10話:侵略村⑧
入界管理局局長 レヴァン・カリバール。
この世界の人間で唯一、異界人に対抗し得るといわれるこの世界最強の戦士だ。
差形は少し、驚いたように見えたが構わず魔力を放とうとした。
「誰だか知らないけど、馬鹿なやつだ。
悪いけどお前も巻き添えだ!」
また、あの強力な魔力の放出が来る。
誰もがそう思った。
しかし、魔力が放たれようとするその瞬間!
スパンッ!
気づくとレヴァンは差形の横を通り過ぎ、差形の両手が宙に舞っていた。
そして差形は両手首から大量に出血し、ザッシュを襲っていた魔獣は全て倒れている。
「ぐあぁぁぁぁぁ!」
差形の絶叫が鳴り響いた。
そんな差形の悲鳴を聞いて、差形を助けようと群衆がレヴァンへ襲い掛かろうとする。
「驚いたな。やはりただ操られているだけではないのか。
手荒な真似はしたくなかったが仕方ない。
スキル『戦鬼』第二技能『六識断ち』」
そう言うとレヴァンは右手に持つ剣を左から右へ水平に振りぬいた。
すると群衆が次々と意識を失い倒れていく。
「さて、静かになったところで異界からの来訪者よ。
お前の蛮行もここまでだ。
悪いがおとなしく元の世界へ帰ってくれないか?」
レヴァンは剣を鞘に納めながら差形へ言った。
差形が痛みに耐えながら、無言でレヴァンをにらみつけた。
「フゥー、フゥー。
(役立たずどもめ!
元の世界へ帰れだと?ふざけるな!!
せっかくこの世界に来て僕の時代が来たんだ。
あんな世界に戻るくらいなら死んだほうがましだ!)」
差形は急に訪れた窮地にどう対応するか考えを巡らせた。
そして同時に元の世界での生活を思い返した。
"日本 某市
僕は高校に通う普通の学生だった。
「おーい!差形ー、なんか飲み物買ってきてくれよ!」
「あっ!私の分もオネガーイ。」
「じゃあ、私も。」
「俺のも頼んだー。」
「あっ、あのなんで僕が?」
「なんでって、のどが渇いたからに決まってるだろ?」
「いやそうじゃなくて…」
パンッ!
男子学生が僕の頭をはたいた。
「いいから早くいって来いよ。
お前はこのクラスのパシリ担当だろ?
役目はしっかり果たさなきゃな?」
「そんな…。じゃ、じゃあせめてお金を…。」
「後で払うから立て替えておいて。」
「そんなこと言ってこの前だって結局払ってもらってない…。」
「なぁ!!今俺たち話してるのが分からないかな?
鬱陶しいから早くいけよ!
金もあとで払うって言ってんだろ。
前の分も後で払うんだよ。
これ以上、グダグダ言ってるとまた痛い目に遭うぞ」
僕は自腹で人数分の飲み物を買って教室へ戻った。
「差形おせぇよ!早く飲み物ちょーだい。
俺のど渇いたわ。」
僕は飲み物を配った。
すると1人が文句を言いだした。
「うわっ!お茶かよ。センスねぇなー。
今は炭酸が飲みたい気分なんだよ。
買いなおしてきて。」
「えっ、この前炭酸買ってきたらお茶が良いって言ってたから…」
「その時はお茶の気分だったんだよ。
今はどう考えても炭酸だろ。まじセンスねぇな。
なぁ、みんなもそう思うだろ。
今お茶は無いよな!!」
一瞬クラスが静まり返るがすぐに同調する声が挙がった。
「ほ、ほんとに差形はセンスないなー。」
「ね、ねぇ。」
「だよな。おまえほんとにセンスないわ。
ハハハハハ。」
コイツが笑い出すと次第にクラスからも笑い声が上がり始めた。
「は、ははは」
そう、コイツは上位カーストにいるいわゆる陽キャってやつだ。
コイツがいるグループがこのクラスのカーストの頂点であり、
皆こいつらに嫌われないように同調し、目を付けられないようにしている。
そんな中で僕は、このクラスカーストの底辺となってしまった。
理由なんてない。気づいたらそうなっていた。
友達だと思っていた人たちも僕と同じ目に遭うことを恐れて
上位カーストの連中に同調した。
仕方がないことだとも思った。
しかし、僕が一番驚いたのは彼らの変貌ぶりだ。
初めのころは申し訳なさそうに
言われるがまま僕をこき使ったり、弱めに叩いてきていた。
しかし次第に彼らの表情から自責の念が消え、
嬉々として僕を攻撃し始めた。
僕の友達も元々は僕と同じどちらかといえば
馬鹿にされたり、叩かれたりする側の人間だ。
でも、初めて明確に僕という自分より下の存在ができ、
何をしても反撃されないという状況になった時、
その優越感や人を他人を虐げることへの快楽を覚えてしまったのだ。
この時、僕は気づいた。
所詮人間は他者を蹴落として誰かの上に立つことに快感を覚える生き物。
自分の身を守るためなら、友達だって平気で虐げる生き物なのだと。
そうして地獄のような学校へ通い続け、心身が疲弊しきったあの日
何を考えていたかはもう覚えていない。
おそらく、どうやってこれからの日々を乗り切っていくか考えていたのだろう
毎日通っているはずの学校の階段で足を踏み外してしまった。
そこからの記憶はもうない。
気づけば、神だと名乗る女の前にいて
言われるがままこの世界に来た。"




