9話:侵略村⑦
トーアのスキル発動までの1分間。
命がけの攻防が始まる。
トーアのスキル『界門の守人』、異界人の脅威からこの世界を守ることができる
世界でただ一つのスキル。
その中でも第一技能:『異界送還』は自身の持つほぼすべての魔力を使い
2つの世界を繋げる門を開ける。
しかし、そのためには十分な魔力を右手へ集めて門を開く力へ変える必要がある。
このためにトーアはおよそ90秒の間、
集中して魔力を右手へ集め続けなくてはならない。
そして今、十分な魔力が右手へチャージされるまであと1分となった。
ザッシュが差形に渾身の右ストレートを放つ。
クリーンヒットしたように見える。
しかし、差形は微動だにしない。
「ふっ、この世界の人間の攻撃では異界人を倒すことはできないですよ。
それに君のスキルは、守りに特化している。でしょう?」
「そりゃあ、バレるよな。
それに俺の攻撃がお前に効かないことなんて承知の上なんだよ!」
ザッシュは構わず攻撃を続ける。
差形は一切防御をせず、それでも無傷で悠々と話し続けた。
「君さっきまでと口調が変わってるよ。
あの後輩ムーブはもういいのかな?」
「敬語は尊敬している人たちに対して使うものだろ。
お前なんかに誰が使うか!」
「敬語?君あれが敬語だと思って話しているのか?
君ちゃんとした教育を受けていないのかな?」
「余計なお世話なんだよ!!」
『異界送還』のチャージ完了まであと50秒、差形はいまだに無傷だ。
「さて、君との会話も十分楽しんだし、君が守ろうとしているあの後ろの2人…。
何か企んでいるでしょ?
放置したっていいけど、これ以上は手間を取らされたくないし
つぶさせてもらうよ。」
差形がザッシュを無視し、トーア達を狙う。
「だから!お前の相手は俺だって!」
ザッシュが再び、差形の前に立ちはだかる。
「君はもういいよ。」
差形は煩わしそうに火球をザッシュへと放った。
火球はザッシュに直撃した。
しかしザッシュは無傷だ。
第一技能『堅牢身躯』
「へぇ、これも耐えるんだ。
じゃあこれはどうかな。」
差形は火球をザッシュへと連発した。
すさまじい爆発が起こる。
差形が先ほどと同様、人差し指をトーア達へと向ける。
再び光線が放たれようとする。
その時、黒煙からザッシュが現れサガタの腕を殴り狙いをそらした。
「まさか、これでも倒れないとは…」
「これくらいどうってことねぇ!
それよりお前も攻撃的なスキルを持っていないんだろ?」
「なんだと?お前ごときが分かったようなことを言うな!」
「おいおい、落ち着けよ。
お前こそさっきまでと口調が変わってるぜ。」
差形は何かを言おうとしたが、一度深呼吸をすると冷静にこう言った。
「君の言うとおりだ。僕は少し熱くなり過ぎていたようだ。
僕の本領は支配。僕らしい戦い方をしないとね。
スキル『支配者』第3技能『完全支配』!
出ておいで僕の忠実な僕たちよ!」
すると村の奥から10体の魔獣が現れ、ザッシュへ襲い掛かる。
「驚いたよ。動物が魔力のある世界ではこうなっているなんて。
百獣の王なんて比にならないほど強くて獰猛だ。
完全に支配できるなら人間なんかよりはるかに有能だ。
君は1人でこの子たちと遊んでいればいい。
それにもう舐めプはしない。
もし君が受け止めたとしても君ごと後ろの2人を吹き飛ばす。」
そう言うと、差形は両手を前に突き出した。
「スキル『支配者』第四技能『王の徴収』!」
差形の手の前に魔力が集まってゆく。
「さっきと同じ純粋な魔力の放出。
だけどさっきの細い1点集中した、貫通を目的としたものとはわけが違う。
膨大な量の魔力放出だ!」
「あいつ、自分の味方も巻き込むつもりか。
くそっ!魔獣が邪魔で近づけない。
そもそもこの魔獣たちが相手じゃ俺自身も危ない。
トーア先輩、トキナ先輩!!」
群衆に包囲されているトーア達は事態に気づいていない。
「ザッシュ、あと20秒持ちこたえくれ。」
「トーア、周りの人たちの様子が少しおかしいわ。
動きが鈍くなってる気がするわ。」
差形はトーア達めがけて魔力を放つ。
トーア達を取り囲んでいた群衆が逃げて、トーア達からも強力な魔力の光線が視認できた。
「なんだよこれ!くそっ!。」
トーアとトキナは迫りくる魔力を前に目を閉じる。
魔力がトーア達へ直撃する!
かと思えた。
「なんだ。何が起きたんだ。」
トーアが目を開けるとそこにはザッシュがいた。
ザッシュが膨大な魔力の光線をその身で受け止めていた。
「ザッシュ!!」
「先輩方、何をあきらめてんすか!
俺がいる限り、2人に手出しはさせないっすよ!!」
ザッシュの第三技能『刹那無双』。
毎秒、すさまじい勢いで魔力を消費するが
魔力が続く限りザッシュの肉体は無敵の肉体となる。
膨大な魔力をその身に受け続けるザッシュ。
「そんなバカな!この威力の攻撃を受け止めるなんて!
だけど長くはもたないはずだ。このまま消し炭にしてやる。」
差形は魔力を放ち続ける。
「ザッシュ、お前大丈夫なのか?」
「すいません。正直限界っす。
これもあと数秒しか耐えれないっす。
だからあいつがこの威力の魔力をそれ以上長く
放出し続けられたら俺たちの負けっす。」
「大丈夫だ。この威力の魔力、いくら異界人とはいえ限界が近いはずだ。」
魔力の放出が止む。
そして同時にザッシュが膝から崩れ落ちる。
両者同時に限界を迎えたのだ。
「ザッシュ!!ありがとう。
お前のおかげでここまで持ちこたえられた。
サガタももう限界だ。あとは俺ら2人任せろ。」
トーアは倒れているザッシュへ呼びかける。
「スキル『支配者』第四技能『王の徴収』」
差形がつぶやく。
すると村の人々が次々と倒れていく。
そして差形がみるみる元気になっていく。
「ハハハハハハハハ!
やっと倒れたかこの肉壁。
それにしても残念だったな。
僕は魔力が尽きても僕の配下の連中から補給できるんだよ。」
絶望と共に差形の高笑いが村中に響く。
差形が再び、魔力を放とうとする。
「そんな…。これまでなの?」
トキナは心が折れかけている。
「くっそーー!!」
トーアの叫びが鳴り響く。
全ての希望が絶たれたかと思った、その時。
ドーン!
トーア達の前に何かが飛来した。
土煙の中に人影が浮かぶ。
「なんだ、誰だお前は!」
差形は焦ったように叫ぶ。
土煙が収まり、人影の正体を知ると
トーアとトキナは安堵の顔で叫んだ。
「局長!!」
そこには入界管理局局長 レヴァン・カリバールの姿があった。
『異界送還』のチャージ完了まであと10秒。




