1話:異界人ミカゲ①
「トーア君、仕事よ」
「了解です。今回はどんな異界人ですか?」
俺はトーア・メギス。
ユニオンと呼ばれる超国家組織の入界管理局という部署に所属している。
今、俺と話しているのは先輩局員のナヴィー・ティンベル。
報告が上がってきている異界人問題のとりまとめなどを行っている。
「まだ詳細は分かっていないの。
ついさっきストラトス帝国のエリンという町に異界人が出現したらしいわ。
ここからも近いから直接、調査しにいってちょうだい。
必要ならそのまま元の世界に送還してもらって大丈夫よ。」
「マジですか。嫌ですよ。
正体不明の野放しの異界人に接触するなんて自殺行為じゃないですか。
まずは調査員を派遣した方がいいと思います。」
「大丈夫よ。
件の異界人が出現してから1時間ほど経っているけど特に暴れたりする様子は無いそうよ。
調査員は今、出払ってしまっているの。あなたが行ってくれたら手っ取り早いでしょ?」
「そうですけど…。万が一にも俺がやられるわけにはいかないじゃないですか。
異界人をもとの世界に送り返せるのは俺だけなんですから。」
「もちろんトーア君一人では行かせないわ。
ザッシュ君あなたが一緒に行ってあげて。
何かあったらトーア君を守ってあげて。」
「エッ、オレっすか。
トーア先輩は守れるかもしれないっすけど、オレが死んじゃうっすよ。
局長は居ないんすか。局長が行けば安心じゃないすか。」
「局長はユニオンの局長会議で今は居ないの。
それにザッシュ君なら簡単には死なないわ。
期待しているからお願いね。」
「期待っすか!?ナヴィーさんにそう言われると弱いっす。
ここは腹を括っていきましょう!!トーア先輩!!」
「ザッシュ、お前ほんとに大丈夫なんだろうな?」
俺たちがそんなやり取りをしていると隣の席から
「あんたたち何をグダグダ言ってるのよ。
トーアも後輩の前でゴネて情けないわね。
さっさと行ってきなさいよ。」
コイツはトキナ・マギスフィア。
俺と同期の局員だ。
「トキナか、そんなこと言うならお前が行けばいいだろ。」
「ワタシが行ったって仕方ないでしょ。
アンタを守ること異界人を送り返すこともできないんだから。
それとトキナさんね!!ワタシの方がアンタより年上なんだから。
いいからさっさと行ってきなさいよ。」
「うるせぇなー。分かったよ。
ザッシュ行くぞ!」
「ストラトス帝国内に入ったら帝国の兵士が現場まで案内してくれるわ。
気を付けてね。」
「了解です。」
~ストラトス帝国領内~
ザッシュと二人で帝国兵士と落ち合う場所まで来ていた。
「今回の異界人ってどんなヤツなんすかね。
今のところヤバいヤツではなさそうっすけど。」
「さぁな。ただ気だけは抜くなよ。
どんな奴だったとしても俺たちに勝ち目はないんだからな。」
「分かってるっすよ。ただ死んでも先輩だけは生きて返すんで安心してくださいよ。」
「ふざけてんなよ!お前も一緒も一緒に戻るんだよ。
くだらないこと言ってないで、もうすぐ合流の時間だからちゃんとしてろ。」
「ウィーっす。」
そのまま少し待機していると、ストラトス帝国の兵士たちがやってきた。
「お待たせして申し訳ありません。
入界管理局の方達で間違いないでしょうか。」
「間違いありません。
入界管理局所属トーア・メギスです。よろしくお願いします。」
「同じくザッシュです。」
「私はストラトス帝国軍所属クレイン・ヴォーグルです。
よろしくお願いいたします。
本日は私含めて6人でお二人をエリンまでお連れさせていただきます。
早速、出発しましょう。」
そうして帝国兵士6人と馬車でエリンまで移動することになった。
馬車に揺られることおよそ20分
~ストラトス帝国領エリン~
「お待たせしました。エリンに到着しました。
異界人の現在地は把握済みですのでまずは我々で異界人を取り囲みます。
お二人にはそれまで付近で待機していただきたいと思います。」
「それは大丈夫ですが、よろしいのですか?
相手は異界人、最悪皆さん命を落とすことになりますよ。」
「覚悟の上です。お二人を死なせるわけにはいきませんし、
何より国民の安全を守ることに命を懸けれずして帝国の兵士を名乗れません。」
「分かりました。
では我々は皆さんが異界人を包囲してから接近することにします。」
「よろしくお願いします。
よし、我々はこれより3人2グループに分かれて前後から異界人を取り囲む。
ただし必要以上に相手を刺激しないように!!
