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異界強制送還  作者: ヤッスー
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正義の視点㉑

男はすぐさまは腕を振りほどき反論した。


「いきなりなんですか?英雄ベイリー?何を言ってるんですか。

 人違いじゃないですか?急いでるんでこれで。」


男はそのまま立ち去ろうとする。


「気づいてましたか?今この広場全体に特殊な結界を張っていたんですよ。」


トーアが後ろから男の後を追いながら話し続ける。


「強力な魔力の反応を感知することができるんですよ。」


男が立ち止まる。


「公爵が倒れる直前に異界人のものと思われる強力な魔力反応がありました。

 ここまで言えばわかりますよね?

 まだ言い逃れしますか?ベイリーさん。」


「結界か。まさかそんなものまであるとはね。

 あなたは急いで魔力の反応があった僕のところまで来たんですね。

 たった一人で。」


男から凄まじい圧力が放たれる。


「それは認めたということでいいですね?

 異界人ベイリー。」


「だったらどうしますか?

 この世界の人間がたった1人で異界人を相手に何ができるんですか?

 僕はもう行きます。ついてきたら殺します。」


ベイリーは再びその場を後にしようとする。


「やっぱり、良い人ですね。ベイリーさん。」


トーアは構わず話し続ける。


「あんたのしてきたことは到底許すことも見逃すこともできない。

 だけど、そこにはあなたなりの善意を感じたのも事実。

 それはここの人たちの反応を見ればわかる。

 連続殺人犯を英雄だなんてな。」


「君は話が分かるようだ。

 そうですよ。僕はこの国の、この町の人々を救うために行動しただけです。

 他人をモノのように扱う、醜悪な貴族連中。

 フィクションや歴史でしか聞いたことのないような

 そんな奴らを目の前に見て見ぬふりなんてできなかった。

 この力で人々を救え、そう言われている気がした。」


ベイリーは動機を語った。


「分かりますよ。

 あんたはこれまで俺たちが相手をしてきた異界人とは違う。

 その強大な力に飲まれず、この世界の人間を見下すこともなかった。

 だからこそ、お願いします。

 このまま、おとなしくあんたの世界に帰ってくれませんか?」


ベイリーは眼を閉じ、ひと呼吸した。


「ほかにもこの世界に来ている人がいたんですね。

 そしてどうやらこの世界の方々に迷惑をおかけしているようだ。

 同じ世界の人間のとして謝罪します。

 だけどそのお願いを聞くことはできません。」


「理由を聞いても?」


「僕にはこの世界の人々を救うという使命があるからです。

 僕達の世界でもずっと昔に貴族や奴隷がいました。

 きっと今のこの国のようだったのでしょう。

 しかし今の僕達の世界には貴族も奴隷もいません。

 貴族や奴隷による社会なんて長続きしないんです。

 いつかは破綻する。そして多くの犠牲の上に崩壊する。

 僕達の世界と同じ歴史をたどることになる。

 でも、僕のこの力なら市民の犠牲を出すことなく革命を成功させることができる!」


「なるほど。

 確かにあんたからすれば俺たちの世界は遅れているように見えるだろうな。

 それに異界人の力をもってすれば、単騎での革命も可能かもしれない。

 だけど、それは俺たちの世界にとって良いことなのか?」


「同じ結果になるなら犠牲は少ない方が良いに決まっている!」


「確かに結果だけを見ればそうだ。

 だけどその過程を無視して良いのか?」


「どういうことですか?」


「あんたの世界で起きた革命について俺は何も知らないけどさ、

 革命ってのは弱い立場にありながら

 命がけで世の中を変えようと立ち上がった者、

 どれだけ犠牲が出ても革命の火を絶やさぬよう戦い続けた者、

 そう言った人たちがいたから成し遂げられたんじゃないのか?」


「そうだとも!

 数えきれないほどの犠牲が出た。

 僕ならその犠牲を出さずにやり遂げることができるって言ってるんだ!

 僕は正義を為す人間だ!」


「違うだろ。

 多くの犠牲の上で自分たちの力で勝ち取るからこそ、勝ち取った社会を、平和を守ろうと

 必死に考えて協力できるんじゃないのか?

 お前みたいな突出した能力を持つ人間によって与えられた社会なんてなんの価値もない。

 確かに皆、泣いて喜ぶだろうな。

 そしてこう考えるんだ。『何かあればまたベイリーさんが何とかしてくれる』ってな。」


「くっ!でもっ!

 たとえそうだとしてもこれから多くの血が流れることが分かっていながら

 見て見ぬふりをしろっていうのか?」


「そうだ。黙って見なかったことにしろ。

 あんたの世界はそういう悲劇を経て発展し、先進的で平和な社会になったんだろ?

 だったらその悲劇すらも社会の発展のために必要なプロセスなんだよ。

 俺たちの社会の成長の機会を奪わないでくれ。」


「君はなんて冷徹な人間なんだ!

 自分がこの国の人間と無関係だからそんなこと言えるんだろ!」


「あんたが俺のことをどう思うが構わない。

 だけどこれだけははっきり言わせてもらう。 

 あんたがやろうとしていることはただの善意の押し売りだ。

 有難迷惑ってやつだよ。」


トーアの発言を聞き、ベイリーは怒りに震えた。


「お前のような冷血漢がっ!

 僕の正義を否定するな!!」


「それは誰のための正義だ?

 自分の力をひけらかしたいだけじゃないのか?

 あんたの英雄願望のためにこの国を利用するな!」


「しゃべるなぁ!!」


取り乱すベイリーをよそにトーアは畳みかける。


「残念ながらこの国では奴隷の存在も貴族の振る舞いもすべて合法だ。

 むしろ自分の価値観で貴族を殺しまわったあんたは連続殺人鬼、ただの犯罪者だ。」


その言葉を聞いた途端、ベイリーが崩れ落ちる。


「僕が…。

 犯罪者?

 僕はただ弱者を食い物にする権力者が許せなかった。

 この国の人を救いたかったなんだ。」


「やり方は認められないが、

 あんたがこの国の人を救おうとしたその気持ちは本物だ。

 だけど、この世界の人を信じてくれないか?

 異界人の力なんて借りなくても

 自分たちの力だけであんたの世界に追いついてみせるさ。」


「でもそれだと犠牲が…。」


「犠牲は無駄なのか?

 本人は覚悟のうえで後に託して逝くんだぞ。

 そんな人の思いも無駄なのか?

 その尊い犠牲が後の世を切り開くんじゃないか?」


「そう、かもな。」


ベイリーにつらい過去の記憶がよぎる。


人助けがしたくて、犯罪者が許せなくて警察官になった。

同僚の汚職を知り、告発しようとした矢先に

口封じで殺害された。

笑った同僚の顔が最後の景色。


「僕は元の世界で死んでここに来た。

 僕は元の世界に戻った時、どうなっているんだい?」


「…。

 わからない。」


「そうか。

 だけど、もし元の世界でもう一度生きられるなら

 このチャンスを無駄にせず今度こそ社会のために正義を為すよ。」


ベイリーは晴れやかな表情をしている。


「では、これより

 あんたを元いた世界へ送り返す。

 俺の手を握ってくれ。」


トーアは右手を差し出した。

ベイリーは黙って手を握る。


「じゃあな。」


「あぁ、君たちを信じているからね。」


「分かってる。きっといい世の中にして見せるさ。

 元気でな。異界送還!」


広場の騒動で周囲が騒然している中

ベイリーは光に包まれ、人知れず自分の世界へ帰っていった。



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