人が絡んでいたのね。」
「はい。そして何らかのスキルで村人を支配しているものと思われます。」
「支配?操られているということ?」
「操られているというより、脅されて仕方なく従っているといった方が近いかもしれないです。」
「脅されて?でもその場にサガタは居なかったのよね?」
「はい。村の人もそこではサガタではなく別の男を恐れているようでした。」
「別の男?おい、まさかそいつも異界人なのか?」
「多分、違うと思う。
でも、明らかにそいつと村の人との間には上下関係があるように見えたわ。
そして一番上にサガタがいる。そんな感じだと思うわ。」
「でもそうなるとサガタのスキルが予想しにくいわね。
シンプルに相手を操る類のスキルの可能性もあるし、呪いのようなものによる
死の恐怖で相手を従わせている可能性も否定できないわね。」
「はい。私も同感です。
とにかくサガタは何らかの方法で襲った村の人を支配して
その人たちに別の村を襲わせる。そしてそこの村人をも支配する。
それを繰り返して、配下と領土を拡大している。
ヒューブリッツは今まさに、1人の異界人によって侵略されつつあります。」
「なるほどね。報告ありがとう。事態は思ったより深刻そうね。
このままだと、ヒューブリッツの王都が襲われるのも時間の問題ね。」
「でもいくら何でも、ただの村人に王都を落とすなんてできるっすかね?」
「おそらく無理でしょうね。
それでも利用されているだけの罪のない村人が大勢傷つくことになるわ。
王都の人々も無事では済まないでしょうね。」
「それにもし王都にサガタが現れたら、王都陥落も全然考えられる話だろ。」
「確かにそーっすね。それで結局どーするんすか?」
「そうなる前に、サガタを送還するしかないわ。
私の方からヒューブリッツへ連絡して軍の協力を要請するわ。」
「軍の協力が得れ次第、トーア君、トキナさん、ザッシュ君の3人には
異界人サガタの元へ向かってもらいます。」
「分かりました。でもサガタいると思われるギゼルへ行くには
サガタの支配域と思われる村を2つは経由しないといけないですよね?」
「そこが問題なのよね。
ヒューブリッツ軍に護衛をしてもらうことになるでしょうけど、
それだと1つの村を抜けるだけでかなりの時間がかかってしまうわ。」
「とにかく3人はいつでも出発できるように準備だけはしておいて。」
「了解です!」
「了解しました!」
「了解っす!」
翌日、ヒューブリッツと正式に協力して異界人サガタの対処にあたることが決まった。
「ヒューブリッツ軍は支配された村の奪還にあたり、
異界人サガタの対処については私たち入界管理局に任せたいとのことよ。」
「それはいいんですが、結局ギゼルまでの移動はどうすんですか?」
「そこは、ヒューブリッツの軍属魔導士が協力してくれるそうよ。」
「えっ、ヒューブリッツに転移魔法がつけるほどの魔導士いましたっけ?」
「いえ転移魔法ではなく浮遊魔法であなたたちをギゼルまで運んでもらうわ。」
「空からってことっすか?」
「そういうことになるわね。
だからギゼルまで向かうのはあなたたち3人だけになるわ。
異界人だけでなく村人も相手にしなくちゃならない過酷な任務になると思うわ。
それでも行ってくれる?」
「俺は行きますよ。異界人を返せるのは俺だけなんですから。」
「何カッコつけてんのよ。アンタ1人で行ったってすぐやられるだけじゃない。
もちろん私たちも行くわよ。」
「とーぜんっす。」
「ありがとう。では3人は直ちにヒューブリッツ王都へ出発して。」
「了解!」
そして3人はヒューブリッツ王都へ向けて出発した。
ヒューブリッツ王都では軍司令ディント・バールが出迎えてくれた。
「よく来てくれた。私はヒューブリッツ軍司令ディント・バールだ。」
「入界管理局所属 トーア・メギスです。」
「同じくトキナ・マギスフィアです。」
「同じくザッシュっす。」
4人は挨拶と共に握手を交わした。
「物々しい雰囲気だろうが勘弁してくれ。
入界管理局から異界人による侵略の話を受けてから、
王都はずっと厳戒態勢なんだ。」
「とんでもないです。それより状況は?」
「うむ。今のところ侵略行為は確認されていないがネコンの動きが
少し慌ただしくなっているようだ。
侵攻に向けて軍備を強化しているのかもしれん。
こちらとしては奪われた村を取り返すべく、部隊を各村へ向かわせている。」
「なるほど。
ただ村の人たちは異界人によって無理やり働かされている可能性が高いです。
なるべくその、穏便に済ませていただきたいです。」
「はっはっはっ!分かっておるわ。
兵士たちにはなるべく手荒な真似はしないように伝えてある。」
「そうですか。」
俺はホッと胸をなでおろす。
「ところで私たちを浮遊魔法でギゼルまで送っていただけると伺っているのですが。」
「その通りだ。わが軍所属のレシュトル・ガイプが貴殿らをギゼルまで飛ばす」
「レシュトルです。よろしくお願いします。」
「村へ送った部隊も明朝にはそれぞれの村に到着する。
貴殿らにはそれに合わせてギゼルへ向かってもらう。」
「分かりました。」
「恥ずかしい話だが我が国では異界人に対抗することができない。
全ての村を奪還できても、異界人が残っていれば再び支配されてしまうだろう。
図々しい話だが貴殿らにすべてを託すほかない。
何としても異界人を倒してくれ。頼む!」
「分かっています。そのために私たちが来たのですから。
それと異界人は倒すのではなく元の世界に送り返すだけです。」
「はっはっはっ!居なくなってくれるならどっちでも構わん!
さっ、ここまでの道のりも疲れただろう。
今日はゆっくり休んでくれ。」
3人は用意された宿へ向かい荷物を下ろす。
そしてその夜、3人で夕食を取った。
「いよいよだな。」
「そうね。」
「そうっすね。」
「ディント司令も言っていたが、この国の未来が俺たちの双肩にかかっている。
何としてもサガタをこの世界から追い出すぞ!」
「何を気負ってるのよ。アンタがそんな難しいこと考える必要ないのよ。
自分が生き残るために異界人を追い出す。それでいいのよ。」
「そうっすよ。リラックスっすよ、リラックス。」
「お前らなぁ!
いや、そうかもな。どっちにしろ生きるか死ぬかだ。
よし、明日は3人揃って生きて帰る!いいな!」
「当り前よ!」
「とーぜんっす!」
夕食を取りながら、3人は決意を新たにした。
そして決戦の日を迎えた。