善蔵を思う(三)
全四回連載の三回目です。
太宰治は葛西善蔵の文学碑を郷里・津軽に建てる夢を抱いていたという。やはり同郷で、太宰と親しく、後に「桜桃忌」の命名者となる作家今官一によると、死後も世俗に見放された、敬愛する先輩作家の不遇に義憤を感じ、「俺たちの手で、善蔵の碑を建てるんだ」と気炎を上げたという。ともに32歳の時(「善蔵を思う」執筆の頃か)のことで、土地の選定、碑の文章など話は進み、5年後に建設する計画だった。
ところが、ある日のこと、太宰から次のような手紙が届いたという。
善蔵碑は、よく考えてみたら、どうも僕はもう五年では、おぼつかない。もう十年、といふことはにしませう。さうでないと、どうも僕は、善蔵にすまないような気がしてならない。もう五年くらいの苦労では、善蔵碑を建設する資格に於て欠けるところがあるやうだ。もう十年経てば、君も僕も四十二歳になる。善蔵の没した年齢だ。僕は、それまで『出世』に於ては、ちっとも加えるところ無いだらうが、でも『苦労』に於ては、多少、善蔵に対しても、てれずにすむやうな気がする。どうだらう。十年後、といふことにしませう。
(今官一「碧落の碑」)
善蔵より遙かに“出世”した太宰だが、善蔵の没年まで生きながらえることはなかった。享年38歳。
実際に善蔵碑が郷里に建立されたのは1956年、太宰没後8年のこと。少年時代を過ごした母の実家のある平川市碇ケ関の眺めのいい公園内だという。
椎の若葉に
光あれ
親愛なる椎の若葉よ
君の光の
幾部分かを
僕に恵め
(椎の若葉)
さらに30年を経て、生誕100年を記念し北海道の山深い滝のほとりに文学碑が建立されようとは、太宰も善蔵本人も、夢にも思っていなかったことだろう。
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