第86話 千人家のチャーシューメン
「いやあの、ウービーです」
麗奈は言った。
チッ、こっちは仕事中なんだよ。
邪魔すんな。
麗奈はそう思った。
「ウービー!? おかしいだろ、ここダンジョンの地下八階だぞ!」
市生がいきりたつが、麗奈はつとめて冷静に言った。
「はい、だから報酬が高いんす。あの、もう行っていいすか? 今回の注文、千人家のチャーシューメンなんすよ。のびると評価さげられちゃう」
市生は剣を抜いた。
「そんな馬鹿な話があるか! ダンジョンの下層階でウービーイーツを頼むやつがいるわけない! さてはお前、敵だな! 先生! こいつ、やっつけましょう!」
石郷丸もブラックアックスを構えて、
「そうだな。おそらく、こいつは人間に化けるタイプのモンスターだ。今ここで殺しておかんと、あとでどんなことになるかわからん」
麗奈は深くため息をついた。
ダンジョンへの配達は報酬が高いけど、こういう奴がいるから厄介なのだ。
モンスターなら殺せばいいが……。
人間相手となると、そんな気軽に殺すってわけにはいかない。
麗奈は殺人鬼でもなんでもないので、無駄な人殺しはしたくないタイプだった。
それに、このブラックアックスを持っている戦士は、けっこうな高レベルだ。
後、奥にいるヒーラーの女性も、すでに防御魔法をはっているところを見るとかなりのベテランだろう。
麗奈は進路をはばむパーティメンバーを見渡すと、一番弱そうなやつをめがけてダッシュした。
「……!?」
僧侶の、遊斗だった。
麗奈に対して、一番反応が薄かったのだ。
遊斗の目の前まで来ると麗奈はその場でジャンプし、天井にぶら下がる。
「まずい! 瑞葉、攻撃魔法を!」
市生が叫ぶ。
だけどもう遅い。
この程度のレベルの僧侶の動きなど、見極めるまでもなかった。
麗奈は天井から手を離し、遊斗の頭頂部を蹴ると、さらに大きくジャンプ。
パーティから距離を取る。
「じゃ、配達があるんで、私はこれで……」
だが。
馬鹿にされたと思ったのか、遊斗が顔を真っ赤にし、メイスを手に襲い掛かってきた。
馬鹿な奴。
おとなしくしていれば、無事ですんだものを。
「やめろ、遊斗!」
石郷丸の叫びが響き渡ったころには。
すでに遊斗の首が飛んでいた。
世界最高峰の一角であるニンジャ、麗奈にとってはその辺の高校生など敵になるわけもなかった。
やばい、殺しをしてしまった……。
……無駄な人殺しをすると気分が悪くなるからな。
なんとか蘇生できないかな?
麗奈は遊斗の生首を持って、最下層を目指した。
「遊斗ぉぉぉ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
市生と瑞葉の叫び声を背中に聞きながら。
★
「で、こうなったわけやな」
ご先祖様の目の前で、鼻の先に人間の首を二つつけたミカハチロウがパオーンと鳴いた。




