第74話 幻惑魔法
気を失った瑞葉に市生たちが襲い掛かったその直後。
いきなり、市生たちがいるのと反対方向の壁が崩れた。
「な、なんだ!? モンスターか!?」
瑞葉の血で濡れた剣を構える市生。
だが、崩れた壁の奥から現れたのは、二人の人間だった。
身長190cmはあるがっしりとした体つき、巨大な斧を持っている大男と、すらりと細い腰の杖を持った女性。
市生はその二人を見て、歓喜の声を上げた。
「石郷丸先生! それに、流川先生!」
「おう、清野。無事だったか」
市生たちが通う高校の教師、石郷丸と流川美子だった。
「大丈夫か? 清野に、篠田に、三上……無事でよかった。ケガをしているのは島原瑞葉か? モンスターにやられたのか?」
「は、はい、そうなんです!」
と、すぐさま流川が杖を振るう。
「慈愛の女神の心の星よ、星の光で傷をふさげ、痛みを飛ばせ! 大治癒ー!」
するとあっという間に瑞葉の傷がふさがっていく。
同時に、瑞葉は意識を取り戻した。
「せ、先生……。助けに来てくれたんですね……。こ、こいつらが……こいつらが私を食べようとして襲ってきたんです!」
石郷丸と流川は顔を見合わせる。
「どういうことだ?」
そこに遊斗が慌てたように答える。
「じ、実は! モンスターに幻惑の魔法をかけられたみたいで! 勝手に身体が動いて……瑞葉を攻撃しちゃったんです……すまん、瑞葉! モンスターの魔法のせいで! モンスターの魔法にやられてしまったせいとはいえ、とんでもないことをしてしまった! すまん! 瑞葉、許してくれ! でも悪いのはモンスターだ!」
市生と篠田も同調する。
「悪かった瑞葉。モンスターの幻惑魔法にやられちまうなんて俺もどうかしてたぜ……もちろん、悪いのはモンスターなんだが」
「俺もすまなかった……モンスターの幻惑魔法があんなに強力だとは……くっ、なんてひどい幻惑魔法をかけるんだ、あのモンスター。許せねえ」
瑞葉は顔を引きつらせて、
「なに言ってんの! あんたら正気だったでしょうが! 私の血を飲んで肉を食べようとしたでしょ! この基〇外!」
「そうか、瑞葉、お前も幻覚を見させられてたんだな……。俺たちが正気のままお前を食うわけないじゃないか……。それより先生、食料と水をもってませんか?」
★
「うーん、さんざんここまで描写しておいて基〇外を伏字にする意味はあるんだろうか」
思わず俺が呟くと、ご先祖様が蒲焼さん太郎をチュパチュパなめながら、
「確かに基準がわからんなあ。それより、あの二人、かなりの手練れやで。やるならこっちも全力が必要や。どうする? ほのか、あいつらもやってええのんか?」
ほのかさんはずずずっとティーバッグの緑茶をすすって答えた。
「あの二人、市生とみのりが理事長の子供だからってえこひいきして私をいじめてたんだよ……。ふう……。………………やっちまいな!」




