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本当に駄目な奴だなぁ

作者: 秋暁秋季

注意事項1

起承転結はありません。

短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。


注意事項2

渇愛している訳ではなく。

ただ愛される事に気が付くことは無く。


私の仲間達は歴戦の猛者達だった。華々しい功績を上げる花形の人外ばかりだった。だから、何時も自分の存在意義を問いかける。『私が居なくとも構わない』と。故に誰とも話さずに、一人で暮らして行った方が、仲間の為にも、私の為にも良いのでは無いかと。

それを確信に変えたのは私がミスを犯して、仲間であり、上司でもある彼が責任を負った時の事だった。上の者から怒鳴り声を浴びせ掛けているのを、私は黙って見ることしか出来なかった。

悪いとは思っていたが、拘束時間から放たれてから、私は足早に自分の部屋に引き篭った。

あぁ……地味で目立たないからこそ、ミスを犯すと浮き彫りになる。そうして何時も責任は彼に与えられる。気分が元に戻ったら、世話になった皆に離れる事を告げよう。それで大丈夫。私の事で怒られる必要はない。

そう部屋の隅で体育座りしながら沈んでいると、ドアの叩く音がした。直ぐに誰だか分かった。

「時間が無いんだ。開けなければ壊して侵入するが」

しっとりとした低音が板一枚を通して聞こえてくる。声は務めて冷静ではあったが、意味を読み解くと静かなる怒りが見て取れる。恐らく開けなければ本当にドアを壊して入る。

渋々立ち上がり、僅かばかりに隙間を開けて外の様子を伺った。その途端、彼は無理やり体を捩じ込ませ、猫のように部屋に侵入した。

暗がりながらも、彼の威圧感は凄まじいものだった。部屋の奥に引っ込みたくなる気持ち抑え、竦む足を叱咤する。じゃないと倒れてしまう。

「皆、心配している。お前のことだ。必要以上に気に病んで、部屋に引き篭っているのでは無いかと。でも私達が慰めに行ったら、より悪化させてしまうと」

恵まれていると思う。仲間達に。もっと責めて良いんだ。こんな落ちこぼれの欠陥品、さっさと廃棄してしまえば良いのに、絶対にそれをしなかった。みんな困った顔で腫れ物に触るように、私を丁重に扱ってくれた。

「抜けようと思って。この仕事」

「お前は本当に駄目な奴だなぁ」

「貴方にそう言われると、本当に安心する」

傍から見たら異常な光景に思えるかも知れない。けれども慰められたくて落ち込んでいる訳ではない。本当はもっと出来るんだ。なんて欠片も思っていない。だから慰めは不要だった。今の私に必要なのは、ただ静かなる咎。駄目な人間だとちゃんと受け入れて欲しい。その上で、傍にいて欲しい。

「派手者、曲者ばかりだ。俺達の面子は。その中でいぶし銀の立ち位置を担う輩が必要なのに、何故自分の価値を理解しないのか」

「やっぱり引き立て役は必要?」

すると彼は物凄く苦々しい顔をして、頭を抱えた。そりゃ金剛石の中に石ころが入るのは非常に不服でしょうよ。

「……お前がそれで抜けることを考えなくなったのなら、それで良い。持ち場に戻るぞ」


「私達が好きに動けるのは、全部裏であの子がサポートしてくれてるから何だけどねぇ」

「表には絶対出さないけど、滅茶苦茶ネガっ子で、人知れず落ち込むところがなければもっと良いんだけどねぇ」

そう、本当に困った事に、あの子は無口かつ無表情。本当に助けて欲しい時に、助けてと言えない様な子だった。ネガっ子だと気が付いたのも、荷物をとりに遠方の裏側へ行った時に発見した時だった。弱みを見せるのが嫌いなのだとその時に知った。

「励ましても、慰めても、あんまり響いてなさそうだし、結局効果はないから、今回も上に任せるか……」

慰めた時に、励ました時に、沢山のお礼も言ってくれる。大丈夫そうな、ひっそりとした笑みも浮かべてくれる。けれども目に光は無かった。強すぎる光は時に影を強くする。だったら強すぎる影をぶつければ良いという私達の総意である。あの人は人を動かす事が上手いから。

「何時の日か、自分自身も大切に出来ると良いんだけどねぇ」

「戻ったぞ」

「あ、良かった。良かった。これからご飯行くんだ。君も行くでしょう?」

「うん。面倒臭くなったら、何時でも切り捨てて良いから。それまでの繋ぎだと思ってくれれば」

湿度の高い所がバレてからは、少しだけこんな後ろ向きな所を晒してくれる様になった。所謂開き直り、と言うやつで。なお、この時の表情。ほの暗い光を宿している。なんなら少し嬉しそうでもある。君って奴は……。

「やはりお前には見張りを付けておくか……」

吹奏楽やった事ある方はお分かりかと思うんですけど、この子のポジションは低音ポジです。

主旋律を担当することは少ないですが、ないと困る。

絶対居ないと困る、いぶし銀です。

低音って、ひっそりと目立つないイメージなんですが、ミスをすると本当によく目立ちます。

周りから『えっ( 'ω')エッ…』という視線を集めます。

怖いですね。怖かったですよ。


この子は別に誰かに構って欲しくて、落ち込んでる訳ではありません。

だから人前で沈みませんし、一人で落ち込みます。

慰めて貰っても、励まして貰っても、本当の意味では嬉しくは無さそうです。

『駄目なやつ』と言われて、『否定せず、受け入れて貰えた』と思うような子です。


たまにはこんな湿度の高い慰めがあっては良いのではないかと。

でもそれが出来るのは、本当に人の事を理解している人だけなんですよね……。

良い上司だと思います。勿論、仲間達も。

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