第60話 おっぱいの生産品
「慎太郎君……来てくれてありがとう……」
ほのかさんの頬を涙が一粒流れた。
俺は光るその雫を人差し指で拭ってあげる。
「慎太郎君……」
「ほのかさん……」
見つめあう俺たち。
「ちょーとちょっと待って? なんでそこいい感じになってんの?」
桜子がハッピーターンをバリボリ食べながら言った。
「せやで。助けたのはあたしやからな。あたしに感謝せえ」
ご先祖様はおばあちゃんのぽたぽた焼きをかじりながら言う。
「そうだよね、ちゃんとお礼しなきゃ。桜子ちゃんもミカハチロウもありがとう」
鼻がタコの足になっているミカハチロウは、ほのかさんに撫でられて、
「パォーーン」
と嬉しそうに鳴いた。
「いや待て、なんであたしを飛ばしたんや。まったくもう……ご先祖様は大事にせなバチがあたるでしかし」
「えへへへへへ、冗談です」
ほのかさんは手を伸ばしてご先祖様の持っている袋からポタポタ焼きを一枚とりあげると、それをバリバリ食べながら、
「ご先祖様もありがとうございます。バリバリボリボリ、ご先祖様が来たとき、助かったーって思って、すっごくうれしかったんです、バリボリバリボリ」
「まあそれならええ」
お礼の仕方が雑な気もするけれど、ご先祖様がそれでいいというならいいのだろう。
で、俺は部屋の片隅を見た。
そこには二人の少女が正座させられていた。
黒髪姫カットの人間の女子高生と、頭に角が生えた紫色の髪の毛をしたモンスター――ここのダンジョンマスターだったやつだ。
聞くと、黒髪姫カットの方はほのかさんをレイプして出産させて子どもをエサにしようしたやつらの一味らしい。
しかも、女子高生の制服のままだ。
普通そんな恰好でダンジョンには潜らないもんだけど、ここのダンジョンマスターと通じていたから安全を確信していたんだろうな。
「ほのかさんをレイプさせようとしたなんて、許せないよなあ。で、そこのモンスターは名前、なんていうの?」
俺が聞くと、モンスターはボソッと、
「レイシア……」
と呟いた。
お、なんかファンタジーっぽくていい名前だな。
髪の毛も紫色だし、似合ってるな。
ご先祖様が言う。
「こいつがここのダンジョンマスターやったんやが、あたしがやっつけた。次のダンジョンマスターだけど、あたしはもう隠居の身だから、慎太郎、お前がダンジョンマスタ―やれ。あたしは高見の見物といくわ」
「俺がダンジョンマスター?」
「せや。ほのかを殺そうとしたやつらがいるやろ? この、ミノリとかいう女、そのリーダーの妹らしいで。絶対に奪還に来る。きっちり落とし前つけてやらんとな」
と、そこに、桜子の方をちらちら見ながらほのかさんが俺の耳もとでささやいた。
「あいつら、最高に憎い……。私をあんな目に合わせて……。ね、慎太郎君。もしあいつらをやっつけてくれたら……桜子ちゃんに内緒で……私のおっぱいを領地にしていいよ」
ん?
領地?
領地ってなんだ、どういうこと?
徴税権をくれるってこと?
おっぱいの税金ってなんだ?
「……それって、触ってもいいってこと?」
「……吸ってもいいよ。あと、おっぱいの生産品も慎太郎君に納税するから」
おっぱいの?
生産品?
それって?
まさか、母乳か!?
ちらっと桜子を見る。
ハッピーターンを食べるのに夢中で聞いてないみたいだ。
「……出るの?」
「まだ出ないけど、出るようなこと、慎太郎君なら……しちゃってもいいよ……」
俺はキリッとキメ顔を作ってご先祖様に言った。
「やりましょう。ほのかさんの敵は俺たちの敵です!」