行動開始!!」
帝国兵士たちが行動を開始した。
エリン市街、異界人は何食わぬ顔で歩いていた。
帝国兵士に気づいたのだろうか、異界人は道の端へ寄っていく。
「先輩、あれが今回のターゲットっすか?
なんか普通の男っすね。」
「ナヴィーさんの情報によるとまだこの世界に来たばかりらしい。
ひょっとするとまだスキルのことを何も知らないのかもしれないな。」
「まじっすか!?今ならオレにも倒せるっすかね?」
「おい、勘違いするなよ。
俺たちは異界人たちを殺したいわけじゃないんだ。
俺たち入界管理局は危険人物とみなせば元の世界に送り返すが、
害無しと判断できれば制限付きでこの世界に留まることを許可している。
もちろん入界管理局の管理下でな。
今回の俺たちの任務は異界人を入界管理局まで連れ帰ることだ。
それを忘れるなよ。」
「分かってるっすよ。冗談すよ、冗談。
先輩が元の世界に送り返せるのは1日に1人っすもんね。
より危ないヤツから送り返すって話っすよね。」
「ああ、あれは疲れるからなぁ。
できれば俺たちの管理のもとこの世界でおとなしく生活してもらいたいよ。」
「そーっすね」
そんな話をザッシュとしているうちに
帝国兵士が異界人を取り囲んだ。
「どうやら出番みたいだな。
ザッシュ、行くぞ。油断するなよ。」
「了解っす!」
ザッシュと2人で異界人へと近づく。
そして異界人と向かい合う。
「あなたのお名前といつからこの世界にいるのか教えてください。」
異界人へと問いかける。
入界管理局お決まりの質問だ。
しかし、返事がない。
異界人は戸惑っているようだった。
「先輩、やっぱりコイツ言葉分かってないんじゃないっすか?」
「そのようだな。
ただ黒髪、黒目にあの肌の色、似たような異界人を知っている。
ここは俺に任せてくれ。」
そう言って、過去の記憶を頼りに改めて異界人に問いかける。
「ニホンジンカ?」
俺の問いかけに異界人は大層驚いたようだ。
「日本人!日本人!!」
興奮気味に異界人が答えた。
「ステータス、ヒライテ、スキル、ツカエ」
俺は続けて言った。
これ以上のこの言語の言葉を俺は知らないし、この言葉の意味も正しくは理解していない。
ただ、ニホンジンという種族ならこの言葉でスキルの取得方法を理解しこちらの言語を理解するスキルまで取得できるようになるようだ。
「:@+、ステータス?
ステータス…、;@.:?+.`。
ステータス%$+,.?;」
何を言っているかわからないが「ステータス」という単語だけは聞き取れる。
「ステータス#$#&.;:@&!!!!」
突然、異界人が興奮気味に叫んだ。
そして何もないにも関わらず顔の前で手を動かし始めた。
「#$&.;@.:.;@#$&$!"*+>`<@;
"#"#%"#&$<+#$``"<+$&"`+L$
<&%+><%'%#<$`<%$><'+$,;,.!!」
異界人が何かを言った、次の瞬間。
「あのー、すいません。言葉分かりますか?」
異界人が話しかけてきた。
どうやらこちらの言葉を取得したようだ。
「どうやらスキルを取得できたみたいっすね。先輩!!」
「そうみたいだな。まったく突っ立ったままスキルを獲得できるなんてつくづくふざけてるよな。」
改めて異界人に問いかける。
「さて、それではまずあなたのお名前といつこの世界に来たのか答えてください。」
「名前は御影 永太です。来たのはついさっきですよ。
そんなことよりスキルの使い方教えてくれてありがとうございました。
日本語どこで覚えたんですか?」
異界人は答えた。
どうやら嘘はついていないようだ。
「あなたみたいな人はほかにもいるんでね、そんなことよりミカゲさん。
来たばかりのところ申し訳ないのですがあなたには元居た世界にお帰りいただきます。」
そう異界人へ伝えると、兵士たちが構える。
「えっ?えぇぇぇ...」
異界人は戸惑っているようだ。
これは俺、トーア・メギスと入界管理局の面々がこの世界へ無断でやってきた異界人を相手に奮闘する物語だ。