第67話 兵糧攻め
市生たちは慎重に地下四階を進んでいく。
「うぇぇ、髪の毛に蠅がからまって……」
瑞葉は先ほどから長い茶髪をバサバサとはたいている。
小部屋がいくつも並んでいる階層。
ドアを開けるたびにモンスターが現れるが、どれもこれも弱いやつばかりで市生たちの敵ではない。
地下五階へつづく階段のある小部屋、その手前で、事件は起こった。
部屋に四人が入った瞬間、背中でバタン! と扉が勝手に閉まり――そして、すうっと消え去った。
「な、なんだ!?」
篠田が慌てて扉があったはずの場所を確認する。
そこにはただ壁があった。
そして。
階段がある部屋へ続くはずの扉が、そこにあるはずの扉がなかった。
「な……!」
市生は絶句する。
これは……。
閉じ込められた!
★
「うーん、ただ閉じ込めるだけでマPを全部使っちゃったなあ」
俺はモニターを眺めながら、しるこサンドをみのりの口に押し込んでいた。
なにしろ、人間から電源をとるのもいいけど、その人間の体力と魔力が電気の源だ。
定期的に食わせないと、すぐに電源切れになってしまう。
だから、みのりを仰向けに寝かせて口を開かせ、そこにポイポイとしるこサンドを投げ入れているのだ。
「ほら、食え食え。いっぱい食え」
「モシャモシャ……あの、口の中が……水分取られて……お水……」
俺は無視してさらにしるこサンドを押し込む。
「うふー、むふー、むふー」
おっと詰め込みすぎたぜ。
このままじゃ窒息死させちゃいそうだ。
俺は上からペットボトルの水をみのりの口の中に上から流し込む。
「げほっ、ごほっ、ぐぼっ、ごぼぼぼ……」
今度は溺死しそうになっている。
「なんや、吐き出してもうてるやんか。あたしの貴重なおかしを分けてあげてるのに、失礼なやっちゃ。そういやレイシアにもなんか食わせんといかんな。おい、レイシア、食いたいもの、あるか?」
「い、いや、今食欲なくて……」
「お前、人間を食うんやったな?」
「ま、まあ、えへへ……」
「よっしゃ、どこを食う? ふともも、二の腕、どこでもええで。内臓は駄目だ、みのりが死んじゃうからな」
それを聞いたみのりは、慌てて口の中のものを飲み込んで叫んだ。
「許してください! ごめんなさい! ほのかさん、ごめんなさい! 助けて! 食べられたくない! 食べられたくないよぉ……! ふぇぇぇん……ほのかさん、いじめてごめんなさぁい……許して……反省しましたからぁ……」
それを見たほのかさんはうんうんと満足気に頷いてる。
「だいじょうぶだよみのりちゃん。私はもう許したから。でもねえ……。ひとつ、聞いてもいい? 女の子をさらってレイプして子供を産ませて産まれた赤ちゃんをこのレイシアに食べさせた、までは聞いたけど。じゃあそれで頭がどうかしちゃった女の子はそのあとどうしたの?」
「ごめんなさぁい……もうしません……許してぇ……」
泣きじゃくっているみのりは答えるつもりはなさそうだ。
「おい、レイシア、どうなんだ?」
俺がレイシアに改めて聞くと、
「えへへ……それは、まあ、私が食べたというか……」
「どうやって? 嘘ついたらミカハチロウと交尾だぞ」
「どうやってもなにも……人間の脳みそって、生きたままスプーンですくって食べるととてもおいしくてですね……。これがおもしろいもんで、すぐには死なないんすよね。食べる部分にもよりますけど、けっこう意識は残ってるんですよ。目の前で自分の脳みそが食われてるところを見ながら死んでいくなんて、なかなかできない体験ですよね、えへへ……その顔を見ながら食べる脳みそはほんとにおいしくておいしくて……」
いやー、これはなにがどうあっても許されないなあ。
と、そこにご先祖様がなにかチューブみたいなのを持ってきた。
「なんですかそれ」
「ふふふ、レイシアは食欲がないそうやからな。これで胃の中に直接栄養を送り込んでやるんや」
それを聞いたレイシアが逃げようとするが、まだ彼女の尻に入ったままのコードをガシッとつかんでずるずるとひっぱりながらご先祖様がニコニコ顔で言った。
「しあわせもんやなあ、あんたは。なんであれ、栄養がとれるんやから。みてみぃ、あいつらを。食いもんなしで、何日もつやろなあ……」




