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 舗装、建物、住人達。

 全てが真新しくて、視覚が不協和音に軋む。


 数年後、駅に降り立った僕を、街は肯定的な余所余所しさで迎えてくれた。復興の最中にいなくなった僕の身勝手な疎外感なんて、誰も知ったことではないだろうけれど。


 小綺麗なタイルを散りばめた歩道。頻りに違和感を訴える土踏まずを黙殺して、海沿いの道を辿る。案の定、ピアノバー兼住居だった構造物は取り壊され、こぢんまりとしたワンルームマンションが取って替わっていた。暫く眺めていると、ゴミ捨てに出てきた若い女性にじっと見つめられる。学生だろうか。それとなく視線を逸らして、その場を離れた。


 彼の携帯電話は、随分前に解約されている。住民票も途中までしか追えなかった。


「どこに行きやがった、あの無能」


 戸建て住宅の間隙から狭い階段を縫って山手へ。うなじに刺さる日差しに閉口して、ジャケットの襟を立てる。頬に汗が伝う頃になって、ようやく高台の鳥居が見えてきた。


 掃き清められた境内を踏んで、本殿の前に立つ。久方振りの参拝を終えて振り返ると、地元の住民と思しき軽装の老婆が参道を辿ってくるのが見えた。目礼を交わして、擦れ違う。


 少し歩いたせいか、腹が減っていた。思えば、新幹線の車内で軽食を摂ってから、何も口にしていない。昔の癖で、駅前へ足が向いた。商店街に行けば、何か食べ物にありつけるだろう。そして、新しい住処を探すついでに、あの不動産屋を訪ねてみよう。


 彼を、積極的に探す気はなかった。

 この街でピアノの音色を辿れば、どうせそこにいるだろう。


 いまだ復興途上の下町で、あの日の続きに潮騒が鳴っている。




(了)

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